第36.5話 別室7

 黒ずくめの男が街中の家の屋根を走り抜ける。

 まだ日も出ているのに、人目に付くことをいとわない速さだ。

 向かう先には豪華な屋敷が見える。


 ―失敗だ! 失敗した! 危険だ、危険だ危険だ危険だ危険だ!!―


 目しか見えない姿だが、酷く焦りが見えて、いや怯えているようにも見える。




 薄暗い部屋の中で、髪の長い男がワイングラスを片手に窓の外を見ている。


「緊急の報告のため失礼します!」


 天井から物音を立てて降り立った黒ずくめの男は、息を切らして報告を始める。


「あいつが動きました!」


 髪の長い男のまゆがピクリと動く。


「あいつ、とはまさか……」


「ヴォルフが動きました!」


「群れを先導しただけでは無かったのか!?」


 珍しく声を荒げ、ワイングラスからワインがこぼれる。


「10の群れを扇動しました。しかし、沈黙していたヴォルフまでも一緒に……」


 ワイングラスをテーブルに置き、自らの手も体を支えるようにテーブルに置いた。

 そして片手を顔にあてて震えている。


「100年以上、いやもっと長い間動かなかったヤツがなぜだ……いや、今はそれどころでは無い」


 顔を上げて天を仰ぐ。


「私は今からあの御方おかたへ報告に行く。ピエロモドキよりもヴォルフを優先しろ。危険だと思ったら離れるのだぞ」


「はっ!」

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