第46.5話 別室8

 薄暗い部屋の中で、表情のない白い仮面をかぶった男が椅子に座っている。

 その背後には髪の長い男がひざまずいている。


「ほう、ヴォルフが動いたのか。ならば私が行くとしようか」


 仮面の男の表情は分からない。しかしわずかに声が高揚したしたように感じる。


「お待ちください、あなた様が動かれては諸外国が警戒を強めてしまいます。今回はアレの使用許可を頂きにまいりました」


 髪の長い男はただこうべを垂れ、右手を胸に当てて淡々と報告をしている。


「ふん、アレか。まあいい、許可する」


 面白くなかったのか、仮面の男は投げやりに言い放ち足を組んだ。


「ありがとうございます。これでヴォルフを止めて見せます」


「それよりも、あいつらは今どうなっている」


「はっ、軍師の少女は再度発見し監視を続けております。ピエロはヴォルフが向かった先の馬車に同乗しております。ドラゴンテイマーの魔法使いは、現在行方不明です」


「……どういう事だ、なぜピエロモドキにダイアウルフをけし掛けた」


 髪の長い男は一瞬バツが悪そうな顔をしたが、それが当たり前だと言わんが仮に口を開く。


「あのピエロは必要ありません。我々の勧誘を2度も断り、どこに付く訳でもなくふらついております。そのような男は後々のちのち我らの障害になるでしょう」


「お前の意見など聞いてはいない。私は仲間にならずとも国から出さなければ良いと命令したはずだ」


「しっ、失礼いたしました! そのように致します!」


 仮面の男が立ち上がり、髪の長い男の横を歩いて行く。


「命令をたがえるな」


「!! は、はっ!」


 部屋から出ていく仮面の男の言葉に、髪の長い男は体を震わせていた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「クソッ! だがあの方の命令には逆らえない。やむを得まい、計画変更だ」


 不機嫌そうに廊下を歩き、城を出て馬車に乗り込む髪の長い男。

 とても豪華な馬車で、カーテンが閉められているため中を見る事は出来ない。


「どうした、次はなんだ!」


 馬車の中には黒ずくめの男が待っていた。

 長椅子に座ると同時に黒ずくめが口を開く。


「ヴォルフが倒されました」


「……お前たちがやったのか?」


「いえ、恐らくはピエロモドキの戦士がやったものと思われます」


「嘘を付くな!! あんな男が神獣ヴォルフを倒せるはずが無いだろう!」


「死体を、確認しました。今頃はバールドの街に運ばれているはずです」


「ば、バカな……ヴォルフだぞ、アレの使用許可が下りる程の相手だぞ」


 髪の長い男は驚愕きょうがく、いや恐怖している。

 両手で顔をおおい、まるで天を仰ぐように顔を上げた。


 ―――私の判断が間違っていたのか? そんなハズは無い、私の判断ははいつでも正しい―――


「やはり……殺さねば……そのような危険な男、この国には必要ない……」


 手を下ろした男の目は座っていた。いや狂気が入っている。


「アレだけではダメだ、全部使おう」


「全部、ですか?」


「そうだ、街を1つ潰しても構わん、あの男を始末するぞ」


「! お待ちください! それはいくら何でも、グッ!」


 髪の長い男は黒ずくめの首を掴む。


「お前の意見など聞いてはいない。準備にかかれ、私もすぐに行く」


「りょ、了解、しました」


 黒ずくめは1礼して溶けるように姿を消した。


「どいつもこいつも私をバカにしやがって……私は、私はあの方のためを思って行動しているのに……なのに、なのに!」

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