第2章 第2話 アセリア2

 「助太刀するぜ!」


 馬車の後ろの方から走ってきたその人は、周りの狼をものともせずオーガの前に立ちはだかった。

 麦わら帽子に赤いマント、青い大きなローブを着たその人は、とても大きな斧を使って次々にモンスターを倒していく。

 その姿に私は目を、心を奪われた。


 冒険者さんを次々に倒した相手に、その人はたった一人で立ち向かい、そして勝利を収めた。


 きっと一目惚れをしたんだろう。

 私は馬車のほろの隙間からひたすらその人を目で追いかけた。

 すごい人だ、強くてカッコイイ、それに怪我人の治療までできる。

 怪我人にかける笑顔も……素敵だ。


 お話しをしたいな。名前は何て言うんだろう、恋人は居るのかな? まさか奥さんがいるとか!? でもこんなに素敵な人だもん、奥さんが居ても当たり前か。

 それに私はチビで子供みたいで、栄養が胸にしか行ってないってよく言われる。

 私とは……釣り合わない。


 突然、女の人があの人に抱き付いた。

 誰あの人! やっぱり恋人!? 奥さん!?

 それに、それに凄くキレイな人だ……でもあの格好は冒険者さん? キレイで強いって、ずるい。


 自分の体を見るとため息しか出ない。

 私がもっとキレイだったら、あの人は振り向いてくれるかな。


 あ、女の人を引き離した。でも顔がニヤけてる。

 女の人と自己紹介してる! 名前! 名前! ゆぐどら……さん? ユグドラさんか~カッコイイ名前だな~、でも聞いた事があるような? きっと有名な冒険者さんなんだろうな。


 ユグドラさんは引き続き馬車の護衛に加わってくれるそうだ。

 チャンス、あるかな、お知り合いに、なれるかな!?


 ユグドラさんは見張りを始めてみんなとお話ししてる。

 またさっきの女の人だ! ……薄着になってる。どうして?

 う! う! 腕に抱き付いた! うらやま……ズルイズルイ! いいなぁ。

 あ、またニヤけた。


 でもユグドラさん嫌がってるよね? 絶対に嫌がってるよね!!


 それからしばらくして見張り交代の時間になり、ユグドラさんは休憩するみたいだ。

 どの馬車に乗るんだろう。

 もももも、もしこの馬車に乗ったらお話ししよう!

 でも疲れてるだろうから一言二言だけかな……。


 のっ、乗ってきた! わーわー! どうしようどうしよう!

 寝てるふりしなきゃ!

 急いで毛布にくるまって横になる。


 ユグドラさんは……私の隣で横になった。

 !? !!!! ?? !?!?

 い、いまよアセリア! ほら声を出して!!


「お疲れ様です。大変でしたね」


 真横に、真横にユグドラさんが居る!

 何とか平静を装って静かに声を絞り出した。

 心臓の音、聞こえてないよね?


「ええ、流石に疲れました。といっても気疲れですけどね」


 あの女の人ですよね? 本当は相手をするの疲れてたんですよね!?


「ふふっ、ゆっくり休んでください」


「はい、おやすみなさい」


「おやすみなさい」


 きゃーおやすみなさいって、おやすみなさいって! 

 それに何だろう、少し低い声だったけど、声で痺れるってあるのかな。

 耳から入って頭の中で色んな所を刺激されて、つま先まで声が響いた。


 寝顔、ずっと見てよっと。




 結局一睡もできなかった。

 本当にずっとユグドラさんの寝顔を見てたなんて、自分でも変だと思う。


 朝食の準備が出来たみたいだから、そろそろユグドラさんを起こさないと。

 姿勢を正して、変な声が出ない様に、あ~あ~、よし大丈夫。

 あ、陽の光が顔に当たってる。眩しそうにまぶたが動いてる。


 すこし横にズレて日陰を作った。

 

「おはようございます。朝ですよ、起きてください」


「ん……あと5分……」


 ごふ? 寝ぼけてるのかな。


 続けて声をかけるとゆっくり目を開けてくれた。

 本当はまだ眠らせてあげたいけど、お腹がすいたら嫌だもんね。


 ユグドラさんはいきなり跳ね起きて正座をした。


「え? あ! お、おはようございます! 私はユグドラと申す者でございます!」


「お、おはようございます、私はアセリアと申します。よろしくお願いしますです!」


 いきなり懇切丁寧にあいさつしてくれた。

 つられて私も挨拶したけど、ユグドラさんはチョット変わった人だった。


 一緒に朝食を取れないかと期待したけど、やっぱりダメだった。

 冒険者さんは朝、打ち合わせをしているみたいだから。

 

 結局その後は食事の時にチョットしかお話しが出来なかった。

 



 あっという間に馬車旅が終わって街に着いた。

 どうしよう終わっちゃった! 馬車を降りた私はユグドラさんを探した。

 いた! でも冒険者さん達とどこかへ行っちゃう!


 手を大きく振ったら気づいてくれた。

 でも女の人に引っ張られて人ごみに消えていく。

 

 また、会えますよね。




 家に戻ってきた。

 お父さんとお母さんとの思い出のある家だったけど、お兄ちゃんが居なくなって私1人になってしまった。

 1人じゃ、大きすぎるよ。


 すぐに引っ越しを決意した。


 その前に仕事を探さなきゃ。薬屋さんをやめて旅に出たから、仕事を見つけて近くに引っ越そう。




 仕事はすぐに見つかった。

 コレオプテールっていう料理屋さんで、家族でも気軽に入れるお店だ。

 冒険者さんもたくさん来る。

 ただ……ウェイトレスの衣装が……その……際どい。


 ええーいアセリア頑張るのよ! ここならユグドラさんが来るかもしれないんだから!

 本当は冒険者ギルドの受付を狙ってたけど、受付、特に冒険者ギルドの受付は女の子のあこがれの職業の上、とっても狭き門だ。


 エリクセンの冒険者ギルドの受付はアニタさんって言って街の有名人。

 とても元気で可愛くて頭が良よくて、噂では冒険者さんと恋仲らしい。

 

 むりムリ無理! 比較されたら私なんてただのガキだもん!

 はぁ~、ユグドラさんの好みが背が小さくて胸の大きな女だったらいいのに。

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