第22話 くそっこのままじゃ……番長たのむ!

 馬で目的地へ向かう途中でアズベルさんから説明を受けた。

 人狼ワーウルフは集団戦闘が得意で、最大の武器は連携、その次が素早さとキバつめらしい。

 かこまれるのは何としても阻止したいが、平原での戦いになるからほぼ囲まれるらしい。


 ワーウルフは全身に毛が生えており、走る時は4本足で走った方が速い。

 2足歩行が出来るようになった狼、といった感じのようだ。


 障害物の少ない平原か。少ない障害物を最大限利用しないといけないな。


「罠や待ち伏せは使えませんか?」


「罠も待ち伏せも通用しない。目も鼻も良いからすぐにバレてしまう」


 そっか~狼ってようはイヌ科だもんな。鼻は効くし犬と違って目も良い。良いとこ取りだな。


「ん? それってかなり強敵ですよね? 私達だけで大丈夫なんですか?」


「だからお前を連れて来たんじゃないか。普段ならもう1つか2つパーティーを呼んで討伐に当たるんだ」


「き、期待されているのでしょうか」


「おうさ、頼むぜユグドラ。この依頼は報酬が少なくてな、ずっと掲示板に貼ってあったんだ。何とかしたくてもどうにもできなかった」


 アズベルさんのパーティは戦士5人、魔法使い2人。それに俺とエリーナさんを加えて9人だ。

 精々1.5パーティー分の人数しかいない。


 つまり俺に2パーティー分の働きをしろって事でしょうか?

 一通りの話しが終わり、馬を急がせて目的地へ走った。

 気になる点と言えば、エリーナさんがとても静かな事だ。昨日までとなにか違う。


 昼近くには目的地へ到着した。

 あー平原だな、見渡しても細い木がまばらで岩が少々、膝上くらいの草むらがあるだけで、他には何もない。

 見晴らしが良いという事は目標を発見しやすくなるが、こちらも見つかりやすくなる。

 とはいってもこれだけ見晴らしがよければ、近づいて来るものはすぐに発見できそうだ。


 しかしそうもいかなかった。

 ワーウルフの身長は1.5~2メートル。のはずだった。

 突如として現れた小型のワーウルフに襲われたのだ!

 どうやら地面に穴を掘って潜んでいたようで、奴らは1メートル足らずで数が20匹以上はいる。


 しかも草むらが邪魔で小さいワーウルフは見つけにくい。

 見えない敵を相手にしているうちに、通常サイズのワーウルフが接近してきて襲い掛かってきた!

 

 そして敵の総数は約60匹……予想を大幅に上回り、追い打ちをかけるように空からは人の姿に似た鳥・ハーピーの群れが現れてしまう。


「アズベルさん、ハーピーまで居るとは聞いていません」


「ああ俺も聞いていない。しかしこれでは逃げることも出来ないから、やるしかないな」


 俺達はとっくに囲まれており、ワーウルフの相手だけでも必死なのに、ハーピーまで現れては覚悟を決めるしかなかった。

 なんの覚悟か? 決まってる、こいつらを全滅させて街に帰る覚悟だ!


 方円陣を組んで背後だけでも取られない様にしているが、地上からはワーウルフ、空からはハーピーに襲われているため、陣形はあまり意味をなしていない。

 せめて空か地上のどちらかに集中出来れば、全員生き残れる可能性がありそうだ。


 しかし時間は無い、今すぐにでも……悲鳴が上がる。

 エリーナさんがワーウルフに太ももを噛まれている!

 今すぐ助けに行きたいが、今ここを離れたら内側にワーウルフが入り込んでしまう!


 エリーナさんが2匹目に胴体を噛まれて倒れ込んだ。

 そして今だと言わんばかりに大量のワーウルフがエリーナさんに襲い掛かる。

 クソッ! 仕方がない!


「ブレードスピリット!」


 俺の前方10メートルのあたりの地面から、2メートルほどの長さの幅広の剣が突き出てきた。

 剣は花が咲くように表面がけ、高速で回転を始めると周囲のワーウルフを追いかけ切り刻み、敵の注意が剣の精霊ブレードスピリットへと移った。


「そいつは無差別に攻撃をします! 近づかないでください!」


 今のうちだ! 俺はエリーナさんに駆け寄り、何重にも重なったワーウルフをバトルアックスで蹴散らす。

 ワーウルフをどかすと倒れているエリーナさんがやっと姿を現した……が、無残な姿になっていて、すでに息をしていなかった。

 もっと、俺がもっと早く判断していれば助けられたはずだ。


 いや待てよ、俺の治療スキルは蘇生も可能だ。しかしこの世界で可能なのか? この世界のことわりとゲームシステム、どちらが優先されるんだ。

 いや悩む必要はない。試してみればいいだけだ!


 バッグから治療キットを取り出して治療を開始する。

 2秒からカウントダウンが始まり、0になり治療が完了した。

 どうだ? ダメなのか?


 表面上の傷は治っている、しかし息は吹き返さない。

 もう一度だ!


 治療キットを使用し、目が覚めるのを待つ。

 そして5回目に治療キットを使用してやっと息を吹き返した。

 

 ゲームシステムが通用した。スキルの効果はゲーム時代と同じなんだな、よかった。


 エリーナさんが息を吹き返したとはいえ意識は無く、すぐには動ける状態ではない。

 俺が治療している間、みんなには途轍とてつもない負担がかかっていたはずだ。急いで戦線復帰しないと。


 だがどうする? このまま斧で戦っていては時間がかかり、みんなの体力が持たないかもしれない。

 ルリ子に替わるか? いや、この状態だとみんなを、特にエリーナさんを巻き添えにしかねない。

 他に思いつくのは、豊富な攻撃手段を持つ番長か……よし!


「ああっ! あんなところにシリアイがいる! 呼んでくるからスコシダケまっててくレー」


 抜群の演技力でその場を離れ、ワーウルフを利用しながらみんなの視界から見えない場所に行く。

 ここなら大丈夫だろう。


「番長にキャラクターチェンジ!」


キャラクターチェンジ

  ユグドラ

  ルリ子

  しずか

 ⇒番長

  ディータ

  メイア

 ◆ユグドラ⇒番長◆

 体が薄く光り、自分の姿がゆっくりと変わっていく。

 うむ、ワシじゃ!


 黒い長ランの背中には喧嘩上等けんかじょうとう刺繍ししゅうが施してあり、右胸には悪鬼羅刹あっきらせつ、左胸には魑魅魍魎ちみもうりょう、後ろが破れた学生帽をかぶったこのワシ、番長様の登場じゃい!

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