第17話 オンラインゲームじゃない!

 どうやらオーガは5匹、狼は10匹以上いるようだ。


「助太刀感謝する。しかし、残念ながら1人増えた所で状況は変わりそうにない」


 この馬車群の護衛をしている冒険者のリーダーだろうか、薄手の革鎧に細身の剣を装備し、身長は175センチほどで髪は短い金髪、あごにうすいひげを生やしている。

 状況が最悪なせいもあり、表情は厳しい。


「今戦える冒険者はここに居る人だけですか?」


「ああ、馬車の周囲に居る奴らは手負いの冒険者だ。自分の身を護るので精一杯だろう」


 なるほど、戦えるのはここにいる10~15人といった所かな。

 それに引き換えモンスターはオーガ5匹と狼が10匹、狼は見えない所にもっとひそんでいるだろう。

 ここに居る冒険者たちも疲労困憊ひろうこんぱいで、戦うにしても長時間は無理だな。


 俺は元気とはいえ、イマイチ自分の実力がわかっていない。

 ゾンビやゴブリン、盗賊相手なら問題なかったが、オーガや大型の狼相手はどうなんだ?

 特にオーガは強敵だ。


 そんな事を考えていると、オーガが襲い掛かってきた!

 うおっ! のんびり考えてる場合じゃないな! 体力が残っているなら動き回るんだ!

 

 オーガの上空から振り下ろされる右の拳は地面をへこませ、左手は俺を捕まえに来た。

 こんな怪力で捕まったら一瞬で潰される!

 反射的にオーガの左手に斧を突き立てると、抵抗なく簡単に左腕を切り落とせた。


 悲鳴と共に体を起こし俺を踏みつけに来たが、オーガは動きが鈍いため、今度は足に斧を振るう。

 すると今度も抵抗なく、それこそ素振りしているのかと思うほど簡単に足を切り落とせた。


 ……何だこれ、確かにゲームでは、斧は相手の防御力を無視してダメージを与えられたけど、こんなに簡単に斬れるのか?

 それに狼も動きが遅い。かなり大型だが、狼だ。その動きが遅いっていうのも理解しがたい。


 いや考えを変えてみよう、アルティメット・オンライン感覚で戦ったらどうだ?

 ゲームの時ならオーガはもちろん、狼だって動きは遅かった。

 よし、試してみよう。


 何も考えず前進すると、手負いのオーガと狼3匹が俺に向けて攻撃を開始する。


「お、おい! なに無防備に歩いてるんだ!」


 冒険者リーダーが悲鳴に近い声を上げる。

 それほど俺は何も考えずに歩いているからだ。

 しかし周囲の心配とは裏腹に、俺はオーガも狼も一瞬で切り捨てていた。


 自動反撃オートカウンター。俺は攻撃しようとしてないが、ゲームの時と同じようにシステムが勝手に攻撃してくれたようだ。

 そして少なくとも、ゲームを引退した時と同等の能力を発揮はっき出来ているようだ。

 つまりオーガも狼も、俺にとってはザコでしかない。

 油断さえしなければ、たいていの相手には勝てる、という事か。


 いやもう少し試しておこう。俺の強さはどのくらいなのか、この戦いである程度確認しておきたい。


「お、お前スゲーな。オーガと狼をあっという間に倒すなんて」


「そうですね、自分でも驚いています。相手の能力を数値化できれば、もっと楽に戦えるのですが」


「能力を数値化? そりゃ便利そうだ、俺も数値化して欲しいぜ」


 やっぱりそうだ。この世界の住民はメニュー画面はおろか、ステータスも表示されていない。

 ゲーム感覚なのは俺だけだ。


 オーガと狼がザコと分かったら余裕が出てきたのか、改めて周囲の状況が目に入ってきた。

 馬車の数は23台、中には乗客と商人らしき人物が乗っており、燃えている馬車にはもう人は乗っていないようだ。

 それを護衛する冒険者の数は50名程で、大半が大怪我のため馬車周辺で身を守っている。


 他の場所にオーガが3匹、狼が無数に倒れているから、かなりの乱戦だったのだろう。

 それで今動ける冒険者が13人にまで減った、と。

 それでもオーガ4匹と、狼は見える範囲でも10匹以上、隠れている狼はそれ以上いるだろう。


 それならここは俺一人で戦った方がいいな。


「ここの奴らは私が相手をします。皆さんは馬車の防衛をお願いします」


「お、おうわかった!」


 冒険者リーダーと他の人たちが馬車の方へ向かう。

 多分、下手に近くに来られたらえにしかねないからね。

 うっし、今度は自動反撃オートカウンターではなく、自分の意思で戦おう。


 オーガの群れに向かって走る。

 大型の狼が四方八方から駆け抜けるように襲い掛かってくるが、攻撃はせずに全てかわした。

 長く赤いマントが少し裂けてしまったが、後でしずかで直そう。

 狼の動きは、恐らく早い。

 しかし俺がそれ以上に早く動けているのだろう。軽くステップを踏む感覚で大丈夫だった。


 そして次は反撃。

 走って攻撃した狼は方向転換をしようとするが、紐の付いた投げ斧を振り回してまとめて倒せた。

 近くの狼はバトルアックスで1匹ずつ丁寧に倒していく。

 噛みつこうとする奴は口から胴体まで切り裂き、飛びついてくる奴は斧の横面で地面に落とし叩き潰した。


 見える範囲の狼はいなくなった、次はオーガの番だな。

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