第3章 第22話 ヒモの名は

 俺達は翌日までまともに活動できなかった。

 食事や睡眠といった最低限の事は出来たけど、それ以外は全員でほとんど密着していた。

 あのパンドラ国の騎士・ドミストリィに対する恐怖が抜けきらない。


 直接会っていない俺は大丈夫だから、何とかみんなを散歩や簡単な運動をさせた。

 家が湖畔こはんで良かった。


 ジュエルは用事があるからと、ふらりとどこかへ行ってしまった。

 気が向いたら遊びに来るそうだ。


 数日経って、ようやくみんながいつも通りに活動できるようになったから、簡単な依頼でも受けようと冒険者ギルドへ向かった。

 

 あいつのプレッシャーで街が心配だったけど、そもそも力量差を理解できていないと効果がない様だ。

 街はいつも通りに動いている。

 5万を超える敵兵が侵入したっていうのに、傷跡がほとんどない。

 異常、そう言って良いだろう。


 ギルドに入ると、昼近くだというのに冒険者で溢れかえっていた。

 どうしたんだろう、戦争は終わったはずだよね?

 よく見ると受付に並ぶわけでもなく、待合スペースでの雑談、いやミーティングをしているようだ。

 戦争が終わった直後だから、依頼が少ないのかな?

 しかし掲示板を見ると、沢山の依頼が貼りだされている。


「ユグドラちゃーん、こっちこっち、こっちよ~ん」


 久しぶりに聞いた声で振り向くと、カウンターで手を振るグレゴリィオネェさんがいた。

 なんだろう、また急ぎの依頼かな。




「お久しぶりねぇん。帰って来てたなら、顔を出してくれてもいいのに」


「すみません、流石に疲れてしまって。それで、何かありましたか?」


「え? 何かって、依頼の完了報告に来たんじゃないの? アグレス防衛の」


 アグレス防衛? ……!


「あ、忘れてた」


 みんなは覚えてたのかな? そう思って振り向くと、みんな目を泳がせていた。

 忘れてたな、全員。

 あの転生者・ドミストリィのインパクトがあり過ぎて、他の事はスッポリと抜け落ちてたみたいだ。


「もーしっかりして頂戴? 依頼をほっぽり出す事は無いと思うけど、完了報告までが依頼よん」


「すみません。でも、依頼書にサインをもらってくるのを忘れてて……」


「それは大丈夫よん。アグレスの貴族どころか、エリクセンの貴族からも礼状が届いているから。ついでに言うと、王都を守った冒険者としても、クローチェ王女から礼状と報酬がでてるわねん」


「クローチェ……様が?」


 イカンイカン、素でクローチェって呼び捨てにする所だった。

 あの御姫様も大変だろうな、他の王族はブラスティーに操られているし、クローチェしかまともに活動をしてないんだもんな。

 今度遊びに行ってみよう。


「だから、はいコレ。アグレス防衛の成功報酬100G、エリクセンの解放報酬5千G、王都防衛報酬1万Gよん」


 革袋が大、中、小と並んだ。

 えーっと……100万円と、5千万円と、1億円??????

 合計1億5千100万円なり


「お……多くないですか?」


「そぉ? ワタシ的にはまだまだ出し渋ってると思うわよん。ま、街の復興にもお金が掛かるから、今はこれで我慢して頂戴」


「そ、そうですか、じゃあ頂きます」


 い、良いのかな、こんなにもらって。


「なに遠慮してんだよ。貰えるモンはもらっとけ」


「1人当たり2千500Gだけど、家を建てた材料費が一気に回収できたね」


 あ、ほんとだ。

 材料費どころかその間の経費まで全部賄える。


「ありがたく、いただきます!」


 お金をリュックにしまい、さあ何か依頼を、と思って振り向いたとたん、大声で指を差された。


「あー! お前は何もできないくせに、アズベルさんとベネットさんのおこぼれで有名になった奴だ!奴だ!」


 まだ若い女の子に指を差され、俺じゃないよね? と思わず後ろを見たけど、後ろにはグレゴリィオネェさんしかいない。

 なぜか知らないけどグレゴリィオネェさんは頬を赤らめている。

 よし、見なかったことにしよう。


「お前だ、お前だ! ユグドラとかいうおんぶにだっこなお前だ!」


 あーはいはいユグドラさんね、おーいユグドラさんやー……。


「え? 俺?」


 女の子はツカツカと歩み寄り、俺の鼻に指を押し当てた。

 身長は俺の肩くらいだから、155~160センチほど、髪は短く癖っ毛、革鎧と長さの違う2本の剣を腰に差している。


「あ、あの、痛いです」


「他の連中は騙せても、この私は騙せない! さあ、さっさと白状、白状しろ!」


 えー……、何を白状したらいいのでしょうか。

 俺ってアズベルとベネットに養われてたのかな。知らなかったよ……。

 せめてリアに養われてるって言われたら、はいそうですって言えるのに。


「あの! あなたはどなたですか? ユーさ、ユグドラさんに失礼な事言わないでください!」


「ああ! あなたはアセリアさんですね! 噂は聞いています、お一人、お一人で熟練依頼をクリアした最初のお方だ!」


「え? ええっと、そうだったっけな。確かユーさんの方がずっと先に……」


「おお! アナタはアニタさんではありませんか! 以前エリクセンで依頼を受けた際はお世話に、お世話になりました!」


「わ、私に来ちゃった……。えっと、たしかあなたはキッカスだったっけネ?」


「おお! 覚えて、覚えていてくださいましたか!」


 何この子。俺以外にはとっても友好的なんですが??


「やや! アナタはエバンスさんですね! 【沈黙の破壊者】の噂、聞き及んで、聞き及んでいます!」


「うへへ、そ、そう?」


 しかも異様に俺達の事詳しいぞこの子!

 じゃあなんで俺の事を知らないんだ?

 俺、ひょっとして本当に養ってもらってるのか!?

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