第63話 魔法が使えない!?

 頭をマジックアローで貫かれ、1本の首だけ暴れまわっている。

 紫色の体液が流れているが血液だろうか?

 頭を貫かれた首は他の首にぶつかりながら暴れているが、それもすぐに終わり体液も出なくなった。


 もう治癒したのか? 脳天つらぬかれてすぐに治るってどんな回復能力だよ。

 しかし今の攻撃で4つ首は俺を完全に敵と認定したようだ。

 ふぅ、これで街やほかの人に襲い掛かることはなくなったのかな?

 

 しかし次の手はどうしよう。

 警戒されたら斧すら当てられないかもしれない。

 

 悩んでいるうちに4つ首は完全に元通りになり、さらに警戒して距離をとる。

 距離を取られてもすぐに詰めれるからいいけど、問題は魔法を警戒されたことだな。

 遠距離から赤黒いブレスを吐きまくったり魔法を連続使用されたり、小さいながらも付いている翼、あれで空を飛ばれたらかなりつらい。


 どうするかな……うろこ、引っぺがせるかな。

 俺の手よりもずっと大きいけど、あれをはがせば斧も通じると思う。

 よし、ねらい目は胴体の鱗、数枚はがして斧で斬りまくる!


 4つ首が雄たけびを上げて俺に向かってくる。

 向こうも戦う算段ができたのだろう。

 どちらの戦い方が上か、確かめようじゃないか!


 4つの顔から同時に俺へ向けてブレスがはかれる。

 ふん、そんな攻撃に当たるか……げ! ブレスは俺を囲むように丸く放たれ、円を描きながら徐々に距離を詰めてくる。

 ブレスの牢屋が徐々に狭くなっていく。急いで抜け出そうとするが、走り出した先に的確にブレスが現れて抜け出せない。


 つまりブレスが無いのは上だけ、いやいや、ジャンプして届く距離に顔が無いし!

 と、戸惑ったフリをしたけど逃げ出すのは簡単。


瞬間移動の指輪テレポートリング!」


 これで一瞬でブレスの牢屋から抜け出して……? あれ、なんで発動しないの?

 指輪を確認するが、まだテレポート回数は残っている。

 壊れた!? え、なんで? てか壊れるのかこれ!?

 仕方がない、こうなったら自分で魔法を使って逃げるしかない。


瞬間移動テレポート!」


 発動しない。


「なんで!? どうして!? 失敗なんてしてない! MPマジックポイントも残ってる!」


 魔法が発動しないなんて今まで無かった。

 仮にスキル値が足りなくても失敗するだけだ。

 そうこうしているうちに、ブレスの牢獄は両腕を広げれば当たる距離まで迫っている。

 

 一か八かで図太いブレスを突っ切るか? いや危険すぎる。

 なら上しかない……上を見上げてブレスが吐き出ているドラゴンの口を見る。

 こっちの方が、マシか。


 態勢を低くして最後の確認をする。


祝福ブレッシング!」


 やっぱりダメだ、発動しない。

 テレポートだけがダメかと思ったけど、魔法全般がダメなようだ。

 あいつの仕業なのか?


 上を見上げ、全力でブレスの出所へジャンプする。

 自分でも信じられないスピードで飛んだが、やはり届かない。

 やっと3分の2まで飛んだが、そこまでだ。


 メニュー画面のバッグから縄付きの投げ斧を取り出して4つ首の頭の1つに投げつける。

 しかしその間にも速度は落ち、足がブレスに当たりそうになり、慌ててバトルアックスを逆手で持つ。

 刃を両足で踏み、波に乗るように1回ブレスで弾かれ少しの時間を稼ぐ。


 投げ斧がツノに引っ掛かった。

 今だ! 全力で縄を引っ張り再加速する。

 ここまで接近するとブレスの間隔も狭く、俺一人でもギリギリの幅しかない。


 視界がほとんどブレスで埋まっている。

 怖い。本当に頭にたどり着けるのか、抜け出せるのか分からない。

 1つの頭が内側に寄り始めた。


 まて……待てよ!

 覚悟を決めた。その瞬間、空が見えた。

 青と白の、さっきまで見ていた晴天の空。


「抜けたぁ!」


 手に握っていた縄を握りしめ、もう一度引っ張ると急降下し、ドラゴンの頭に着地した。

 ブレスはもう止まっている。

 しかし3つの顔が俺を睨みつけて、自分の頭ごと俺に噛みつく勢いだ。


「噛みつく前に、1つはもらっていく!」

 

 斧を前後逆に持ち、刃ではなく平らになったハンマー側を頭に叩きつける。

 さっきまでとは違い弾かれず、低い音ではあるが音は鱗だけでなく頭全体に響いた。

 この鱗は硬いが、衝撃を吸収する訳では無い様だ。


 斧の刃が弾かれたから、てっきり鱗のせいだと思ったが違うのか?

 それに鱗の黒い色が波紋のように広がり、何枚かの鱗は点滅している。

 なんだこれ、黒色じゃないのかよこの鱗。

 まるで出来の悪い液晶みたいだな。


 頭が落ち始めた。

 鱗に捕まって落ちないようにするが、これはチャンスだ。

 ほんの数秒後におとずれるチャンスを逃がさないよう、頭の上にしっかり足を固定する。


 念を入れて祝福をかけよう。あ、使えないんだったってえ? 発動したぞ!?

 理由は分からないが時間がない。

 2、1、今だ!


 頭が地面に叩きつけられると同時にハンマーをドラゴンの頭に叩きつける。

 たとえ弾かれても衝撃は地面で反射し、頭の中で暴れ回るはずだ!

 ハンマーでたたきつけた頭は地面にめり込み、俺の体の数倍の大きさの頭の中で衝撃音が反響する。


 甲高い雄叫おたけびを上げながら暴れ回り、俺は吹き飛ばされてしまう。


 2、3回転がって姿勢を整え龍を見る。

 目鼻口から紫色の液体を垂れ流し、地面の上を力なく動いている。

 ゆっくりと動かなくなり、ついに完全停止した。


 さっきの様に異様な治癒能力は出て来ない。

 よし! まずは1つだ! 

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