幼馴染のアイツを救えるのは俺しかいない ~バッドエンドを回避するために、何度も何度も繰り返す時間の中でひたすらにアイツの為に手を尽くす~

紅狐(べにきつね)

プロローグ 最愛の人を守るために


――パァァン!


 教室に響き渡る銃声。

机で寝ていた俺は一発の銃声で目が覚めた。


 俺の目の前に銃を持った男が三人いる。

俺は夢でも見ているのか?


 教室はシーンと静まり返り、教壇の隣には先生が倒れている。

昼休みに自分の席でしっかりと爆睡してしまい、まだ状況が理解できない。


「お前らは人質だ。騒ぐな、話すな、動くな。死にたくなければな」


 黒板の前に立ち、リーダー格の男が低い声で話す。

恐らく本物の銃だろう。


 現に目の前で先生が赤い液体を流しながら全く動いていない。

まだ、死にたくない。まだ、やりたいことがある。

なんで俺がこんな目に……。


 軽く見渡すと、前と後ろの出入り口に一人ずつ、そして正面に一人。

逃げられない。

流石に三階の窓から飛び降りる勇気は俺には無い。


「良し、いい子だな。全員スマホを机に置け」


 俺を含め、全員が机にスマホを置く。

男の一人が袋を持ってきて全員のスマホを回収した。

これで外部との連絡は取れなくなった。


 警察も自衛隊も何をしている?

早く救助に来てくれよ。


「いいか、一人二人死んでも俺達には問題が無い。だから、無意味な抵抗はするな。死にたくないだろ?」


 全くその通り。俺はまだ死にたくない。

あいつに、まだ告白もしてないのに、こんな所で死ねるか。


 朝霧茜(あさぎりあかね)。幼馴染のあいつとは腐れ縁。

子供のころからずっと一緒で、親同士も仲が良い。

もう互いに高校三年だともいうのに、恋人の一人も作らず二人で部屋に籠ってゲームをする仲。

きっと、このまま何もなければあいつと結婚するのかもしれない。


 俺はそんな勝手な淡い希望を持ち、茜と今日までつるんできた。

きっと、あいつも俺と同じように考えているのかもしれない。


 遠目に茜が見える。

俺とは少し席が離れているが、ここからでも怯えているのが良くわかる。

なんせ教壇の目の前の席が茜の席なのだから。


「隊長、少し遊んでも?」


「またか? お前も好きだな。仕事に支障出すなよ」


 いかつい男がスマホの入った袋を隊長と呼ばれた男に渡し、何やら話している。

遊ぶってなんだ?


「グヘヘヘ、日本のガキは生(い)きがいいからな」


 何らや俺達を見渡している。


「お前だな」


 持っていた銃先には俺が。

この人数の中、俺が指名されてしまった。


「ぼ、僕ですか?」


「そう。お前だよ。第一号だ、おめでとう」


 まったくおめでたくない。

心臓が痛い。こんなに早く脈打つことなんてあるのかと言う位、心臓がバクバクしている。


 ゆっくりと近づいて来る男。

手にはハンドガン。多分、俺はここで死ぬのかもしれない。

嫌だ、まだ死にたくない!


「お前、このクラスに好きな女はいるか?」


 え? 男は変な質問をしてきた。

もしかしたら死ぬ前に、俺の想いだけでも伝えてくれるのかもしれない。

そう思ったら、自然と言葉が出てきた。


「俺は、このクラスの朝霧茜が好きだ。ずっと、好きだった……」


 男はニヤニヤしている。


「ほぅ、男らしいな。この状況で良く言えたもんだ」


 男は教壇の方に歩いて行き、再び俺達を見渡す。


「朝霧茜、どいつだ?」


 全員が言葉を発せず、目線を下げている。


「私よ」


 席を立ち、男に向かって声を上あげる茜。


「お前か、ほぅ。なかなかこれは……」


 品定めをするかのように男は茜を頭からつま先まで視線を上下させ、狂ったような目で見ている。


「あひゃ、いいね」


 男は茜の腕を取り、無理矢理引っ張る。


「痛いっ!」


「この位で痛がるなよ、これからもっと痛くなるんだ」


 背中に嫌な汗をかく。

もしかしたら俺はとんでもない事をしてしまったんじゃ?


