13.お花畑にもほどがある!
「サバス様ぁっ! お会いしたかったですぅっ!」
どこかで見たような光景が、再び学園で繰り広げられている。
お花畑達の停学期間が明けたのだ。
「ビッチ、久しぶりだな! 少しやつれたんじゃないか?」
「そ、そうかもしれません。今回の学園長の処分に打ちのめされて……」
やつれたどころか、ビッチは部屋にこもって暴飲暴食を繰り返していたので、多少ふくよかになってしまっている。
それをサバスに気づかれずに済んで、ビッチはほっとした。
──まったく、このわたしが太ったなんて、あの侍女失礼しちゃうわ。家に帰ったら、鞭打ちにでもしたらいいかしら?
かわいそうなその侍女は、ビッチを着替えさせている最中に、制服のウエストのホックが閉まりませんと事実を伝えただけだ。だが、太ったという現実を受け入れられないビッチは、今回の生け贄である侍女に狙いを定めたようである。
ビッチの邪悪な内心に気づかずに、サバスは脳天気に叫んだ。
「そうか! 君にそんな苦痛を与えるなんて、学園長はなんて
「そうですね! さすがサバス様、妙案です!」
飽きもせずに前回と同じことを繰り返すお花畑たちに、周囲の者達があきれ返る。
前は王妃だったが、彼らが今侮辱している学園長も実は王族である。無知とは恐ろしいな、とギャラリーは思った。
そこでようやく周囲の冷ややかな目に気がついた二人は、ギャラリーを
「なによ、見せ物じゃないわよ!」
「ふん、想い合っている僕とビッチがうらやましいからって、のぞきとはなんとも浅ましい者たちだ」
……まるで当たり屋である。
別に彼らはこんな茶番を見たくて見たわけではない。通学時の往来でこんなことをやっているサバスとビッチが悪いのだ。
そもそもうらやましくもなんともないし、むしろ強制的に見せられた上に、二人の言動が胸糞悪いのでやめてほしいとまで周囲の者は願っていた。
「サバス様ぁ、それを言ったら彼らがかわいそうですよー。きっと出来心だったんです。許してあげましょうよ!」
「そうだな! もてないやつらは放っておくか。しかし、崇高な僕たちがこんな下賤なやつらの目にさらされるのはごめんだな。場所を変えるか」
「はい! ぜひ、そうしましょう!」
実に勝手なことを言い置いて、サバスとビッチは手に手を取って衆人環視の場から去っていった。
「ビッチ、こっちだ」
「わあ、なんて素敵なお花畑!」
ビッチが内心でお花畑イベント来たーっ! と叫んでいるのをサバスは知る由もない。
「くだらない教師のしゃべりを聞くのが苦痛でな。息抜きに散歩していたら見つけたんだ。誰にも知られていない、僕しか知らない花畑だ」
……誰にも知られていないどころか、学園で管理している花畑ですが? と学園関係者がここにいたら全力で突っ込んでいただろう。
そして、教師のしゃべりを聞くのが苦痛とは、なんのことはないただのサボリである。
「秘密の花園ですね! なんて素敵!」
「ビッチは芸術的なことを言うな。さすが、僕が選んだ女性だ」
「きゃっ、サバス様ったら、恥ずかしいですぅっ」
ビッチがはにかむ振りをして、花畑に向かって走り出す。それをサバスがにやにやしながら追いかけた。
うふふあははとお花畑で追いかけっこする恋人たちの図の完成である。
……ただ、これが美男美女なら絵になるだろうが、特に容姿が優れているわけでもない、学園でも一、二を争う嫌われ者たちが繰り広げている光景は、本人たち以外にはただただ不気味でしかない。
現に彼らを呼びに来て、うっかりお花畑で追いかけっこしているのを目撃してしまった教師は、その異様さにうげっと叫んでしまった。
「君たち、学園の花畑でなにをやってるんだ! 植えられている花を踏みつけるのはやめなさい!」
二人の世界を突然邪魔されて、サバスたちがえっ? と振り返る。
「お、おまえは誰だ! なぜこんなところにいる!」
「そうよ! ここは誰も知らない場所のはずよ!」
食ってかかる二人に、彼らの捕獲を頼まれた教師が目を見開いた。
「誰も知らない……? いったいなにを言っているんだ。ここは学園の敷地内だぞ」
「えっ、うそっ!」
「貴様、適当なことを言ったら許さんぞ!」
自分しか知らないと思い込んでいたのを否定されて、サバスが真っ赤になって叫んだ。
それをあきれたような目をして、教師が見やる。
「適当もなにも、わたしはここの教師だ。学園で管理している花を踏みつけておきながら、怒鳴り返してくるとは、どういう了見なのだ」
「えっ、でもこれだけ咲いてるんだから、少しくらい大丈夫でしょ?」
「そうだ! まったく心が狭いな! まるでここの学園長のようだ」
植えられている花を駄目にしておきながら、盗人猛々しいとはこのことである。
教師は内心煮えくり返りながらも、努めて冷静に対処した。
「……その学園長が、君たちを呼んでいる。至急とのことだ」
「なぜ、僕たちが学園長のところに行かねばならないんだ! 学園長が僕たちのところまで足を運ぶのが筋だろう!」
「そうよそうよ! サバス様は侯爵家の嫡男よ! いったい何様のつもりなの!?」
どちらが何様のつもりなのだかと言いたくなるのを抑えて教師は言った。
「……そうか。同意しない場合は、彼らに連行してもらうことになるが、それでもいいか」
教師が振り返ると、そこには屈強な学園の警備員が二人たたずんでいた。
──そして、お花畑たちはお花畑から連行された。
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