第4章 第14話 女の子の大切な物が奪われちゃったよー!

 気が付くと夜になっていた。

 うつ伏せに倒れていたアタシは手で体を起こすと、顔や服に着いた砂が落ちていく。

 右手で頬に付いた砂をはらい、あぐらをかいて座る。


「夜か……生きているって事は、フェニックスは倒せた、って事かねぇ」


 ふと右腕を見る。元通りだ。ナイフで切った部分を見ても、すでに傷跡すら残っていない。

 自然治癒? いや、やけに白いがなんだいこれは。そうだった、ヴァンパイア化していたんだったねぇ。

 立ち上がって体を確認するが、すでに体力は元に戻り、傷も無くなっている。


 ステータスを見てもオールクリア、HPもMPも全快だ。

 ひょっとしたら闇の支配者ヴァンパイア降臨インクルージョンは夜になったら能力の向上でもあるのか? いくらHPの自動回復があるとはいえ、腕まで再生されるのは行き過ぎだ。


 ステータスのどこかに書かれていないかねぇ……ん? これか? 【夜の帝王】。

 残念ながら効果までは分からないが、まるで飲み屋を渡り歩く酒豪か、夜の営みに強いヤツみたいな名前じゃないか。


 まあいい、鮮血のブラッディー精霊召喚エレメンタルはもういないし、アタシも帰るとしようかねぇ。





「戻ったよ」


 玄関を開けると皆が食事をしていた。

 ああ、今は夕食時だったのかい。


「お帰りなさいルリ子さん!」


 真っ先に飛び出してきたリアは、アタシの前で急停止した。

 ん? てっきり怪我をしてないか~とかいって、全身を触りまくるかと思ったが、どうしたんだろうねぇ。


「あの、ルリ子さん? そのお姿は……?」


「姿? アタシの美しさに惚れ直したかい?」


 体を見てみるが、特におかしなところは……足も腕も真っ白だ。


「ああ、闇の支配者ヴァンパイア降臨インクルージョンを掛けたままだったねぇ。待ってな」


 もう一度闇の支配者ヴァンパイア降臨インクルージョンを唱えると元の姿に戻った。

 それと同時に夜の帝王の名も消える。


「おいルリ子! 何だ今の! 教えろ!」


 次に駆け寄ってきたのはエバンスだ。こいつは相変わらずだねぇ。

 

「これはアタシでも完全に解明が終わって無いんだ、教えても使えやしないさ」


「それでも良いから教えろ~」


 随分と食い下がってくるねぇ、どうしたんだい?


「変身……カッコイイ……正義のヒーロー」


 ああ、こういう奴だったねぇ。


「ヴァンパイアだから正義のヒーローとは程遠いがね」


「ふぉ!? ダークヒーロー……イイ」


 何でもありなのかい。


「とりあえず腹が減ってんだ。メシ、食わせろ」


 あ~、1日ぶりの飯だ。腹に染みるねぇ。


「今回は随分と時間がかかったようだが、流石にフェニックスは手強かったか?」


「あん? 時間がかかったっていっても、精々2~3日だろう?」


「ユグドラが早朝に家を出てから、今日で13日目よ?」


 ……なに? 行くときには途中の街で1泊したが、帰りはゲートで戻ってきた。

 丸1日戦って、そして今じゃないのか?


「そうか、なら想像以上に治癒に時間がかかったんだねぇ」


「治療に10日もかかったって事ネ? 一体どんな大怪我をしたのか気になるネ!」


「ん~? アタシは右腕1本失っただけだが、ユグドラは毎度の全身火傷、ああ、そういえば今回はディータが死にかけだね」


「ちょっと待ってお姉ちゃん! ユーさんだけじゃなくて、ディータちゃんも大怪我したの!?」


「ああ、アタシもユグドラも死にかけたが、何とかなった。そうそう、メシ食った後で良いから、ディータの部屋に集まってくれ。リアとエバンスは魔法装備で、アニタは回復ポーションを何本か、ベネットは治療の準備を頼む」


 全員がメシを胃の中にかっこんだ。

 メシくらいノンビリ食ったらどうだい。




 食後のデザートも後回しに、全員にディータの部屋に連れていかれた。


「さあ! 早くディータちゃんに交代してください!」


 まったく、ウチの嫁は強引だねぇ。


「じゃあ2人は詠唱待機状態にしておきな、交代した瞬間に使うんだ、いいね」


 ベッドに横になる。


 キャラクターチェンジ

  ユグドラ

  ルリ子

  しずか

  番長

 ⇒ディータ

  メイア

 ◆ ルリ子 ⇒ ディータ ◆


 体が薄く光り、自分の姿がゆっくりと変わっていく。


 



「ん? ドコココ?」


 私が目を覚ますとベッドに寝てた。

 ん~? ああ、家に帰ってきたんだったね。

 おお~? おおー。なんだかスッゴイ怪我をした様な気がしたけど、五体満足でよかよか。

 しかし、なぜに私はすっ裸?


 は! 全身ツルッツル! 全身脱毛したみたいにキレイだ! うっはぁ~、なんだか知らないけど得した気分!

 うんうん、キレイさっぱりお毛毛が……!?


「おけけがなーい!!」


 頭にも! お股にも! 有るべき所に有るべき物がない!! なにコレ!

 全世界100億人の男子高校生の憧れの的、ディータちゃんの大切な物が奪われちゃった!!


「……ん? あ、ディータちゃんおはよう。体調はどう?」


 お毛毛が無くて気付かなかったけど、リアちゃんが床に布団を敷いて寝てた。


「リアちゃん! ディータちゃんの、ディータちゃんの大切な物が奪われちゃったよー!」


 リアちゃんに抱き付いて、柔らかな胸で泣きじゃくる。


「よしよし、大切な物が無くなっちゃったね。でも大丈夫、毛生え薬があるから、ディータちゃんも塗れば大丈夫だよ」


 毛のない頭をなでてくれた。

 うにゃん、リアちゃんの手が暖かい。アレ? コレなんてデジャヴ?


 



「あら、随分と早いお目覚めね。アナタの時はいっつも朝は遅いのに」


「ベネちーん! アタシの大切な物が無くなっちゃったよー!」


 リアちゃんと1階に降りると、朝食の準備が出来ていた。

 私はベネットちんに抱き付いて、リアちゃんよりも豊かな膨らみを堪能する。

 はふ~ん、大きいのは正義だね!


「あ、起きた。消し炭が起きた」


「エバっちー! ディータちゃんどうしよー!」


 エバンスっちの胸で泣こうとしたら、硬いものにぶつかった。

 ……うん。


「アニー! ディータちゃんを癒してー!」


「ちょっと待て! 今のは納得いかない!」


 エバっちがなんか言ってるけど、はふ~ん、アニタんも小ぶりながら良い感じ。


「甘えん坊さんだネ!」


「アズベルん! ディータちゃん悲しいよー!」


 と、アズベルに抱き付こうとしたら、リア・ベネ・アニの3人に肩を掴まれた。

 エバっちは両手で自分の胸を揉んでる。


「おいおい、パーティー仲間だぞ? 俺にもディータを癒す権利があるはずだ」


 両手を広げて待ってたアズベルんは、3人に(特にアニタ)に睨まれて小さくなってる。

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