第3章 第27話 ぼったくりの国

「孤児院暮らし? どういう事かしら?」


「キッカスは孤児で、スラム近くの孤児院で暮らしているんです」


 孤児院、とは名ばかりで、大人のいない子供だけの集まりらしく、21人の孤児が雨をしのげるだけのボロ屋で暮らしているそうだ。

 キッカスが冒険者になった際、なけなしの金で装備をそろえ、何とかみんなを支えようとしたが、大した知識もなく、体力もないキッカスは成果をあげれなかった。


 自分一人ではダメだ。

 そう考えたキッカスは、よくギルド内でボーっとしている冒険者に声をかけた。

 それがこの3人。

 すでに目的を失いかけていた3人は、暇つぶしや小遣い稼ぎになればと依頼を受ける。

 だが初級の依頼を達成しただけで泣いて喜ぶキッカスを見て以来、頻繁に行動を共にするようになり、そのうち孤児院の事を知り、手助けを始めた。


 当時は16人だった孤児の生活を守るため、稼いだ金はほとんどが消えていく。

 今では21人になり、熟練冒険者と言えど、それだけの孤児を育てるのはかなりの痛手だ。


 だから……馬車を用意できず、倉庫に転がっていた荷車を使うしかなかった。

 本当に捨てられていた荷車だったのか。


「事情は分かったけど、じゃあどうして、馬車なんかが必要になる依頼を受けたの?」


「それは、ハクが付くからです。相手が属国とはいえ、王族からの依頼を受ければ立場が安定しますから」


「それは成功した場合だ。受けても失敗したらマイナスだぞ」


「なので……」

 

 言葉が止まる。

 このに及んで、まだ言いにくい事があるのかな。


「なので、あなた方を利用しました」


「「「「「「え?」」」」」」


 俺達6人は素っ頓狂な声をあげて剣士を見る。

 利用した? 俺達を? 見ず知らずの俺達を?

 

「ユグドラさんの噂は色々と聞いています。受けた依頼は必ず達成し、お人好しで、頼まれたら断れないと。しかし面識のない者に同行を頼んでもギルドは難色を示します。なのでワザとつっかかり、ギルドには『この2つのパーティーには面識がある』と認識させたのです」


 ああ、あれはワザとだったのか。

 ワザと突っかかって来て顔を覚えさせたのか。

 あそこから始まっていたとは……ある意味恐れ入る。


「なら分かっているな? 冒険者家業は舐められたらお終いだ。お前たちは俺達を利用するというふざけた行動を取った。この落とし前はどうつけるつもりだ」


 アズベルが睨みつける。だが剣士はアズベルを無視し、俺に顔を向け頭を下げた。


「お願いしますユグドラさん! この依頼、何としても成功させたいんです! 私達は報酬は要りません、成功したという実績のみが欲しいんです!」


 他の3人、キッカスも頭を下げてきた。

 孤児院かぁ、家族を守るためにやった事、と言えば聞こえはいいけど、利用された方はたまったもんじゃないんだけどな。


 とはいえ、ここで依頼を破棄したらどうなる?

 ギルドは想定外の理由があればペナルティーを課さないようだけど、これって想定外? ぶっちゃけあのグレゴリィオネェさんの事だから、知ってて回した気がしなくもない。

 あの人、結構怖い人なんだよなぁ~、色んな意味で。


 ちらりとリアと目を合わせる。

 ベネットを見て、エバンスを見る。アニタにも目を合わせる。

 アズベルは……顔を逸らしてる。

 イスをコツンと蹴飛ばすと、ため息をついて前を向いた。


「じゃあお前たちはタダ働きだ! 俺達が全部もらう!」


 4人の顔が明るくなる。


「ありがとうございます、ありがとうございます!」


 口々に礼を言ってくるけど、正直ギリギリのラインだった。

 他にも言ってない事があるんじゃないかとか、そもそも本当なのか、騙されてるんじゃないのか、色んなことを考えた。 

 その結果、俺の経歴に傷をつける訳にゃ~いかねぇな! はっはっは!


 さーて、色々と準備をしないとね。




 翌朝街を出発し、護衛の馬車群と共に次の街を目指した。

 そう、結局、護衛の依頼を受けたのだ。

 昨夜のうちに荷車を強化し、荷物の積み替えや、装備の手入れ、フォーメーションの確認……深夜までかかったけど、一応は熟練冒険者、何とかなった。


 そして大人しくなったキッカス……を期待してたけど、相変わらず俺には強く当たる。

 なして? 後でリアに慰めてもらおう、うんそうしよう。


 次の街への護衛依頼を受けながら、オンディーナ最後の街に来た。

 ここで最後の補給をしてコミューン国に入る事になるが、困った事に次の街への護衛依頼が無い。


「オンディーナからコミューンに荷物を運んでも、向こうさんは買っちゃくれないからね。買ったとしても、安く買いたたかれるのが落ちってもんだ」

 

 冒険者ギルドの受付のお姉さんの話しによると、コミューン側が用事があればコッチに来るが、こちらから何かをする事はほぼ無いそうだ。

 ただ昔はそんな事は無かったのに、ここ数年で交流が激減したとか。

 ここ数年か、何があったんだろう。


 とはいえ、護衛依頼が無くても行かないといけないし、ここから先は俺達だけになる様だ。

 まぁ向こうの国に入れば、街同士の護衛依頼もあるだろう。


 



 コミューン国への国境を越えて暫くすると、段々と道が悪くなり、森が深くなった。

 空を見ても大きな木の枝や葉で木漏れ日しか入らず、それも場所によっては長時間日陰が続き、肌寒く感じるほどだった。

 これ、俺達の馬車ならいいけど、普通の馬車だったら大変だぞ……。


 数日の旅を終え、ようやく街らしきものが見えてきた。

 防壁が有るにはあるが低く、精々2メートルほどしかない。

 入り口で受付をすると、変なバッヂを渡された。


「オンディーナから来た者には、コレを見える所に付けてもらう決まりだ」


 渡されたバッヂには【オンディーナ国民】と書かれていて、手のひらよりも少し小さい程度……カメラだったら小さいけど、バッヂで手のひらサイズって大きすぎない??


 さらに通行料を1人1G取られた。

 街に入るのに通行料がいるそうだ。この世界に来て初めて払った。

 1G、1万円だ。通行料で1万円て……もうぼったくられてるんじゃないか?


 でも街に入ると更に酷かった。

 オンディーナでは1カッパー(100円)ほどの果物が1シルバー(1000円)っていわれたり、宿の入り口には1泊5Sって書いてあるのに、話しを聞いたら5Gって言われたりする。

 基本的に10倍にされてるよ!?


「ウワサに聞いてたよりも酷いぞこの国……」


「おかしいな、以前は精々2割~3割増しだったんだがな」


「私も久しぶりに来たけれど、ここまで高く言われたのは初めてだわ」


「こいつら、オンディーナ民にだけ、高く言ってる。悪質」


 みんな怒りよりも呆れている。


「やっぱり当初の予定通り、馬車で寝た方が良いですね」


「そのための準備はしたからネ。どこか広場に移動だネ」


 この調子だと先が思いやられるなぁ。

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