第31話 恋人で居られたのはたった数分間

「確変だなんて、パチン〇でもやるのか?」


「パチ〇コなんてやらないよ! 確率変動だよ確率変動!」


「それはパ〇ンコ用語だ」


「そなの?」


「〇チンコ以外では使わないんじゃないかな」


「お兄さんお兄さん、いま〇の位置がマズくなかった?」


「それはさておき、ダイヤは確率を操作できるのか?」


「そう! すごいっしょ! だからお姉さんの蘇生成功率0.2%が10.2%まで上がったんだよ!」


 胸を張って腰に手を当てている。

 確かにすごいな。確率を操作できるなんて、運を引き寄せるようなものだ。


「そうか、生き返ったのはダイヤの功績も大きいな。ありがとう、助けてくれて」


 俺とアセリアさんが一緒に頭を下げる。


「いやいや~当たり前の事っすよ~」


 すごい照れてる。感情豊かだな。

 それはそうと、もう1つ気になる事を言ってたな。


「ずっと俺ともう1人を見てたって、どうやって見てたんだ?」


「ああそれね、行動ポイントを25使えば、継続的けいぞくてきに指定した対象の状態を見れるんだぁ」


 行動ポイント? 聞き覚えがあるが何だったかな。

 そうそう、ブラウザゲームで時間と共に回復する奴か。

 ん? じゃあコイツのゲームってブラゲなのか?


「じゃあ確率を変えるのは何ポイント必要なんだ?」


「100」


「行動ポイントのMAXはいくつだ?」


「今は113」


「スゲー使うんだな」


「そうなんだよ~、まあ1分1ポイント回復だから結構回復したし、アイテム使えばまとめて回復するし」


 ブラゲで異世界か。どんなシステムが適用されてるんだろう。


「あ! ヤバ! いつまでもココにいたらアイツらが探しに来ちゃう! 私帰るね! バイバーイ」


 そう言って一瞬で目の前から消えた。

 ……なんだ、一体どんな魔法、いやコマンドを使ったんだ。


 怒涛の様に喋ってあっさりどこかへ行ってしまったな。

 ダイヤって呼んだら返事するし。ジュエルだろお前。


「あのユグドラさん」


 大体ブラゲで異世界ってどうなんだ? 場合によっては最強なんじゃないかな、プレイヤーを倒す事が出来ないゲームが多かった気がするし。


「ユグドラさん?」


 コマンドで制作や開発、現代兵器とか作られたら手に負えないじゃないか。


「ユグドラさんってば!」


「は、はい! なんでしょうか」


 顔を両手で持って振り向かされた。


「もう! 何回も呼んでるのに!」


「すみません、考え事をしていました」


 あ、アセリアさんの顔が近い!


「大丈夫なんですよね?」


「大丈夫? 何がでしょう」


「お体は、大丈夫なんですよね」


 ああ俺の体の事を心配してくれたのか。


「はい、アセリアさんのお陰で、無事に戻ってこれました」


「よかった」


「アセリアさん」


「はい?」


「ユーと呼んでくださいますか?」


 アセリアさんの顔は一瞬の間をおいて、瞬間湯沸かし器の様に顔が真っ赤になった。


「その! それはそのっ! 私の妄想で、あ! 別に違うんです! ユグドラさんと恋人になったらユーさんって呼ぼうとか、私の事はリアって呼んでもらおうとか考えてたわけじゃなくって、ただの妄想で……ひやぁぁああぁぁああああっぁぁぁぁ!」


 後ろを向いて、頭を抱えて地面にしゃがみ込んでしまった。

 そうか、リアって呼んでほしかったのか。


「り、リア」


 すごい勢いでこっちに振り向いた。

 顔は真っ赤なままで、少しニヤけてる。

 しかし困った事に、今度は俺の顔が真っ赤になっているのが分かる!

 スゲー照れる! でもなんか嬉しい!


「ゆ、ユーさん、手で顔を覆うのをやめて私を見てください」


「……はい」


 両手を顔から離してアセリアさんを見る。

 いつの間にか目の前に来ていたアセリアさんの顔は、相変わらず真っ赤っかだ。

 そうだよな、アセリアさんだって恥ずかしいんだよな。なのに勇気を出して俺に話しかけてるんだし……俺も勇気を振り絞らないと!


 ジっとアセリアさんの顔を見て、胸の前で握りしめているアセリアさんの両手を、俺の手で包み込む。


「あ、アセリアさん、一目惚れでした、私とお付き合いしてください」


 何とか言葉を振り絞る。

 するとアセリアさんはポロポロ涙を流し始めた。

 あれぇ!? 違ったの!? ひょっとして俺は盛大な勘違いしたのか!?


「私も一目惚れでした。よろしくお願いします……!」


 感極まってアセリアさんを抱きしめると、アセリアさんも俺の体に腕を回す。

 勇気って、出してみるもんだな。こんなにうれしい気持ちになれるんだ。




 しばらく抱きしめていると、どちらともなく腹が鳴った。

 ここは俺の腹が鳴った事にしておこう。


 笑いながらアセリアさんが離れると、お弁当を用意してくれた。

 大きな弁当箱が3つ、エリーナの分も用意してあったようだ。

 街に戻ったらギルドに報告しないとな。


 近くの大きな樹の下に皮の敷物を敷いて、2人で並んで座った。


「あれ? ギルドに報告っていえば、依頼の素材を全く集めてない」


「大丈夫ですよ、ここに来るまでにいくつか集めたので、あと少しあれば足ります」


「流石ですアセ……リア、良いお嫁さんになれます」


「お嫁さん!? お嫁さんに貰ってくれ……ますか?」


「もちろんです」


「不束者ですがよろしくお願いします」


 恋人が出来て数分で嫁が出来た。

 お互い正座で向き合って頭を下げた。何度目だ。


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