21.大魔王降臨!
「エディル!」
そんなこんなで、騒ぎにまぎれて入廷したわたしたち一家を先に来ていたらしいディアナたちハウアー家の方々が迎えてくれた。
「ディアナ、ここに来るまで無事だったかい? あの馬鹿になにもされなかった?」
「ええ、大丈夫よ。あの馬鹿には会わなかったし」
お兄様と抱き合いながらディアナは言った。むぅ、相変わらず仲いいのう。
それにしてもあの馬鹿でしっかり通じてしまうサバス様すごいな。全然うらやましくないけど。
「それはよかった。こちらは運悪く馬鹿二人に出くわしてしまってね。マギーに絡んできて大変だったよ」
「まあ! それは災難だったわね、マギー」
お兄様の腕に抱かれたままわたしへと振り返ったディアナに答えたようとした途端、驚愕したような声が聞こえた。
「なあっ!? ディアナ・ハウアー、貴様僕というものがありながら浮気をしていたのか!」
「……はあ?」
なに言ってんだって感じでディアナが声のしたほうを見やる。そこには案の定馬鹿、もといサバス様がいた。
「いったいなにを言っているのかしら? わたくし、あなたの婚約者でもなんでもないわ。第一あなたの恋人はスタイン男爵令嬢でしょう」
「しっ、しかしっ、貴様は僕のことが好きだったはずだろう!!」
「──冗談じゃないわよ、気持ちの悪い」
「なっ!?」
お兄様に肩を抱かれながら、半眼になったディアナがにべもなく言った。うん、ディアナの気持ちはよく分かるよ。毛嫌いしてる男に勝手に浮気だなんだと騒がれたんだもんね。
「わたくし、あなたのことが大嫌いなの。こちらはあなたにしつこく言い寄られてとても迷惑しているのに、勘違いもはなはだしいわね」
「なっなっ、なんだと生意気な! そんなことを言っているが、貴様はビッチをいじめていたではないか!」
鼻白んだサバス様に一人で現れたビッチちゃんが駆け寄ってきた。一緒にいるはずのスタイン家の人々はどうしたのかと思ってたら、ビッチちゃんからだいぶ遅れて姿を現した。
「そうよそうよ! わたしをいじめたくせにえらそうに言ってんじゃないわよ! それにいつまでエディル様にくっついてるの!? とっとと離れなさいよ、この胸だけ女!!」
ディアナを指さしながらのビッチちゃんの暴言に、言われた本人のみならず、傍聴人までもが一気に引いた。
えええええ、ビッチちゃんアホの子すぎる。ここが裁きの場だって全然分かってない。まだ開廷はされてないけど、傍聴人という大勢の証人がいるんだぞ。
「なんということを! ビッチ、この方に謝るんだ!!」
常識人のスタイン男爵が顔を真っ青にして叫んだけれど、当のビッチちゃんはどこ吹く風だった。
「なんでわたしがこんな女に謝らなくちゃなんないのよ。恥知らずにも嫌がっているエディル様に抱きつくなんて浅ましいったらありゃしないわ。さ、エディル様、そんなブスほっといてこちらへ来てください」
「──黙って聞いていれば、言いたい放題。ディアナが君をいじめた? いったいどちらが浅ましいのか。ここでの君の暴言だけでも、どちらがいじめたほうなのか丸分かりだ」
ひんやりとした冷気を発しながらお兄様が低い声で言った。
そばにいるディアナが凍えちゃわないか心配だったけど、一応セーブしているようだ。ほっ、安心安心。
けれど、明らかにキレているお兄様のその言葉に、ビッチちゃんはなぜか顔を輝かせた。
「やっぱり、エディル様もそう思いますよね! わたしみたいな
そのもののおまえに言われたくないよってディアナ思ってそう。つーか、自分で美少女とか公言するな。ビッチちゃんが可憐? か弱い? なにそれおいしいの?
「わたしは貴様のことを言ったんだよ、ビッチ・スタイン。天よりも自己評価が高いようだが、貴様の顔面偏差値は平均よりも下だ」
……おおおおお、お兄様の口調がどんどん崩れてきた! これはまずい兆候だぞ!
内心ハラハラしながらわたしが見つめていると、空気読めないビッチちゃんがありえない発言をした。
「えっ!! エディル様なに言ってるんですか!? 照れなくてもいいんですよ! エディル様はわたしが好きなんですよね!」
「なっ、そうなのか!? 僕たちは愛し合っているのに、横恋慕など浅ましいな!!」
ビッチちゃんに同調するようにサバス様が怒鳴ってきたけど、さんざんディアナに迫っていたおまえが言うな、って感じだよね。
今やお兄様は嫌悪を隠さずに、眉間にしわを寄せている。
「そんなわけないだろう。冗談でもやめてくれ。わたしは昔からディアナを愛している」
「エディル様、この女のほうが身分高いからって無理しなくてもいいんですよ! 本当はこんなクソ女にまとわりつかれて迷惑してたんですよね!?」
「──黙れ、このドブスクズが」
お兄様が恐ろしい気を発して一言言ったあと、異変は起こった。
それが勢いよく逆立ったと思ったら、ビキビキと音を立ててそのまま固まった。
「ぎゃっ!? なっ、なによこれ、なんなのよっ!?」
パンクヘアよろしく逆立ったショッキングピンクの髪を押さえながら、ビッチちゃんが錯乱したように叫んだ。
うん、いきなり髪が逆立って凍ったら、いくら非常識なビッチちゃんでもさすがにびっくりするよね。そばにいる非常識その二のサバス様もビッチちゃんの頭を見て呆然としてるよ。
──ぷっ。
傍聴人席から吹き出す声がしたと思ったら、それに呼応するようにあちこちで笑い声が響いた。……こっちは我慢してるのにやめてよ! お花畑たちと直接関わらない人は気楽でいいよね!
そこで、ぎゃーぎゃー騒いでるビッチちゃんをうっかり見てしまったわたしは、思わず吹き出しそうになってしまった。だけど、ここで笑い声なんぞ立てようものなら、ビッチちゃんにどんな言いがかりをつけられるか分かったもんじゃない。
でもあの凍結ドピンク髪、地肌はうまく避けてるから体じたいには影響なさそうだけど、しばらく溶けないんじゃね? ビッチちゃん、一番怒らせちゃいけない人を怒らせちゃったね!
お兄様、ディアナが絡むとほんとに人が変わるからね! くわばらくわばら。
──けどお兄様、被害が拡大しますから、凍らせるのはどうか馬鹿だけにしといてください。
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