第3章 第21話 無様に打ち震えておるわい、ワシら。

 城門が大きな音をたてて開き、城から出てきた男は両腕を広げて、やや大げさな仕草で言葉を放った。


「今回は我々の負けという事にしようでは無いか。冒険者である君たちを、少々見くびっていた事をお詫びしよう」


 この男が現れた瞬間、まるで空気が水飴のように重くなり、異様な雰囲気が漂っている。

 なぜ、パンドラ軍の騎士が1人で城の中から出てきたのか。

 なぜ、それに考えが至らなかったのか。

 なぜ、ワシ等は1歩も動くことができなかったのか。


 この男は、ワシ等を見くびっても余りある能力を、持っておるからじゃ。

 考えてもみぃ、これだけの大軍を瞬間移動できるのじゃ、城の中に移動できないはずがない。

 さらにはこの男、ニヤけた表情じゃが、ワシ等を見定めておる。

 その上で無防備に歩いておるじゃ。


 圧が……息苦しい程の圧がかかる……くぅ、なんのこれしきー!

 

 ハルバードの柄で力いっぱい橋を叩き、なんとか意識を保つ。


「まったくじゃ! ワシ等を舐めてかかるから負けるのじゃ! がーっはっはっはぁ!」


 気合いじゃ! 気合いを入れんかワシ! 気圧けおされてはならん。番長たる者は常に胸を張って上を向いているモノじゃ!

 忘れるな、背中の喧嘩上等けんかじょうとうの刺繍を、右胸の悪鬼羅刹あっきらせつを、左胸の魑魅魍魎ちみもうりょうを!

 ワシは人であって人ではない、番長という生き様なのじゃ!


「ははは、君は面白いな。そう固くならなくともよい、安心したまえ、もう帰るのだから」


 すれ違いざまに肩を叩かれた。

 いかん、これだけで潰されそうなほどに重い。

 何とか目を逸らさずにいられたが、向こうはどこ吹く風じゃな。


「いつまで真ん中に突っ立っている。どけ」


 肩を押されて横にずらされた。

 お? なんじゃなんじゃ、誰じゃ?

 

「ブラスティーではないか。いつから居たのじゃ?」


「あいつと一緒に歩いていただろうが。飲み込まれ過ぎだ」


 全く気が付いておらんかった。

 あれだけの圧をかけられて、他には全く目が行っておらんかったようじゃな。


「それではブラスティー君、私はこれでおいとましよう」


「ああ、さっさと帰れ。そして二度と来るな」


「冷たい事をいうな、我々の仲ではないか。また遊んでくれたまえ」


「どうせ勝負にならないんだ。来るだけ無駄だ」


「ははは、それでは次は勝てるように考えておこう。」


 ブラスティーと普通に会話をしておるな。

 しかしブラスティーは、あ奴と遊ぶのを嫌がっている様じゃが……。

 旧知の仲なのかのぅ。


 その騎士が指を鳴らすと、一瞬で広間にいたパンドラ軍が居なくなった。

 本当に、あれだけの数を移動できるのじゃな。

 ジュエルが困惑するのも無理が無いわい。


「それでは冒険者の諸君、また会おう」

 

 もう1度指を鳴らすと、騎士もいなくなった。

 と同時にアズベルとベネットが崩れ落ちそうになるが、2人の体を支えて立ち上がらせる。


「倒れてはならん。少なくとも人前では気丈に振る舞うのじゃ」


 2人とも足が震えておるが、何とか自力で立てている。

 無理もないのぅ、ユグドラじゃったら間違いなく気を失っておったわい。

 ワシでよかった、というべきか。

 後衛の3人はすでに姿を消している。

 無事、家に戻っておればいいが。





 何とかワシ等も家に帰ってきた。

 帰ってきたとたん

「ばんちょー! ばんちょー!」

 とジュエルが抱き付いてきて、ベネットも震えながらワシにしがみ付いてきた。

「離さないで……どこにも……いかないで……」

 アズベルは床に倒れ込んでおる。


 そして2階からはリア、エバンス、アニタの3人が駆け下りてきて、全員で抱きしめ合った。

 みんな号泣じゃなぁ、本当はワシも泣きたいけど、泣くに泣けんようになった。

 あの男は、本当にヤバい奴じゃ。




「番長、本当に大丈夫? 生きてる? 本当はあいつに殺されてない?」


「大丈夫じゃ。ほれ、この通りピンピンしておる」


 何とか落ち着いて、やっとソファーに座ってお茶をしておる。

 ジュエルがワシの腕をペタペタ触って生存確認をしているが、どうやらあ奴の圧はここまで届いたようじゃ。

 こりゃ~街中は大変な事になってそうじゃ。


「ねぇ番長、ユーさんに替わって……ほしいな」


「そうね、私もユグドラに替わってほしいわね」


 うむ? まぁユグドラに甘えたいんじゃろうな、正直ワシも休みたい。



 キャラクターチェンジ

 ⇒ユグドラ

  ルリ子

  しずか

  番長

  ディータ

  メイア

 ◆ 番長 ⇒ ユグドラ ◆


 体が薄く光り、自分の姿がゆっくりと変わっていく。


 交代すると同時にリアは俺の左腕に抱き付いてきた。


「大丈夫? アイツのプレッシャーは半端なかったけど、よく耐えられたね」


 頭を撫でてあげると、半泣き状態だった。


「大丈夫じゃないよぉ、死んだと思ったんだから。全員死んだって思っちゃったんだから」


「私は今でも生きた心地がしないのよ」


 俺の隣にベネットが座り、肩に頭を預けてきた。


「ベ、ベネット?」


「たまには甘えさせなさい。師匠でしょ」


「う、うん」


「師匠じゃないけど、我慢」


 エバンスが俺の足の上に座った。それにつられてかジュエルが後ろから抱き付いてきた。

 アズベルとアニタも抱き合っている。

 

 俺達は今、せいの確認をしているんだ。

 死んで無い、生きているんだと確認を、自分に言い聞かせている。

 この状態は非常にマズい。


 【それでは冒険者の諸君、また会おう】


 次に会ったら、俺達は身動き一つ取れずに殺されるだろう。

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