24.勘違いもほどほどに!

「……ビッチ・スタイン。わたしはそなたに発言を求めていない。それに、わたしは発言中だった。なぜそなたはわたしの言葉をさえぎるのだ?」


 まあ、そこは突っ込まれるよね、とわたしが感じたことを陛下は発せられた。


「え? だって、わたしがいじめられたのに王様がディアナは悪くないっていうふうに言ったから……」


 うわあああ、ビッチちゃん、陛下に向かって「だって」とか「言ったから」って言葉遣いはありえない。

 一応貴族令嬢でしょ? せめて丁寧語くらいは使おうよ。


「『わたしがいじめられた』から? なんの功績があるわけでもない貴族最下位の家の娘が何様のつもりだ? 第一、ディアナ嬢を貶しながらいじめられたと主張してもなんの説得力もない」

「そんな! いくらディアナの身分が高いからって、そんな言い方ってひどすぎます!」

「そうです! ディアナ・ハウアーは嫉妬からビッチをいじめたのです! その罪はきちんと問われるべきです!」


 無礼すぎるビッチちゃんを後押しするように、サバス様が擁護する。えええ、ここまで陛下がおっしゃっているのに反論するとか馬鹿でしょ。


「黙れ、サバス・パーカー。……ああ、もうよい。最後の判決の際に言い渡すつもりであったが、そなたとそこの無礼なビッチ・スタイン男爵令嬢をともに王家に対する不敬罪とする」


 ……あーあ、あまりの話の通じなさに、とうとう陛下がさじを投げられてしまったよ。こんなしょっぱなから不敬罪言い渡されるって、なにやってんだろ、この二人。

 すると、陛下のその決定が意外だったのか、お花畑たちが慌てだした。


「えっ、えっ? なんでわたしが不敬罪なの!?」

「ぼっ、僕が不敬罪とはどういうことですか!? 僕はただ、間違いを犯された陛下をお諫めしただけです!!」


 ……どう見ても、間違いを犯したのはサバス様のほうです。本当にありがとうございました。

 真っ赤な顔をして怒鳴るサバス様をあきれながら見ていると、冷ややかな目をした陛下が彼におっしゃった。


「間違っているのは、サバス・パーカー、そなたのほうだ。そもそもディアナ嬢やマグノリア嬢はそなたを嫌っているので、そこの無礼な男爵令嬢に嫉妬するわけもない。むしろ二人は、ビッチ・スタインから執拗に嫌がらせを受けていた立場だ」

「そんなわけがありません! ディアナ・ハウアーやマグノリアは、僕を愛しているのです!!」


 サバス様、直前にディアナに大嫌いと言われておきながら、よくそんなことが恥ずかしげもなく言えるなあ……。ポジティブシンキングと言えば聞こえはいいけど、はっきり言って痛々しい。そして、隣にいるお兄様から発せられる冷気がわたしの肌を刺してちょっと痛い。

 ……お兄様、気持ちは分かりますが、この場でサバス様をっちゃ駄目ですからね!


「……あれだけ二人に好いていないとはっきり公言されておきながら、なぜそう思えるのか不思議でならぬ。……ディアナ嬢、サバス・パーカーはこう申しておるが、どうなのだ」


 あきれたような顔でサバス様を見られたあと、陛下がディアナに話を振られた。

 すると、ディアナがいい笑顔ではきはきと答える。


「ええ、もちろんサバス・パーカー様のことは大嫌いですわ。蛇蝎のごとく嫌っております」

「なっ、なんだと!?」

「マグノリア嬢はどうだ」


 気色ばむサバス様を陛下はスルーして、今度はわたしに話を振られる。よし来た、わたしのターン!


「はい、この際ですからはっきり申しますが、わたしもサバス・パーカー様のことは大嫌いです。彼の尊大な性格じたいが受け付けません」


 ディアナに続いて、わたしがいい笑顔で答えると、サバス様は「なんだと生意気な!」と怒鳴ってきた。

 いや、わたしもディアナも陛下の質問に正直に答えただけだもんね! けっして、ざまぁなんて思ってないよ!


「陛下! マグノリアもディアナ・ハウアーも嘘をついています! 二人とも僕を愛しているはずです!!」


 ……こんなにはっきり否定しているのに、その自信はどこから来るんだ。勘違いもここまで来るともはや災害レベルだぞ?

 わたしと同じ考えらしい傍聴席の人々からも、あきれた視線がサバス様に送られる。


「この場で嘘をつくことは偽証罪に問われる。二人が嘘をつくことはない」

「その前提が間違っているのです! この二人は、僕の愛するビッチをいじめるような人間なのですよ!」


 ……うわー、サバス様、しつこすぎ。ここまで必死になられると、さすがにドン引きなんだけど。なにがそんなに彼をこんな異常言動にかき立てるんだろう。

 なおも陛下に噛みつくサバス様に、わたしがあきれ返っていると、ふとその場に涼やかな美声が響いた。


「──マグノリア・ホルスト、ディアナ・ハウアー両名の証言は真実である。それは、わたしが保証しよう」


 そして、なにもない空間から、金色の神々しい光をまとわせて、わたしの旧知であるシダースさんが現れた。

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