第3章 第31話 スラムでの苦い邂逅(かいこう)

「アタシは城にはいかないよ。お前たちだけでお行き」


「いや待てよルリ子。お前は来なくても良いが、せめてユグドラに交代しろ」


「そうだぞおねー様。城を破壊するのは依頼の報酬を貰ってからでいい」


「ちょっとエバンス! 物騒な事を言わないで欲しいわね! ルリ子ならやりかねないのよ!?」


「大丈夫です! ルリ子さんなら王城だけをキレイに破壊できますから!」


「アセリア? あなたも相当感化されてきたネ!」


「あのぅ……出来れば穏便に、穏便にお願いしたいのですが」


 意見は『行く派』と『破壊する派』、その他に分かれている。

 ちなみに破壊する派のエバンスは面白そうだが、リアは怒っている。

 行く派のアズベルは面倒そうに、ベネットは真面目な顔だ。

 アニタは面白い方、キッカスは穏健派だ。


 まったく、面倒な目を気にしなくて良くなったら、次は王様かい? オンディーナの王族は役立たず、コミューンの王族は横暴ときたもんだ。

 王政なんてさっさと終わらせちまいなよ。


 ギルド備え付けのお茶をがぶ飲みし、お菓子も口に流し込む。

 暴飲暴食でもしないとやってられないね。


「でもどうして王様は、私達が来たことを知っていたんでしょうか」


「街に入る時にお金を払ったでしょう? その時に対応した兵士が伝えたのではないかしら『オンディーナから冒険者が来た』ってね」


「それでは王様は親書を待ち望んで、待ち望んでいたのでしょうか?」


「一応は上の王様からの親書だからな、良くも悪くも気になるだろう」


 王様同士の事は知らないが、面倒だから紙飛行機にして城の中に投げちまおうかね。

 その日は珍しくベッドで休むことが出来た。

 冒険者ギルド内の部屋を使っていいからと、2部屋使っている。

 2部屋だからアタシ達のパーティーと向こうのパーティーで別れた。

 こっちは大部屋だがね。


「俺ってさ、男と思われてないのか?」


「何言ってんだい、今さら男とか女とかどうでもいいだろう? リアに手を出したら許さないがね?」


「だしゃーしないがな……はぁ、まあいい」


 神妙な顔つきだが、最終的にはため息をついた。

 他の奴らも文句はない様だし、何を悩んでるんだろうねぇ。


 キャラクターチェンジ

 ⇒ユグドラ

  ルリ子

  しずか

  番長

  ディータ

  メイア

 ◆ ルリ子 ⇒ ユグドラ ◆


 体が薄く光り、自分の姿がゆっくりと変わっていく。 


 城へは明日の朝向かう事にした。

 ルリ子が行かないと言ったから、俺に交代したわけだけど……ベネットが少しため息をついた。


「ユグドラなら暴れないからいいけれど、作法が心配だわ」


「俺だって作法は覚えたんだから、そんなに心配しなくて大丈夫だって」


「ユグドラは挨拶すらダメダメ」


「う、うん。私もユーさんの作法はチョット」


 エバンスどころかリアまで心配してる。

 俺ってそんなに作法が出来てないのか?


 なので、最初と最後の挨拶をもう一度叩きこまれ、それ以外は一切喋らない、という手段を強行的に取られる事になった。

 堅苦しいのが苦手なだけだい。





「それでは本日の謁見はこれまでとする」


 本当に一言もしゃべりませんでしたぁ!!

 城の謁見の間を出て応接室で休憩しているけど、主にアズベルとベネットが受け答えをして、リア、エバンス、アニタも質問されたら受け答えをした。

 もちろん同行している4人すら自分で受け答えをした。


 なのに……俺への質問は全部ベネットが答える始末。

 やる事がない俺は、飾られている花の花びらを数えていた。


 だって、暇だし、オッサンばっかりだし、王様と一緒に王妃様もいたけど、オバサンだし。

 他に女の子もいないし。

 きっと俺が先頭に立っていた理由は、花びらを数えやすくする為だったんだ。


 ギルドの借りている部屋に戻ってきた。

 親書の依頼は、依頼元であるオンディーナに戻って依頼完了となる。

 だからここで報告をしても意味がない。


「リア、エバンス、城に行ってみてどうだった? アレの反応はあった?」


 アレというのは、ずっと誰かが魔法を使って覗き見していた事だ。

 城、もしくは王族が関係していると思っているんだけど。


「見られてたよ。でも凄く近くからだった」


「城にいる奴の仕業。間違いない」


「そっか、やっぱり城か」


「おい何の話しだ? アレとか見られてたとか、なんだ?」


 そういえば話してないんだった。

 コミューン国に入ってから、しばらくは何かに見られていた事を説明をした。


「そいう事は早くいって頂戴! 私達にだって準備や心構えとかあるのよ!?」


「何かの本丸に入るんだ、得体のしれない奴の能力が分からない以上、魔法を使えない奴に余計な情報を教えて、心の中を見られたら困るし」


「ぐ、ま、まぁそれはそうだが」


「それはそうと、明日の早朝には出発しよう。帰り道の馬車護衛も受けて、その時に何も無ければ、この国の事にはもう関わらない」


「え? 【乗っ取られている】とか【逃げろ】とかメモをもらったよネ? ノータッチで帰るの?」


「護衛依頼を受けた時に、何も渡されなければ帰る」


 冷たいと思われるかもしれないけど、正式に依頼を受けた訳でもなく、情報はメモのみ。

 確かに覗き見されたり、オンディーナ民が生き苦しいとかあるけど、それは国の問題であって、一介の冒険者が首を突っ込む問題じゃないと思う。


 馬車護衛の依頼を受けてきたが、やはりメモを渡されることは無く、明日帰る事が確定した。


 とは言え、全員が気にしている事を無視して帰るのも気が引ける。

 なので街中を散歩しまくった。


 キッカス達は武具の手入れのため別行動だ。

 

 この街はコミューン国の首都・コミューン。

 恐らくは国で唯一まともな防壁が有る街だろう。 

 流石に首都だけあって活気があるが、全体的な物価はオンディーナよりも1割ほど高く、俺たち以外には通常の価格で販売されている。

 表面上は、あまり不審な点が見当たらない。


 じゃあ少し裏はどうだろう。


 表通りから数本奥に入ると、朽ち果てた建物が増えていく。

 今居る場所は道幅が狭く、水はけが悪いのか水たまりも多いうえ、道端で寝転んでいる人も多い。

 時々子供が走っていくが、服装はボロボロ、体はやせ細っている。


「スラムって奴は、どこの街でも同じだな」


 アズベルが険しい目つきで壊れた建物の前でひざを曲げる。

 落ちている石を手に取って無造作に放り投げるが、その表情はどこか寂しげだ。


 もう少しだけスラムを見て回ると、ゴミ溜めの中で何かが動いた。

 誰かが寝ているようだ。

 その人は右腕が無く、ボロ布を羽織っているだけに見える。

 髪が長く、汚れているが恐らくは金髪。


 記憶の中から1人の人物が思い浮かぶ。


「エリーナ……さん?」


 リアの言葉に、俺は目を大きく見開いた。

 俺の命を2度も狙い、1度は俺を殺した女だ。

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