「これから?」


「俺と楽しむに決まってるだろ?」


「抵抗したら?」


「この世とサヨナラだな」


「そう……。抵抗はしないからクラスメイトを助けてと言ったら?」


「ん? あー、良いだろう。助けてやるよ」


「そう。抵抗はしないから腕を離してもらえる?」


「随分素直だな。良いだろう」


 解放された茜はまっすぐに俺の目の前にやってくる。

そして、そのピンク色をした小さな口が開き、俺に話しかけてくる。


「片桐修平(かたぎりしゅうへい)君。私もあなたの事が好き。一緒に生きましょう」


 そして、柔らかい唇が俺の唇と重なった。

茜の頬には、涙の痕が。


「茜……」


「私は修平と一緒にいたい。好きだから」


 茜はその言葉を残し、男と共に教室を出て行った。

静まり返る教室。俺は、茜を生贄に差し出した。

茜はきっと逃げられないと思い、その身をささげたんだ、クラスメイトの命を助けるために。


 教室の外から茜の声が響いてくる。


『やめて! 痛いっ!』


『黙ってろって! すぐによくなるからよっ!』


『いやぁぁぁ!』


『ひゃっはー! やっぱ日本はいいなぁ! 最高だぜ!』


『痛い! やめて、痛い!』


『痛いのか? 俺は最高に気分が良いぜ!』


『あぁぁぁ! やめてぇぇ!』


 絶叫とも言える茜の叫び声。

俺は教室でその声を聞く事しかできないのか?

俺に、何かできる事は無いのか?


 どのくらい時間がたったのだろうか?

しばらくしてから、茜の叫び声は聞こえなくなった。

そのかわりに男の変な声が聞こえてきていた。


 茜の声はしない。


――ガララララ


「はー、すっきりだぜ!」


 引きずられるように戻ってきた茜はまるで人形のようだった。

制服もブラウスも前面のボタンが全て開いており、隙間から白い肌が見えている。

綺麗だったスカートも所々切れており、太ももからは赤い何かが垂れていた。


 制服についていたリボンもなくなっており、なぜか右手首に結ばれている。

そして、なにより綺麗だった茜の顔は殴られた跡のような痣ができている。


「うぐぅ……」


「なんだ? まだ痛いのか? ほらその辺で寝てよろ」


 茜を放り投げるように床にたたきつける男。

俺は拳を思いっきり握りしめ、やり場のない怒りをどうすればいいのか必死に考えている。


「おいおい、そんな適当に扱うなよ。海外に流せばそれなりに値が付くんだからよ」


「そうだったな。すまん、まだ生きているから大丈夫だろ」


「全く、お前ってやつは」



 リーダー格の男は葉巻に火をつけ、まだ俺達を監視している。

さっきから動きがほとんどない。

耳にイヤホンを付けているが、他の仲間と何かやり取りでもしているのだろうか。


「じゃ、次な。うー、お前だな」


 銃口を突き付けられたのは、前の席に座っていた生徒。

桃山晃(ももやまあきら)。俺とはそれなりに仲が良く、よく一緒にゲーセンに行っている。


「ぼ、僕ですか?」


「そう。お前、このクラスの女で好きな奴いるか?」


 さっきと同じ質問。答えたら茜と同じ目に合うだろう。

茜は床に転がったまま、身動きしていない。

生きているとは思うが、瀕死のようだ。早く、医者にいかないと……。


「ぼ、僕は他のクラスに好きな人が――」


「そっか、ここにはいないのか。じゃ、お前はいらないな」


――パァァン!


 目の前で桃山が崩れ落ちた。

至近距離で胸に一発。桃山は全く動かない……。


 混乱する。目の間で人が倒れていく。

落ち着け、ここで騒いだら逆効果だ。 

慌てるな、呼吸を整えるんだ。頭の中で整理しろ。

状況を考えて、周りを良く見ろ。騒いだらダメだ、落ち着くんだ……。


「次いくぞー! んー、お前かな?」


 再び銃口を突き付けられた生徒は同じく男子。

そして、同じ質問をして答えを聞こうとする。


「お、俺はそこの足立(あだち)さんが……」


 足立はあまり人気が無い。

根暗そうで、誰かと話をしているのを見た事が無い。

いつでも一人本を読んでいるイメージしかないが、足立の事好きだったのか?


「私? あなた、彼女がいるのに私の事好きなの?」


 足立は一人の少女を見ている。


「ちがっ! 彼女は俺と付き合っていない!」


「どっちが本当なんだ? 嘘だったら、さっきの少年と同じように天にいくだけだけどなー」


 銃を向けられている男子生徒。

その目は怯えきっていて、膝もガクガクしている。


「か、彼女は……。いま、す。あ、そこに……」


 指さす方向には一人の少女の姿が。


「いや……。いやぁぁぁ!」


 教室から出て行こうとする少女をみんなの目の前で羽交い絞めにする男。

腰にぶら下げていたコンバットナイフで少女の制服もスカートも切り捨てていく。


「やめて! 私は、まだ!」


「ひゃー! 関係ないね! これが、俺の仕事だ!」


 クラスメイト全員の見る中、裸にされた少女はその場に座り込んでしまっている。

泣きながらゆっくりと後退し、次第に角に追い込まれていく。


「やめて、お願い。何でもするから……」


「何でも? 何でもだなー! だったらこれを口に入れておきな!」


 男は拳銃の先を彼女の口に入れる。

少女は苦しそうな表情になり、もがいている。


「ぅ、あぅ、おぉ、あ……」


「聞こえないなー、ほらよ!」


 男は少女の首を持ち、廊下に出て行こうとする。


「ま、待って……」


 男の目の前に茜が立ちふさがった。


「さっき、抵抗しなかったら助けるって……」


「ん? そんなこと言ったか?」


「そ、そんなっ!」


「天に召されたんだろ? 十分助けてるさ。はははははっ!」


 男の胸ぐらをつかみ、殴りかかろうとする茜。

茜の拳が男の顎に当たる瞬間―― 


――パァァン!


