第3章 第26話 捨てられた冒険者達

 壊れた荷車の荷物(人を含めて)を全部こっちの馬車に移し、荷車を馬車の屋根に乗せる。

 でもこれだと護衛の先頭がいなくなるから、仕方なく俺・リア・ベネット・エバンスが先頭を事にした。

 幸いウチの面子は体力には自信があるし、時間的にキャンプ地までは1時間かからない。


 もういい加減「すみません! すみません!」を聞き飽きた。




 なんとか無事? にキャンプ地に到着し、夕食の準備に入った。

 あの4人は馬車から出て来ない、出て来れないんだろう。

 ただ、いま落ち込まれても困るし、責任については後からしっかり取ってもらおう。

 その前に、迷惑をかけた皆さんにお詫びしなきゃな。


「皆さん、この度は私のパーティーがご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ありません。心ばかりではありますが、食後にデザートを用意させていただきますので、なにとぞ、ご容赦ようしゃください」


 少し仰々ぎょうぎょうしく頭を下げると、みんなは笑顔で許してくれた。

 良かった、俺の経歴にキズが付いちまう所だったゼ!!


 まぁデザートはリアとアニタにお願いし、4人にはお手伝いを命令した。

 残りは周囲の警戒と、俺は荷車の修理だな。


 しずかで荷車を見たところ、なにコレ? ゴミ捨て場から拾ってきたの? ってほどボロかった。

 車輪自体が壊れる事はあまり無く、先に車軸が壊れるはずなんだけど、よっぽど手入れを怠ったか、その場しのぎの修理を繰り返していたのではないか、という事だ。

 車輪を片側だけ作ると左右のバランスが取れないから、両方の車輪を作り直した。


 食事中もずっと修理をしていたから迷惑をかけちゃったけど、デザートが好評だったから大目に見てくれた。

 あと最低限の手入れをしたから、何とか依頼の間はもつだろう。


 で、なんでこーなったのかを聞くべく、剣士を1人体育館裏馬車の後ろに呼び出した。

 キッカスに聞いても答えないだろうし。

 そもそも、このおじさんがリーダーやれよと。


「すみません……実は俺達男3人は、捨てられた冒険者なんです」


 3人とも、元々は別々のパーティーに所属していたが、他のメンバーの実力が上がるにつれ付いていけなくなり、パーティーを抜けてソロでやっていた。

 だがソロでやってもろくな仕事が無く、もう引退しようかと思っていた時に、初心者に声をかけられた『依頼を、依頼を手伝ってください!』と。

 まだ幼さの残る少女に声をかけられた3人は、初級の依頼をこなしただけで満面のみで喜ぶ少女を見て、昔をなつかしみ、若かりし頃を思い出していた。


 よくパーティーを組むようになり、少女には憧れの冒険者がいる事を知る。

 そして、自分たちにも憧れの冒険者がいた事を思い出し、夢を語る少女を見ているうちに、自分たちにも夢があった事を思い出す。

 それから数年が経ち、少女はメキメキと頭角を現し熟練冒険者入りを果たし、上級冒険者の下っ端だった自分たちも熟練入りを果たした。


 なので少女をリーダーとして、時には注意するモノの、基本的には従っているようだ。


 そりゃ~頭が上がらないね。


「ならどうしてあんな荷車と馬を用意したの? 流石にダメでしょアレは」


「それが、実は予算が―――」


「おーい、見回りの交代時間だぞー」


 他の冒険者が呼んでる。

 おっと、もうそんな時間か、次は俺の番だったな。

 話しの途中だけど、急がないとね。


「話しは後で聞きます。アレの言いなりにはならず、しっかりと注意してください」


 それだけ言って、俺は見回りの任に着いた。




 荷車の手入れをして、荷物をさらにこっちに移動させ、なんとかチグリフォーンの街に到着した。

 あー、気疲れした……でも無事についてよかった……モンスターの襲撃よりも強敵だったよ。

 しかし不幸中の幸い? キッカスが俺に突っかかる事は無くなった。

 流石にへこんでいるようだ。


 コミューン国まであと2つか3つ街があるけど、護衛依頼は受けないことにした。

 ムリやろ。つか俺が無理。

 みんなに聞いたけど、熟練冒険者ならそれなりに資金があるはずだし、それなりの馬車を用意できるはずだ、と言っていた。

 だよねぇ、熟練冒険者になっても生活が苦しかったら、誰も冒険者になんてならないし。


 俺達だけで依頼を達成させちゃおうか? なんて考えまで浮かんでくる。


 とはいえ、俺達の本来の目的は親書を届ける事ではなく、このパーティーと共に行動する事だ。

 今までは結構自分勝手にやってたから、他人のペースに合わせるのって難しい。


「さて、それでは改めて話しをおうかがいしましょうか」


 宿屋に入り、大きめの部屋に全員集まってもらった。

 集まってもらった理由は、もちろん4人の荷車の事だ。

 以前聞いた4人の年齢差の事は、こっちの皆には話してある。だからどうしてお金が無いのか、かな。


「そ、そんな事をアナタに言う必要は、必要はありません!」


「いや、それがそうでもねーんだよ」


 6:4でテーブルを挟んで座ってるけど、キッカス以外は神妙にしている。

 俺に対しても少しはマシな対応になったが、それでもまだまだこの調子のため、進行はアズベルに任せた。


「う……でも、アズベルさん、個人のふところ事情を探るのはマナー違反、マナー違反ではないでしょうか」


「普段ならそうだ。だが今回は実害が出ている。しかも俺達だけではなく、依頼主に迷惑をかけちまったんだ。このまま見過ごすわけにはいかねーんだ」


「でも……だって……」


 アズベルに痛い所を突かれて黙り込む。

 他の3人がオロオロしてキッカスをチラ見しているが、ん~? 3人は事情を知っているのかな?

 知っていて注意できなかった、のかな?


「今回はユグドラが居たから、荷車の修理が出来たわ。ユグドラがいなければ、あなたはすでに依頼を失敗、ペナルティーを科せられていた。その事は、理解できるわよね?」


「で、でも失敗したからって、必ずペナルティーが、ペナルティーが課せられるわけじゃ……」


「今回の失敗の責任はどこにあるか考えろ。明らかに依頼内容にそぐわない道具を用意したのは誰だ。ペナルティーが無い時は想定外の理由があった時だけだぞ」


 想定外の理由か。

 そういえば初めてリアやアズベルに会った時、オーガ5匹と狼の群れがいたけど、あれはかなりの想定外だったらしい。

 あーいう理由じゃ無ければペナルティーがあるんだな。


 下を向いて黙り込んでしまった。

 そしてやっと、剣士が重い口を開いた。


「申し訳ありません。我々に金が無いのは―――」


「ちょっと! ダメ、ダメだから!」


「キッカスが孤児院暮らしだからなんです」

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