第3章 第37話 暗殺者:バカの一つ覚え

 私の目の前で立ち止まり、両手を上げてコブシを作る。


「しーんじゃえぇ!」


 体重をかけて拳を振り下ろして来たが、流石にそんな攻撃に当たるつもりは無い。

 上半身をひねると、拳は地面をへこませただけだった。


「これでも食らえ、文字通りな」


 爆弾ポーションを取り出し、大声で喚くアミックの口に投げ込むと、アゴと頭を両手で押さえ、顔面を地面に叩きつける。

 地面との衝撃で大爆発を起こし、アミックの顔は……なに?


「みみが~キーンって~するぅう~」


 少々バランス感覚を失っているが、無傷と言っていい状態だった。

 体内も……頑丈なのか。


「シッシッシッシ、あーっしはねぇ~、鉄の処女アイアンメイデンがある限り倒せないお?」


 鉄の処女アイアンメイデン、それがスキルなのか魔法なのか、防具なのかは分からない。

 確かにこのままでは倒せない。

 だがどうする? 私の最大の攻撃は弾かれて、さらに爆弾を食わせてもダメだった。

 毒を食わせても倒せないだろう。


 足と腰の怪我が治った。やはり酷い怪我はポーションだと時間がかかるな。

 

「そうか、矢が効かず、爆弾も効かないとなると、直接攻撃しかないな」


 足と腰を確認しながら立ち上がり、刀身が波打つ短剣・クリスを手にした。

 突くことに優れた短剣で、刀身の形のせいで、傷口は治療が困難になるしろ物だ。

 接近戦は得意では無いのだが、矢が効かない以上仕方がない。


 クリスを構え、スッと距離を詰めて喉元に突き立てる。

 だが刺さらない。まるで空間が固定されたように、アミックの喉元で止まっている。

 連続して突きを放つが、やはり通じない。


「やっぱ乳のデカい女はバカなんだな。お前は図体ずうたいもデカいから輪をかけてバカだ。シーッシッシッシ」


 バカバカと何度も……ん? そういえば手に持っていた、小さいクマのぬいぐるみはどこへ行った?

 両手で地面を叩いた場所に落ちてる。アレは操らないのか?

 

 何度も突きを放ち、何とも斬りつけるが、やはり傷一つ付かない。

 鉄の処女アイアンメイデン……それを何とかしないとダメなのだろうか。


「バカの一つ覚えかっつーの。いい加減に諦めたらぁ?」


「バカという方がバカなのだぞ」


「なにそれぇ、小学生みたいな事いって。ああ、本当に小学生なの? ならしょうがないわね、坊や? さっさとくたばりな」


 当たりもしない拳を何度も振り下ろしてくるが、こちらは当たれば致命傷、向こうは何を食らっても平気。

 勝負になっていないな。

 だが私にはこれしか出来る事がない。

 ひたすらに突き、ひたすらに斬りつけた。


「ねぇ、まだやんの? いい加減あきたんだけど、イタッ」


 ほおに小さな、紙で指を切った程度の小さな傷が入り、血がにじんでいる。

 絶対に無理、ではない様だ。

 そして成功だ。


「おま……あーっしの可愛い顔に何しやがるクソビッチがぁ!! イタッ、え? なんでまだ痛い、イタ!」


 アミックは断続的に痛みを感じているようだ。

 残る可能性はこれしかなかったからな、成功してホッとしている。


「痛い、イタイイタイイタイイタイ!! 何だコレ! 服が当たって痛い!? 何しやがった尻軽女!」


「お前に傷をつけたんだ」


「いたたた! そうじゃなくって! あ、足が痺れて、立てな、痛い痛い!」


 立っていられなくなり、地面に両手をついた。

 うむ、効果は変わらない様だ、時間的にそろそろ死ぬだろう。


「ああ、言ってなかったな。私は暗殺者だ。得意技は毒殺だ」


「毒ぅ!? 毒なんて、どれだけ飲んでも効かなかったぞ! 痛い痛い!」


「飲んでも効かないのは爆弾で分かった。だから直接血管内に入れたんだ。傷口からな」


 慌てて頬を押さえるアミック。

 今さら気が付いても意味がないぞ。


「おみゃ、おま……お……」


「喋れなくなってきたか。どうだ? 辞世の句でも読むか?」


 地面に横たわり、体を小さく震わせている。

 1分も持たないな。

 

 カウントダウンを始め、30秒を過ぎた時点で動きが止まった。

 首筋に手を当て、心臓にも手を当てる……止まっているな。

 やっと、終わったか。酷く疲れた。しかしアイアンメイデンとは何だったのだろう。

 アミックの亡骸をまさぐるが、これといった手掛かりが無い。

 そもそも鎧を装着していない、ロリータ衣装が防具なのだろうか。


 アミックの体が光る。


「!? なんだ!」


 慌てて離れると、アミックの周囲に2つの小さな光る星が現れ、足元から頭まで回転しながら移動し、手も足も使っていないのに立ち上がった。

 危険だ! クリスで斬りかかるが、先ほどと同じように全く刃が通らない。

 危険だ、危険だ危険だ危険だ! 勘が訴えてくる。

 このままでは大変な事になる、と。


 アミックの体から光が消え、ゆっくりと目をあけた。


「アイアンメイデ!……ごふ」

 

 手を止めることなく斬りつけていたが、アミックの言葉を遮るように、クリスは胸に突き刺さった。


「おま……いわせろよ……」


 クリスが胸に刺さったまま、アミックは目を閉じ、息をしなくなった。

 なんだ? 生き返ったのか? 生き返って、何かをしようとして、死んだのか?

 アイアンメイデ? 鉄の処女アイアンメイデンの事か? 鉄の処女アイアンメイデンを使わせろ? 

 ……ほほぅ、そういう事なのか。


 理由は分からないが、その場で蘇生が出来るゲームシステムなのだろう。

 そして鉄の処女アイアンメイデンは死んだら解除され、蘇生後に再使用する必要がある。

 いま私は、鉄の処女アイアンメイデンを使う前に殺したのだ。


 案の定、アミックの体が再び光り出した。

 先ほどと同じだ、蘇生する。


 私は、少しいやらしい笑顔を浮かべた。

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