15.現状把握!
「へえー、話には聞いてたけど、これがうわさのポテトチップスか」
──再び生徒会室。
感嘆したような声を出すと、物珍しそうにアーヴィン様が指で挟んだポテチを眺めている。
わたしは、またまたお兄様と一緒に王太子であるアーヴィン様とお茶していた。
お兄様は慣れているので、ジンジャーエール片手にポテチつまんでるよ。
「……おいしい! 甘くない菓子というからどんなものかと思っていたけれど、こんなおいしいものがあったなんて!」
一枚食べた途端、パアァーッと顔を輝かせたアーヴィン様は、わたしに嬉々として話しかけてきた。
この世界、甘いお菓子はあるけど、スナック菓子みたいなのはほとんど見ないんだよね。だからポテチも珍しいらしい。ポテトフライはあったから、今までないのが不思議ではあったんだけどね。
「それにこのジンジャーエール? っていうの、未知の味なんだけど、なんとも刺激的でおいしいね」
「ああ、それは生姜シロップを炭酸水で割ったものなんです。本当はコーラを作りたかったんですが、成分までは確認してませんでしたから」
ポテチといったらコーラだよね。でも作れないからジンジャーエールで代替えする。……まあ、これはこれでおいしい。
コーラにカラメル色素が使われてたことは覚えてるんだけど、さすがに前世であれを作ったことはないからねえ。普通の喫茶店でも、ジンジャーエールなら自家製で作ったりするだろうけど、まずコーラは作らないと思う。
他には、かき氷用のメロンシロップはあるから、それに炭酸加えてメロンソーダでもよかったけど、それならアイスクリームのせてクリームソーダにしたくなるよね。
でもそこまでやるとポテチがかすむような気がしたから、今回はシンプルにジンジャーエールにしたわけだけど。ちなみに、クリームソーダはディアナの大好物である。
甘い炭酸系の飲み物はかなり珍しかったらしくて、最初はみんなおっかなびっくりで飲んでたなあ。
「まあ、マギーならそのうち作れそうだけどね。こんなおいしいものを作れるんだから大丈夫だよ」
「ありがとうございます。お気に召されたようで安心しました」
とりあえずほっとして、わたしもポテチをかじる。味付けはシンプルな塩味だ。
「あ、おいしい」
作りたてはやっぱりおいしいな。無理言って学園の厨房借りてよかった。貢ぎ物の大量のジャガイモ代はかかったけどね。
まあそのかわり、明日のお昼にじゃがバターを出してもらえるように交渉できたから、まずまずかなあ。
ほんとは明太じゃがバターが食べたいけど、明太子(なぜかある)は
ああでもやっぱり明太じゃがバター食べたいなあ……。十字に切れ目を入れたほくほくのジャガイモと、ぴりっとからいつぶつぶ明太子にとろけたバターはベストマッチすぎるよ……。
ジンジャーエールをストローで飲みながら、わたしは明太じゃがバターに思いをはせる。
そんなわたしに、アーヴィン様が心配そうな顔をして目の前で手のひらをひらひらさせた。
「マギー? ちょっと大丈夫かな?」
「大丈夫です。この状態のマギーは、食べ物のことを考えているだけですから」
……ん? なんか二人とも失礼なこと言ってない?
復活したわたしは、それとなく話題を逸らすことにした。
「そういえば、例の二人また停学になったらしいですね」
「ああ……」
わたしがそう言うと、今度はアーヴィン様が遠い目になった。
「前回で懲りたかと思ったら、今度は大叔父上への侮辱らしい。なんでも死に損ないだの棺桶に片足を突っ込んでいるくせにだとか言ったらしい」
「……うわぁ……」
前の王妃様への無礼も相当だと思ったけど、今回はそれ以上にドン引きだ。つーか、あのお花畑たちが不敬罪でしょっぴかれてないのが不思議なくらいだ。
「よく退学になりませんでしたね」
わたしの気持ちを代弁するかのように、お兄様があきれたように言うと、アーヴィン様が肩をすくめた。
「大叔父上もそうしたいのはやまやまだったらしいけれど、あの二人が大審議前に
……ですよねー。
あきれたことに、侮辱した学園長への謝罪もないままだったらしいし、どんどんあの二人の罪状が積み上がってきてるんだけど大丈夫なんだろうか。
いや、侯爵家のサバス様はまだあれかもしれないけど、男爵家のビッチちゃんはもう完全にアウトだと思う。知っているだけでも国王陛下と王妃様とアーヴィン様とその大叔父である学園長を侮辱しているし。
下位のみならず上位貴族まで侮辱しているだけでもやばいのに、命知らずというか、なんというか。ここまで来ると、彼女の一族郎党にまで累が及びそう。
スタイン男爵はビッチちゃんによるいじめの被害者である貴族令嬢および子息の家を土下座して回ってたらしいのに、つくづく親不孝だなあ……。
アーヴィン様とお兄様もわたしと似たようなことを考えているのか、なんとも言えないような表情でポテチをかじっている。……せっかくの揚げたてポテチなのに、話題間違ったかなあ。
そう思いながらジンジャーエールをすすったら、うっかりむせそうになって、わたしはわたわたしたのだった。
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