第44話 長い夜

 残りは何人だろう。予想では7~8人はいると思うけど、暗いうえに服が黒いから良く分からない。

 気配とかは読めないんだよな俺。

 取りあえず目に見えるのはエリーナを含めて5人。


 まずは一番近くにいるエリーナからだ。

 

 斧を肩に担いでゆっくり前進する。

 するとせきを切った様に逃げ始めた。

 今になって逃げるのかよ。聞こえる範囲の音だと、馬車の裏側にも何人かいたな。


 逃げる方向がバラバラで、流石にこれだけの人数を追いかけるのは無理だろう。

 数人は逃がしちゃうな。


 馬車の裏側は流石に諦めよう。

 それでも数の少ない方向に普通の投げ斧を投げておき、まとまって逃げている方向へ全速力で走る。

 追いかけている4人は確実に仕留めたい。


 エリーナは絶対に逃がさない。


 しかし馬車から離れるにつれて森は深く暗くなり、黒ずくめの姿が見にくくなってきた。

 何とか2人は斧で仕留め、残るはエリーナともう1人だけど……1人がエリーナを逃がす様に前に押して俺に立ち向かってきた。

 1人で何をするつもりか知らないけど、無駄死にだよ。


 俺はソイツとエリーナをまとめてぶった切ろうと処刑執行人エクスキューショナーの斧ズ アックスを振り回す。

 手ごたえは2人分、よし仕留めた。


 1人は柄の部分で殴った形だけど、地面に倒れて身動きが取れないでいる。

 首を落としてエリーナの死体を探したが見当たらない。

 よく見ると右腕だけが落ちている。ひじの少し上からだ。


 周囲を見渡すがもう姿は見えない。

 くそっ、一番逃がしたくない奴を逃がしてしまった。

 黒ずくめと同じ密偵なら隠れるのは得意だろう、俺じゃあ探せないだろうな。


「まあいいか。もう襲ってこなければ、それでいいや」


 逃がしてしまった事を正当化するために適当な言い訳をしてる。

 どうして俺を放っておいてくれないんだろう。

 俺は平和に楽しく暮らせればそれでいいのに。


 


 馬車に戻ると、アズベル達は死体の片づけをしていた。


「あ、ごめん任せっきりにしちゃって」


「構わんさ。そっちは終わったのか?」


「エリーナには逃げられちゃった」


「そうか。ここは俺達がやっておくから、お前は休んでろ」


「ありがとう。休ませてもらうよ」


 馬車群の中心近く、俺が乗っていた馬車を見つけて中に入る。


「ただいまリア。あいつに逃げられ……リア?」


 リアが居ない。

 トイレかな? それを確認しようとしたけど、一緒に乗っていた夫婦もいない。

 流石に3人でトイレはないだろ?

 

 死体の片づけ、は冒険者の仕事だし、旅行客が今やる事なんて無いはずだ。

 でもリアは優しいから冒険者の手伝いとかしてるかも……違う! 置いてあった金属の鎧が馬車のあちこちに散らばってる!

 もう使わないからと馬車の片隅に置いてあったはずだ!


 馬車内の暗さに目が慣れ、よく見ると馬車の中で争った形跡がある。

 物は散らかりイスが倒れている。

 リアと夫婦はさらわれたのか!?


「どうして……クソッ!! キャラクターチェンジ! メイア!」


キャラクターチェンジ

  ユグドラ

  ルリ子

  しずか

  番長

  ディータ

 ⇒メイア

 ◆ユグドラ⇒メイア◆

 体が薄く光り、自分の姿がゆっくりと変わっていく。

 ……私を必要とする場面がくるとはな。


 身長は190センチほどあり、薄緑うすみどりの革鎧に身を包み、頭は迷彩のバンダナで覆い、目の下にはクマが出来ていて目つきが鋭い。大きな胸はサラシを巻いて押さえつけているが、鎧の上からでも膨らんでいるのが分かる。

 右手に小型の弓を持つ、それが暗殺キャラである私、メイアだ。


追跡トラッキング


 追跡トラッキングスキルを使用すると、馬車の中の足跡が光って見えるようになる。

 これはユグドラの足跡、これはリア、これとこれは夫婦の足跡だ。

 おかしいな、もう一つ足跡が無いといけないはずだが、ここには4人分の足跡しかない。


 だが1つずつ見ていくと、リアの足跡が途中から無くなっている。

 2つの足跡と争った形跡があり、どうやらリアはソイツらに担ぎ上げられたようだ。


 つまり、あの夫婦がリアを誘拐したのだ。


 足跡は馬車の外へと続き、ユグドラが戦っていたのと反対方向の林へと入っていった。

 馬車の裏へ逃げる音がしたのはコレだったのか。


 急いで足跡を追う。

 私は暗殺キャラだから、こういった対象を追跡するのはお手の物だ。

 しかし、まさかあの夫婦が敵だとは思わなかったな。


 足跡を見る限りだと、かなり手慣れた動きをしている。

 林の中なのに全く速度が落ちていないし、人一人ひとひとり担いでいるとは思えないほど的確に障害物を避けている。


 だが速度なら負けるはずがない!

 一刻も早くリアを見つけなければ。


「暗視ポーションを飲んでおこう」


 バッグから小さい薬瓶を取り出して一口飲むと、暗かった風景が明るくなる。

 昼間とは言わないが、早朝や夕方程度の見やすさだ。

 

 足跡の光が強くなってきた。

 どうやら近いな、そろそろ姿を消そう。


隠密行動ステルスムーブ


 ステルスムーブと同時に私の気配が消える。姿が消える訳では無く、私の存在を認識しにくくなるスキルだ。

 足音も無くなった。


 光る足跡の先を見ると……いた。

 正確には居るのが分かる、だ。

 どうやら暗殺キャラのスキルに気配を察知するモノがあるようだな。

 そのまま走る速度を上げると、今度は視認できた。


 間違いない、一緒に乗っていた夫婦の後姿と、リアだ。

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