41.ヤンキーか!
陛下のそのお言葉に、わたしはほっとした。
よかった、ビッチちゃんと違って、その家族はひどいことにはならなそうだ。
傍聴席にいる人々もそう感じたらしく、あちこちから
「──っ!!」
なんでよ! という感じで、ビッチちゃんが目を剥いた。その場で
今まで十分男爵はビッチちゃんの尻拭いしてきたじゃん。それなのに、ビッチちゃんのせいで重い罪に問われるって
でもまあ、この国は光の精霊王のシダースさんが守護している関係で凶悪犯罪が出にくいから、身分が高くても比較的性善説よりな考え方をする人が多い気がするな。
そういう意味では、パーカー侯爵家とかビッチちゃんが、この国では異色すぎるんだよね。前世日本でも電波扱いはされるだろうけど、こういう人がまったく皆無ってわけでもなかったし。
わたしがそんなことを考えていると、陛下はお言葉を続けられた。
「ビッチ・スタインは、日頃から当主である父親の苦言にも耳を貸さず、なおかつ勝手に男爵家の資産を遣い、スタイン家を困窮に陥らせていた。だが男爵は、領民が飢えることのないよう最大限配慮していた」
すると、ビッチちゃんが大げさな身ぶりで主張しだした。シダースさんに言葉を制限されているけれど、一応裁判だから反論は許されているらしい。わたしからすると、「どうせまともな意見は言わないし、無駄じゃない?」って感じだけど、まあ様式美というやつなんだろう。
「そんなの嘘です! だって、うちの領ってほんとになにもないんですよ! まともな収入源を作ろうともしないのに、配慮もクソもないじゃないですか!!」
ビッチちゃん、陛下にクソっていう言葉遣いはないでしょ。はたで聞いてるほうがめまいを覚えるレベルだわ。あ、でも、さっきもディアナのことクソ女って言ってたから今さらかな?
「そのまともな収入源を作らせまいとさんざん邪魔をしていたのはそなたであろう? スタイン男爵領は特に痩せた土地でもないのに、かなり困窮しているのは不思議だったが、調査させて驚いたわ」
「そんなこと……! うちの領が貧乏なのは、こいつが無能なだけですよ!!」
ビッチちゃんがスタイン男爵を指さしてみっともなくわめいた。
実の父親をこいつ呼ばわりって、ビッチちゃん、ここが公の場だって分かってる? それだけで、日頃からのスタイン男爵に対する態度が窺えるって、この場にいる皆に知らしめているようなものなんだけど。
「控えよ、ビッチ・スタイン。その態度が、よけいにそなたの首を絞めているのが分からぬのか?」
「……っ!」
性懲りもなく実のない反論をしようとしていたのか、シダースさんにまた言葉を封じられ、ビッチちゃんは悔しそうに陛下を睨みつけた。
その隣でサバス様がビッチちゃんを嫌悪の目で見ているけど、あなたも彼女とご同類ですからね? ビッチちゃんの行状がひどすぎて、サバス様が
「貴族学園に入学する七カ月ほど前に、ビッチ・スタインは男爵が計画していたカライア鶏と地鶏を掛け合わせる事業を自ら妨害した。貴重なカライア鶏をクロスボウですべて撃ち殺し、卵を叩き割ってまわるという、貴族令嬢としては信じられぬ所業でな」
ええ……。
陛下からお聞きしたビッチちゃんの行動に、わたしのみならず、会場中の人たちがドン引きした。
あ、カライア鶏って、前世で言う
「わたしは親切でやってあげたのよ! あんなまずそうな鶏で事業興すなんて、どう考えてもお金をドブに捨ててるじゃない!」
まあ、カライア鶏の肉って黒くて、見た目おいしそうな食材じゃないのは確かだよね。卵はうちでも頻繁に出るけど、肉はあんまり食べたことないなあ。──あ、閑話休題。
「親切心からの行動とそなたは主張するが、なぜ、わざわざ鶏を撃ち殺す必要があるのだ?」
「もちろん見せしめに決まってるじゃない! あんなくっだらない鶏に使うくらいなら、そのお金をわたしに回すべきでしょ!!」
……見せしめで、自ら鶏を
普通のご令嬢なら、鶏の死体見ただけで気絶してもおかしくないくらいなんだけど。……え、わたし? わたしは普通の令嬢像から外れているので、もちろん当てはまりませんよ。
「そのほかにも、領民の畑や家屋をたびたび焼きはらっただろう。それも見せしめと言うか?」
「そうよ! あのゴミどもが身分をわきまえずにわたしの悪口を言ってたから懲らしめてやったのよ!」
いや、一番身分をわきまえてないの、ビッチちゃんじゃん。どんだけ自分中心に世界が回ってると思ってんだ。そもそも領民がビッチちゃんの悪口言ってたのも、そう言われる積み重ねがあったからじゃないの?
けど、温厚な国民性とはいえ、よくビッチちゃん領民にボコボコにされなかったな。下手したら殺されてもおかしくない。
しかしビッチちゃん、お礼参りで校舎の窓をすべて叩き割ったりする、すさんだヤンキーみたいな精神性だなあ。その行動力を別のことに回せばいいのに、悪いほうばかりに発揮するって、わけが分からなさすぎる。
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