第3章 第55話 なに用じゃ!特級冒険者になりたい?

「バンチョウ師匠はいずこー!」


 何も見ていない、何も聞いていない。さあ、家に帰るとしよう。

 目を合わせないようにギルドを出ようとしたが、残念ながら容姿端麗で神々しい光を放つアタシは目立つようで、あっさり見つかってしまった。


「おお! アナタはバンチョウ師匠の別の姿! お願いです! バンチョウ師匠に替わってください!!」


 アタシの進路をふさぎ、通せんぼをしている。

 チッ、面倒くさいねぇ、アタシは関係が無いんだから、さっさとどいてもらおうかねぇ。

 ヤクザキックで蹴飛ばし、ドアを破壊して外に転がって行った。


「まったく、か弱い乙女の前に突然現れるんじゃないよ。ビックリするじゃないか」


 壊れたドアをくぐり抜けて歩いて行くと、しつこい冒険者は足にすがり付いて来る。


「お願いです~、俺の将来のために替わってください~」


「お前の将来なんて知ったこっちゃないよ。何ならここで終わらせてやるぞ」


「ルリ子お姉ちゃん? 流石にそれはかわいそうだよ」


「だがねリア、アタシは家でのんびりお茶をしたいんだよ」


「じゃあ今日は腕によりをかけてお菓子とご飯を作るから、明日には番長さんに替わってあげられる?」


 ほほぅ、腕によりをかけてかい? それは楽しみだねぇ。

 メイアの指導もあって、リアの料理の腕は天下一品だ。


「仕方がないねぇ、それなら明日は番長でもかまわないよ」




 翌朝。


 キャラクターチェンジ

  ユグドラ

  ルリ子

  しずか

 ⇒番長

  ディータ

  メイア

 ◆ ルリ子 ⇒ 番長 ◆


 体が薄く光り、自分の姿がゆっくりと変わっていく。

 黒い長ランの背中には喧嘩上等けんかじょうとう、右胸には悪鬼羅刹あっきらせつ、左胸には魑魅魍魎ちみもうりょう、後ろが破れた学生帽をかぶったこのワシ、番長様の登場じゃい!


「それではギルドへ向かうとするかのぅ」


 昨日ルリ子の足にすがり付いてきた男、あ奴はたしか以前ギルドで鍛えてやった冒険者の一人じゃ。

 それなりの腕を持っておる男が、一体全体どうしたというのじゃ?


「おお! 師匠! 来てくれたのか、待っていたぞ!」


 ギルドの前で待ち構えていた男は走り寄ってきた。


「どうしたのじゃ? お主の将来にかかわるとは、ただ事ではないようじゃが」


「そうなんだ! 聞いてくれるかバンチョウ師匠!」


 ギルドに入ると朝の依頼ラッシュの時間じゃった。

 うむ、人が多いがチョイト場所を借りるとしようかの。


 1階のうすい仕切りがある打ち合わせ部屋に入り、長テーブルを囲んで座った。


「それで、何があったのじゃ?」


「バンチョウ頼む! もう1度俺を鍛えてくれ!」


 テーブルに手をついて頭を下げておるが、はて、いまの強さに不満でもあるのかのぅ。


「お主は十分に強いはずじゃが、お主でも倒せん相手でもおったのか?」


「いや、倒せない相手というか、頭の上がらない相手というか……?」


「なんじゃ、はっきりせんのぅ」


「結婚前提で付き合ってた彼女にプロポーズしたんだが、向上心の無い冒険者はイヤ! って言われたんだ」


 向上心の無い冒険者? その言葉にワシらは全員で頭をひねった。

 この男は向上心があるからワシの元で訓練をし、さらなる高みを目指しておるはずじゃが?

 その女子おなごは知らんのだろうか。


「おいおい、お前は武術大会の決勝大会常連で、さらに熟練冒険者でも名うてだぞ? それが向上心がないっておかしいだろ」


 アズベルのいう通りじゃ。

 十分な向上心と実力をもっておるのに、何が不満だというのか?


「それがな……特級冒険者にならないとイヤだと言われて……」


 特級冒険者。

 以前までは熟練冒険者が最上位じゃったが、ウチのメンバーが枠に収まりきらず、さらに他にも追随する者が現れた事で新設されたランクじゃ。

 今はユグドラとルリ子だけが持つ“自由”

 ウチのメンバーが該当する“覇王”

 元アズベルの仲間だった5人と、対ブラスティー戦で来てくれた船大工の老人2人、リアが働いていた飲食店の店長、魔法ギルドのエロ占い師が“特級”

 その下に“熟練”“上級”“中級”“初級”が来る。


 以前鍛えてやった連中はまだ特級ではないが、それに近い力があるハズじゃ。


「でも特級になるといってもハッキリとした条件は無く、高難易度の依頼を複数回1人で達成と言われているわ。私がいうのも変だけれど、並大抵の事ではできないのよ?」


「ああ分かってる。分かってるからこそ俺一人の力では無理なんだ」


「それでバンチョウに鍛え直してもらおう、って考えたんだネ」


 コクリとうなずく。

 そういう事か~。しかしその女子、随分と厳しそうじゃな。


「まぁ鍛えること自体は構わん。どうする? いつから特訓を開始する?」


「それなら今日からでも頼む!」


「おおぅそうか、なら今日から早速始めるとしようかのぅ。それでは皆の衆はどうする? また以前のようにワシ抜きで依頼を……何をしておるのじゃ?」


 立ち上がって掲示板を見に行くのかと思ったら、違う方向、地下訓練場への階段へと向かっておる。


「え? だって番長さんの訓練が始まるんでしょ? だから準備してるの」


「前回は1本も取れなかったからな、今回はそうはいかねぇ」


「バンチョウには叩きのめされてばかりだもの、今回は叩きのめすわ」


「久しぶりに全力で魔法を使える相手……ふふ、ふふふふふ」


「私もご相伴にあずかるネ!」


「えーっと、よくわからないけど、面白そうだから参加するの!」


 なぜか知らんが、ワシの訓練が始まるという噂は1日掛もからず、王都はおろか国中に広がった。

 翌日には、冒険者ギルドの地下訓練場に入りきらない冒険者が集まっていた。


 ……何百人おるのじゃ。

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