陰キャになりたい女騎士さん
阿賀岡あすか
第1話 闇魔術師エレノアは陰キャである①
~大丈夫? あなたは陰キャじゃない? 陰キャ診断テスト~
1、他人と一緒にいると、何をしていても疲れてしまう。
2、嫌われるのが怖い。嫌われるぐらいならば人と関わらない方がマシという思考になりがち。
3、卑屈でネガティブ思考。他人を過大評価する癖に自分を過少評価しがち。
4、親切心を素直に受け取れない。何か裏があるのかと勘ぐってしまう。
5、「ボッチの方が自由だし。楽しいし。人と関わって自分の大切な時間を無駄にするとか馬鹿じゃんw」などと、友達を作れないのではなく、友達をあえて作っていないのだと自分を正当化することがある。
6、あいさつが出来ない。
7、写真を撮られるのが苦手。
8、人と目を合わせられない。
9、人と関わった後は、何故か凹む。脳内反省会をしがち。
10、彼氏彼女を作るのが絶望的。
……どうでしたか? 7個以上当てはまった人は陰キャの可能性が非常に高いです! 無理して陽キャを目指しても痛々しい結果になるのは明白なので、身の丈合った人生を選択してはどうでしょうか?(笑)
…………イラッ☆
僕は偶然目に留まった雑誌の特集に目を通し、キョロキョロと周囲に誰もいない事を確認して――思いっきり地面に叩きつけた。
そしてすぐに雑誌を回収する。まだ最後まで読んでいないしな。こんな所にポイ捨てしたら誰かの迷惑になる。
怒りをぶつけたおかげで、心の中は非常にスッキリしていた。流石に晴々とまではいかないけど。
まぁ、僕は寛大な人間だ。この程度の陰キャ煽り、笑って許してやろう。ライターの名前はメモするがな! てめぇの名前はぜってー忘れねぇけどな!
……つーかこのライター、陰キャの複雑な心境に理解あり過ぎだろ。確実に同類だろ。陰キャが陰キャを馬鹿にする地獄みたいなマウントを目撃してしまった感がある。最下位決定戦よりも醜い争いは無い。
ああそうさ! 僕は陰キャだよ! 診断テストは余裕で全部当てはまってる。陰キャ界のエリート。持たざる者選手権の優勝候補。陰キャ過ぎてもはや妬むという感情を失いつつある悲しき闇魔術師。他の追随を許さない根暗っぷり。その上持たない事にアイデンティティを生み出そうとしちゃってるから救えない。
恋人どころか友達すらも脅威のゼロ。数学者からも嫌われる数字である。何を掛けてもゼロ、何を割ってもゼロ。……拗らせ過ぎてひょっとして僕は最強なんじゃないかと錯覚してしまうぜ。
最近人に発した言葉は料理屋でメニューを指さしながら「……あっあっ」です。どうぞよろしく。久々に言葉を発すると喉に何か詰まって上手く喋れないよね~!
きっと僕はまるで存在しなかったかのように、誰の記憶にも残らずに人生を終えていくのだろう。子孫を残せず、誰かと愛し愛されることもなく。誰にも悲しまれずに。自宅で動けなくなって死んで数週間後、異臭に気付いたお隣が通報して腐りきった僕の死体を雑に埋めるのだ。
そんな未来を容易に想像できてしまう事にちょっと泣きそうになる。
……僕は結局、何のために生きているのだろうか?
「…………あああぁぁぁあぁぁぁあああぁぁあ…………」
僕は椅子から重い腰を上げた。これ以上考えても良い事が一つも無いのは僕自身が知っていたからだ。
そして、最初はゆっくりと――息を整えてひと気の無い街を走り出す。
ネガティブな思考を打ち切る確実な方法は、へとへとになるまで走る事である。人間というのは不思議なもので、疲れると余計な事を考えなくなり、脳内から分泌される快楽物質により少しばかり前向きになる。正確に言うと考えなくなるのではなく、疲労により考えられなくなる訳なのだが。
――恋人は欲しい?
ノー。何故なら、僕のようなつまらなく協調性の無い人間が、人を幸せに何か出来る訳がないから。
――友達は欲しい?
ノー。何故なら、友達が欲しい欲求よりも、友達を失ってしまう恐怖の方が強いから。
――幸せになりたい?
イエス。誰とも関わらずに、でも幸せにはなりたい。
独りでいることは楽だけど、時々強烈な虚しさとやるせなさに襲われる。
「……矛盾してるよなぁ……」
僕のどうしようもない呟きは、誰の耳にも入る事なく風に流されて消えていった。
世の中には二種類の人間がいる。
陽キャと陰キャである。
正確に言うならば、陽キャとは陽気なキャラクターの略で、その対極の呼び名が陰気なキャラクター……という訳である。
明るい奴は陽キャ、暗い奴は陰キャ。今日はこれだけ覚えて貰えたら結構です。
……と、説明して矢先に言うのは少し躊躇われるのだけど、ぶっちゃけ十人十色な人間を二種類に分類する事なんて不可能なのだ。
外見や職業といった客観的に評価できるものならまだしも、陽気やら陰気やらそもそもこの二つの言葉がかなり曖昧だ。
何故なら、人間なんて誰かにとっては陽だったり陰だったりすることは至極当然の事だからなのである。
結局、どれだけ突き詰めた所で、陽と陰を分別するのは自分ではなく――自分と関わった他人なのだ。他人の心に介入する手段なんて、少なくとも闇魔術には存在しない。
例えばAさんが少し離れた小さな村の英雄で、強くて明るくて優しくて友人が多くて村の全員から陽キャだと思われているとしよう。そしてそのAさんが隣村にいるBさんに初めて会ったとしよう。
Aさん村では自他ともに認める陽キャだった。だがしかし、Aさんと初対面なBさんはどれだけ彼が陽キャなのか知らないし、出会った日がたまたまAさんの体調が悪くて暗い印象をBさんが受けてしまった瞬間、あっさりと彼は陰キャの烙印を押されてしまう。
全世界の人々に好かれる人間が存在しないように、気まぐれに絶えず形を変化する性格なんていう代物を何故カテゴライズしなければならないのか。
みんな違ってみんな良いとは言わない。良いの反対は悪いだからだ。マイノリティーは自覚しなければならない。少数派をゴリ押しした瞬間、それは悪となる。
だけどせめて、陰キャは陰キャとして身の丈に合った生活をしている僕みたいな人を、可哀想な奴だと否定するのはやめて下さい。泣いてしまいます。
ええい、しゃらくせぇ! 馬鹿馬鹿しい! 陰やら陽やら本気でどうでもいい。死ぬほどどうでもいい。こういうのが好きな奴らだけで、僕の知らない所で勝手に人間仕分け作業に没頭しとけとすら思う。
……なんてスッパリと切り捨てられたら良いんだけど――悲しい事に、『魔術師』にとって陰キャと陽キャは切っても切れない関係にあるのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます