第33話 医者としての能力

「目を開けて! リア! リア!!」


 ベッドで横たわるリアは息をしていない。心臓も動いていない。

 なんで、なんで死んでるんだ!?


 どうすればいい、俺は何をしたらいい、心臓マッサージ? いや俺はやり方を知らない。

 いや違う、俺がするべきは心臓マッサージじゃない、治療だ、何のために治療スキルがMAXなんだ! 急げ!


 メニューのバッグから治療セットを取り出してリアに使う。

 カウントが2秒から始まり0になるが、リアは動かない。


「くそっ! もう一度!」


 治療スキルがMAXでも蘇生の成功率は低い。低いからなんだ、成功するまで続けるさ!


 何回続けただろう。

 100個近くあった治療セットが10個まで減っていた。


「どうして生き返ってくれないんだ、ゲームならとっくに生き返っているだろう!」


 いくらゲームのシステムが適応されていても、元々の住人にはダメなのだろうか。

 リアはどうして中毒症状がでているんだ、そして循環不全まで……ん? なんだ中毒症状とか循環不全って。

 なんで医者でもない俺にそんな事が分かるんだ?


 ステータスを確認するが、そもそも職業なんてないゲームだし、こんな知識なんて当然俺はしらない。

 じゃあ一体何が……。


 順番にメニューを調べていき、スキル表を開く。

 習得しているスキルと数値が表示されているが、特に変わった事はない。

 ん? 解剖学アナトミースキルと治療スキルが並んでいる。


 解剖学は人体の構造を良く知るためのスキル、治療は人体を治すスキルだ。

 この2つが揃えば医者と言えるんじゃないか?

 両方ともスキル値MAXな俺は、自覚のない医者だったのかもしれない。


 よし、なら医者としてリアを診断してみよう!


 中毒症状と循環不全を引き起こすモノは何だ?

 循環不全、血液の流れが悪くなって死に至ったのなら、中毒を引き起こしたものを特定しないといけない。

 リアの体をくまなく調べると、口の中から白い錠剤が見つかった。


「これはなんだ? 唾液で溶けかけているが、匂いや触った感じじゃ分からない」


 口に指を入れて取り出したが、何の錠剤なのか分からない。

 周りを見回すとテーブルの上に薬瓶が置いてある。

 これか? 茶色の薬瓶を手に取りラベルを見ると睡眠薬と書いてある。


 フタを開けて中を見ると、リアの口の中から見つけた錠剤とよく似ている。

 睡眠薬を大量摂取しての自殺!? いや落ち着け、自殺と決まったわけじゃない、誰かに大量に口の中に入れられて……それこそあり得ない。

 そんな状況で目覚めない程、俺はマヌケじゃない。


 ならどうして、ん? 薬瓶をテーブルに置くと、すぐ横に紙が置いてある。

 手に取ると文字が書いてある。


 ごめんなさいユーさん

    さようなら


 これはリアの字だ。

 コレオプテールにも弁当にも書いてあった文字と同じだ。


 本当に、自殺を、してしま、ったのか?

 目の前が暗くなってテーブルに手をつく。

 俺は嫌われていたのか? 一目惚れだと言ってくれたのはウソだったのか? よろしくお願いしますと言ってくれたのは何だったんだ!


 嫌われていたのなら、俺はリアの前から姿を消す。

 だから、生き返ってくれ!!


 死亡原因が分かったのなら蘇生できるかもしれない。


 もう一度ベッドの前に立つ。

 睡眠薬による中毒が残っているのだろう、まずはそれを治す。

 しかし治療セットの数が少ない、だから魔法で解毒をしよう。


解毒キュア!」


 リアの体の周囲に小さな光の粒が渦を巻く。

 この反応は解毒成功だ。

 これで睡眠薬は体から除去された。


 循環不全は睡眠薬の効能から引き起こされた症状だから、これで蘇生が出来るはずだ。


 残り少ない治療セットを使い、蘇生を試みる。

 治療セットが無くなっても、ルリ子に交代して魔法のレザレクションで蘇生を繰り返すさ!


 治療セットをリアに使用する。

 カウントが2秒から始まり、0に、なった。


 トクン  トクン


 静かに、ゆっくりと心臓が動き出す。

 胸に手を当てると確かな鼓動を感じる、体に血液が巡り、顔色が良くなっていく。


「成功……した?」


 本当に? 本当にリアは生き返ったの? だって、うん、顔色は良いし暖かく……はなってないか、生き返ったばっかりだもんな。


「カゼをひく!」


 体が冷たくなっているのなら風邪をひいてしまうかもしれない。

 えっと、えっと、そうだ! 昔のドラマで肌と肌を合わせるのが良いって見た事がある!

 急いでベッドに寝転がってリアを背中から抱きしめる、これじゃ前が寒そうだ。

 布団で2人まとめてくるまった。


 これなら温かいかな、風邪ひかないですむかな。

 布団にくるまりながら、リアの体や顔をさする。

 うん、温かくなってきてる。心臓の鼓動も安定してるし、大丈夫、だよね?




 数時間ほどそのままでいた。

 リアの腕がピクリと動く、足が膝を曲げようとしている。


 俺だけ布団から抜けてリアを仰向けで寝かせる。

 静かに寝息をたてていたが、小さなため息と共に目を開けた。


「リア、おはよう」

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