第38話 内側から焼き尽くされる

 体をひねって回避しようとしたが、気が付くと左足どころか四肢に狼がみついて身動きが取れなくなっていた。


「そ、そんなバカな……!」


 このままでは俺どころか配下も巻き添えになるんだぞ!? イヌ科は群れを大事にするんじゃなかったのかよ!

 引きつる顔で上を見るとリーダー狼の足が目前まで来ていた。


「う、うわあーーーー!!」


 とっさに両手で防御したが、骨が折れて肉が潰される音がする。

 ああ、俺はこのまま潰されて死んでしまうのか……?


「あれ? 生きてる」

 

 しかし両腕は血で染まり、沢山の骨と肉がはみ出している。


「こんなに沢山の骨が肉を突き破ったのか、当分腕は使えな……こんなに骨があるわけないだろ!」


 しかし相変わらず凄い力で地面に押しつぶそうとしている。

 何とかこらえて地面を見ると、狼の顔が4つ落ちていた。

 腕にまとわりついた狼ごと持ち上げて踏みつけを防御し、リーダーは俺を潰す事に失敗して配下だけを殺してしまったのか。


 でも助かったのなら反撃のチャンスがある!

 腕に力を入れてリーダー狼の足を押し返すと少しずつ、いや、かなりアッサリと足を押し返し、足に噛みついていた狼も振り払えた。

 オーガと戦った時もそうだったけど、俺の力強さSTRはどうなってるんだ? 数トンは有りそうなリーダー狼を押し返せるなんて、ダンプカー並みの馬力が必要なんじゃないか?


 急いで立ち上がり、周囲を見ると狼たちは尻尾を腹側に巻いて耳を寝かせている。

 明らかに怯えているな。今まともな敵意を向けてくるのはリーダー狼だけだ。


 改めて左手の処刑執行人エクスキューショナーズ アックスを前に構え、右手のバトルアックスを肩にかつぐ。


「どうやら雑魚共は役立たずになったな、ここからはタイマンだ」


 ダイアウルフリーダーは生き残った数匹の配下をにらむが、戦意は回復しないようだ。

 むしろ板挟みになって逃げてしまった。

 あ~あ、上司失格だな。


 しかし逃げた先がマズい。他で戦っているパーティーの方向だ。

 こっちのシワ寄せが他に行ったらダメだよね、両手の斧を地面に突き立てて、投げ斧を数個取り出して投げつける。


 回転して飛んでいった斧は逃げた狼の尻から頭までを切り裂いて、さらに斧の回転に巻き込まれて狼は上空へと吹き飛んでいった。

 1匹だけ斧に絡みついて斧と一緒に地面に突き刺さっている。

 そして落ちた場所は他で戦っているパーティーのすぐそばだった。

 地面に刺さった狼も飛んでいった狼も、破れたヌイグルミの様にボロボロだ。

 よかった、冒険者の上に落ちなくて。


 ともあれ、これで完全にタイマンだ。

 地面に突き刺した斧を手に取り、今度はこっちが威嚇で2本の斧を2回ぶつけ合わせる。

 

 俺と狼リーダーは同時に前進した。

 相手に突進し攻防を繰り広げる。

 狼リーダーは右前足で俺を蹴り飛ばそうとするが、それをバトルアックスで受け止める。

 右前足を斬ろうと処刑執行人の斧で斬りつけるも硬くて弾かれてしまう。


 クッ! 確かに太い足だけど、弾かれるほどの硬度があるのか!

 すぐに牙が襲い掛かってくる。

 何度も噛みついて来るがギリギリで避け、何度かは斧で牙を斬りつけた。


 しかし牙を切り落とす事は出来ず、金属同士がぶつかる音がするだけだ。


 こいつの牙は俺の斧と同等以上の強度かよ!

 牙で防がれ足は弾かれ、どこを攻撃したらいいんだこいつは。

 噛みつき攻撃も恐ろしいが、踏みつけ、蹴り、爪での引裂きを絶え間なくくり出してくるため、俺は防戦一方になってしまう。


 ヤバい。

 懐に入り込んで腹を攻撃したいけどスキがない。

 口の中を攻撃したいけど牙で防がれる。

 力でねじ伏せようとすると軽くいなされる。

 左右に回り込もうにも素早くて無理。

 

 体が宙を舞った。

 防ぎ切れなかった爪の攻撃を腹に受け、鎧が裂けて血が吹き出す。


 草原に叩きつけられ、口から血を吐き出す。

 どうやら内臓までダメージが入ったみたいだ。

 一瞬の眩暈めまいから回復し、上体を起こして狼を探すとすでに目の前にいる。

 ……終わった。


 ダイアウルフリーダーは目の前で咆哮ほうこうを上げ、ルーン文字を読み上げた。

 ルーン文字……コイツは魔法を使えるのか。

 この魔法は知っている、フレイム・ストライク。

 俺が知る中で最大級の攻撃魔法だ。

 魔法抵抗レジストスペルスキルが高い俺でも、この状態だと助からない。


 詠唱が終わり、狼は俺を一瞥してから発動させる。


 俺を中心に巨大な火柱があがり、周囲の草は一瞬で消滅する。

 はは、ルリ子の魔法よりもずっと強力じゃないか。

 魔法抵抗のお陰でダメージがゆっくり入る。

 

 しかし長くは続かない。

 炎で酸素が奪われ息が出来なくなり、ローブとマント、麦わら帽子が焼失する。

 むき出しになったプレートメイルが溶け始め、切り裂かれた腹から炎が入り込み内側から焼かれ始める。


 ああ、また死ぬのか。

 すでに痛覚が無い、目も見えない。


 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 俺はドロドロになった鎧の姿で、リーダー狼の亡骸の後ろ脚を持ってを引きづりながら馬車群へと戻った。

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