 再び教室に銃声が響きわたった。

茜の胸に血がにじみ出す。


 俺は何も考えず、茜の隣に走り、そっと抱き上げる。

茜の目は焦点が合っていない。そして、にじみ出ている血の量が尋常じゃない。


「茜、茜! おい、聞こえるか?」


「修平? 修平なの? 私、修平の事、ずっと……」


 茜の目が閉じる、そして、俺の頬を触っていた手から力が抜けていき、茜は俺の目の前で息をしなくなった。

ちくしょう、茜が、俺達が何をしたというんだ!


 茜を床に寝せ、俺は目の前にいた男を後ろから殴り掛かる。


――パァァン!


 胸が熱くなる。

俺、も?


「ま、あの世で仲良くやりな。あーはっはっはっは!」


 目の前が暗くなっていく。

俺も、ここまでか。


茜。俺は、茜ともっと……。



――ジリリリリリ


 火災報知機のベルが鳴り響く。

物凄い音だ。訓練の時に聞いている音よりも激しい音の様に感じる。


 目が、開かなくなってきている。

倒れた茜、もう息をしていない。

でも、最後に、最後は茜と一緒に……。


 俺は全力で茜の隣に移動し、茜の手を取る。

そして、動かなくなった茜にキスをして、俺も目を閉じた。


 もっと、お前と一緒にいたかったよ。

お前もそう思っていてくれたら、嬉しいな……。



――ジリリリリリ


 鳴り響くベル。

俺の耳元で鳴り響いている。


「起きろ! まだ寝てるのか! 遅刻するぞっ」


 俺は勢いよく布団から飛び上がる。

目の前には鳴りっぱなしの時計を持ってる茜。

制服を着ており、生きている。


 俺は半分泣きながら茜に抱き着いた。


「茜! 茜! 生きてる、茜は生きている!」


「ちょ、ちょっと! なに朝かは発情してんのよ! さっさと、起きなさいよ!」


 時計を俺の顔面に投げつけ、茜は俺の部屋から出て行った。

夢だったのか? 夢だよな?


 制服に着替え、顔を洗う。

バッグを肩にかけ、いつも通り階段を下りていく。


「修平! 早く食べないと遅刻だよ!」


「わかってるって!」


 俺はトーストを片手に、玄関でまつ茜と一緒に学校に向かう。


「何で抱き着いてんのよ」


 隣で頬を赤くしながら俺に聞いてくる茜。


「変な夢見てさ」


 茜を見ながらパンをかじる。


―キーンコーンカーンコーン


 昼休み。弁当も食べ終わり、午後の陽気に勝てない俺は机を枕に昼寝タイム。

いい感じの気温と、窓から入ってくる風がいい感じだ。

平和って、良いよね……。


 うつらうつらしながら、お昼寝タイム。

おやすみなさい……。



――パァァン!


 教室に響き渡る銃声。

机で寝ていた俺は一発の銃声で目が覚めた。 

俺の目の前に銃を持った男が三人いる。


 は? これは夢か? 夢だよな?

なんで同じ夢を?


「お前らは人質だ。騒ぐな、話すな、動くな。死にたくなければな」


 ま、まさかまた同じ夢を見ているのか?


「良し、いい子だな。全員スマホを机に置け」


 そんな、セリフまで全く同じじゃないか。

夢、じゃないのか? 現実なのか?


 同じ時間をループしているのか?

そんな馬鹿な、そんな事はありえない!


「いいか、一人二人死んでも俺達には問題が無い。だから、無意味な抵抗はするな。死にたくないだろ?」


 夢を全く同じセリフ。

もし、夢と全く同じであれば、次は……。


「お前だな」


 やっぱり銃先を向けられた。


「ぼ、僕ですか?」


 とりあえず夢と同じ回答をしておこう。


「そう。お前だよ。第一号だ、おめでとう」


 夢と全く同じだ。

良く見ると同じ時間、同じ格好、全てが夢と一致している。


「お前、このクラスに好きな女はいるか?」


 セリフまでやっぱり夢と同じだ。

夢の中では俺はここで『朝霧茜が好きだ』と答えた。


 その先にあったのはバッドエンド。

もし、これが現実なら何とかしなければ。


 俺の回答次第では助かるかもしれない。

どう答えるのが良いんだ?


 茜をクラスメイトを助けなければ。

きっと、この状況は俺にしか、理解できていないはず。


 何か、道はあるはずだ。

待っていろ、俺は茜を助けてバッドエンドを回避してやる!




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