第61話 新装備の検証

「ドラゴン……だと!?」


 その場にいた全員が浮足立うきあしだつ。

 それはそうだろうな、遠くからとはいえルリ子のドラゴンの戦いを見てたんだ、それが今度は自分に向けられるなんて思いもしなかっただろう。


 こいつらは全高10~15メートル程で黒い鱗に覆われているが翼が無い。

 よく見ると後ろ脚の2本で立っており、前足は極端に短い。

 ドラゴンに似てるけど恐竜だな、ティラノサウルスだ。


 しかし咆哮ほうこうはドラゴンと変わらないし、うおっと!? 口から赤黒いブレスをはいた。

 赤黒いブレス、4つ首と同じだ。


「大丈夫! こいつはドラゴンに似てるけど違う奴だ! 空も飛ばないし体も小さい! 尻尾と牙、ブレスに注意すれば何とかなる!」


 ドラゴンと戦った事のある俺が言うんだから間違いない!

 その言葉で何とかみんなは平静を取り戻し、それぞれが機能し始めた。


 とはいえ4つ首が控えてるから時間をかけられない、1匹は俺がやるむねをアズベルに伝え、冒険者は兵士に合流してもらった。


 こいつらに手こずるようじゃ4つ首とは戦えない。

 つまり1撃で葬り去らないとダメだ。

 この新型バトルアックスの力も試していきたい。


 以前のモノより重量は3倍、攻撃力は3割増し、耐久力は3倍だ。

 俺が持ってもズシリと重い。重量増と共に魔法による強化も付与されていて、物理攻撃+40%、攻撃速度+12%、耐久力+12%だ。

 姿かたちは似ているが、以前のバトルアックスと違い片側にしか刃が無く、反対側はハンマーの様に平らになっている。


 同じく鎧も強化されていて、本体の重量が倍になり、防御力が2割増し、耐久力も倍。

 魔法強化の効果は物理防御+10%、魔法抵抗+6%、魔力+5、魔力回復+3、体力回復+2だ。


 これだけ揃えるのは苦労した。

 しずかが徹夜で制作したが、魔法・錬金術・細工・鍛冶、この4つを駆使してできたのだ。

 うん、本当に苦労した。


 ともあれ、これ以上ないほどの装備を使うのだから、最高の結果を出したい。

 そう、例えば恐竜のブレスを真正面から受けても平気とか。


 近くにいる方の恐竜の注意を引くために投げ斧を投げ、敵はこっちだと意識させる。

 よし、こっちに向かって走ってきた。

 そしてまだ距離のある場所で口を開け、赤黒いブレスをはく。


 まずはこれを受け止めるぞ!


 赤黒いブレスが俺の全身を覆い、熱さとも冷たさともいえない不思議な感覚に襲われる。

 どういうブレスなんだ? 熱いのに寒気がする。

 しかしそれ以上の感覚は無い。

 痛くない、苦しくない、まだブレスをはいているから体が見えないが、大したダメージは無いはずだ。


 ブレスが止まった。

 構えていたバトルアックスが見える、腕も、足も、胴体もなんともない。

 ローブやマント、帽子もそのままだ。


 ステータスを見たけどダメージも毒も、状態異常も何もない。

 よし、耐えられる。

 4つ首はコレのグレードアップ版と思えばいいだろう。


 鎧の検証終わり! 

 次は斧だ!


 恐竜は走る勢いを衰える事なく俺に突っ込んでくる。

 姿勢を低くしているから、俺に噛みつくつもりだろうか。

 なら食べてもらおう。


 俺の目の前まで接近し、俺の体よりも大きな口が開いて俺を飲み込もうとする。

 いまだ! 1歩踏み出して口の中に片足を入れ、斧を下から上に向けて力の限り振り上げると、恐竜の口は切り裂かれ……いや破裂した。


 口の上半分が無くなり、下あごだけになって地面をのたうち回っている。

 ビックリした、切れ味が良くなってるだけじゃなく、攻撃そのものの威力が上がってるようだ。

 命中した瞬間に魔法の効果が表れて『切り裂き+破壊』によって破裂したんだろう。


 単純にこの斧を受け止める、という事ができないわけか。

 受け止めたら破裂する。


 なら恐竜退治を終わらせるとするか!




 上あごが無くなってブレスも出なくなったようで、抵抗らしい抵抗もなく胴体を切って終わった。

 恐竜と言ってもドラゴン型だし、体は硬い鱗で覆われているのに簡単に斬れた。

 想像以上にいい武器に仕上がってる。


 じゃあもう1匹の様子を見に行こう。


 冒険者と兵士は苦戦しているかと思ったが、流石に数の暴力というのは素晴らしい。

 大量の槍や矢、遠くから石や投石機を使って岩を投げている。

 ブレスを吐こうとすれば岩が命中して吐けず、かといって近づこうとしても近づけず……。


 ちょっと同情したけど、これ戦争なのよね。


 思ったより早く、俺が手を出すまでもなく終わった。

 おおぅ、やっぱり戦いは数なのかな。


 まあ次の相手には数なんて意味ないけど。


 4つ首のドラゴンはゆっくりゆっくりと歩みを進め、そろそろ森を出る距離まで接近してきた。

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