第52話 お前は帰れ

「[とりあえず、ワシらは自国に戻って軍備を整えるとするか。各地の状況や戦力なども把握しないといけないからな]」

「[お願いします。シグバール国王がこちらとしては切り札なので、できれば前線には出ずに指示を出していただけるとありがたいです]」

「[おう。ワシの代わりにそこのバカ共に前線を張ってもらおう]」

「[はぁ!?親父、どういうことだよ!]」

「[俺らはここに置いてけぼりってことかよ]」

「[がはは、武者修行と外遊だと思えばいい。お前達は圧倒的に実践不足だから、ちょうどよいわ!せいぜい戦って戦って、ついでに地の利など覚えて帰ってこい]」

「[マジかよ……]」

「[スパルタすぎるだろ]」


シグバール国王が機嫌をよくしているのとは反対に、あからさまにげんなりする兄弟。まぁ、自国に家族を残しているわけだし、ガッカリするのも無理はないだろう。


「[無事に帝国を返り討ちにしたあかつきにはその者を次期国王として考えなくもないがな。それでもやらんというのか?お前達]」

「[は?だったらやるに決まってるだろ]」

「[ぜってぇー、おれが勝ってやる!]」


相変わらずこの2人の対抗心は凄まじい。それをわかっててシグバール国王は焚き付けているのだからさすがと言えるだろう。


(まぁ、父親にこうも踊らされているとなると国王としてはまだまだだろうけど)


「んじゃ、オレさまもここに残るぜ?最近ずっと暗躍ばかりでいい加減ストレス溜まってたからな。いっちょ暴れさせてもらおうか」

「暴れるのは結構ですが、程々にしてくださいよ。セツナさんが暴れたら一国が消し飛ぶ可能性もあるので」


冗談抜きで本気のセツナは危ないだろうと本能で察する。一瞬で小隊を薙ぎ払ってけろっとしていたのを見る限り、いくら帝国の増援が来たところで返り討ちにするだろう。


もちろん、セツナに頼りっぱなしというわけにもいかないだろうが。


「[それで、私はどうすれば?]」


私は前線に出るか、それともブライエ国まで下がって補給してから再出発するか、とそういう意味で言ったのだが、皆一様にキョトンとする。


(え、私……何か変なこと言った?)


思わず焦ると、「[何を言っておる]」とシグバール国王が呆れたように言った。


「[嬢ちゃんは国へ帰れ]」

「[へ?な、何でです?]」

「[これは俺らの戦争だからだよ]」

「[そーそー。部外者は立ち入り禁止。てか、やることやったんならさっさと帰れ。国をずっと空けてるわけにはいかないだろ?]」

「[それは、そうだけど……]」


まさか自国に帰れと言われるとは思わなくて面食らう。確かにコルジール国を出てから半年以上は経過しているから、そろそろ帰ったほうがいいのは間違いないが。


「[それに、ステラが実際ここにいたらこっちとしてもお前を全力で守らなきゃいけねぇからな]」

「[帝国はお前を血眼になって探してるんだろ?だったらそれを囮に、いないもん探させたほうが都合がいいだろ]」

「[下手にコルジール国に帰ってると帝国にバレたほうが面倒だろうしな]」

「[だったら仕方ねぇから俺らで引き受けてやるよ]」


さっきまで嘆いていたはずのデュオンとシオンが頼もしく言ってのける。それに追従するようにシグバール国王も頷いた。


「[ということだ。ワシらはペンテレア国の同盟国として嬢ちゃんだけでも守ってみせる。それがブライエ国としての誇りだ。ペンテレアには何もできんかったのだ、義理立てくらいさせてくれ]」

「[シグバール国王……]」

「[それに、そうでもしないとラウルにも化けて出られる。さすがにそれは勘弁だからな]」


ガッハッハ、といつもの調子で笑うシグバール国王。ペンテレア国、そして自分を大事に思ってくれる人がいるということが嬉しくて涙ぐむ。


自分がいることでペンテレアという国があったことの証左になるのだと改めて実感し、簡単には死ねないなと思った。


「適当に帝国片付けたらオレさまも一旦帰ってからコルジールに向かうように手筈しとく。アガ国にもその旨を伝えておくから安心しろ。お互い、あまり国を空けるとろくなことはねぇから、さっさと支度してさっさと行きやがれ」

「わかりました、ありがとうございます。セツナさんもいてくれたら百人力です」

「ハハッ、そーだろ!大舟乗ったつもりでいろよ」


胸をドンと叩くセツナが頼もしい。こんなにも味方がいるというのはとても心強かった。


「[行く前にはラウルの孫娘にも挨拶してやってくれ]」

「[もちろんです。今までお世話になりました]」

「[さすがにその挨拶はちと早い。ワシもブライエには嬢ちゃんと一緒に戻るからな。とにかくまずはブライエ国に帰るとするか。お前達、モットー国を頼んだぞ]」

「[へいへーい]」

「[嫁さん達によろしく伝えといてくれ]」

「[あぁ、伝えておく。せいぜいワシが出る幕もないくらいにしとけよ]」


シグバール国王が踵を返して部屋を出て行く。クエリーシェルに今までのことを全て通訳した。


「というわけで今から帰国します」

「また長い旅になりそうだな」

「寄り道はあまりしない予定なので今までよりは早々に着くと思いますよ」

「そうか。とにかくこれほどまでに味方が増えたのならクイードも喜ぶだろう。ロゼットとバースも元気にしてるだろうか」

「そうですね。心配してくれてるでしょうから早く帰らねばですね」


先程まで戦争する気満々だったのに、帰るとなるとやはり嬉しいもので、みんなに会えると思うと気持ちが上向く。


「あぁ、せっかくですからボクも同行させてもらいますね」

「え?」


話の途中で割り込んでくるギルデル。彼は満面の笑みで「もうボクは帝国には戻れませんから、情報提供してあげますからリーシェさんと共について行きますよ」と言ってのけた。


「それはダメだ」


不機嫌を露わにして吐き捨てるクエリーシェル。先程までのにこやかな表情はどこへやら、だ。


「なぜ?決めるのは貴方ではなくリーシェさんですよね。ね、リーシェさん?ボクは役に立つと思いません?」

「リーシェ、こんな男は捨てておけ」


自分の頭上でやり合う2人。またしても険悪な様子を見せる彼らに「はぁ」と溜め息をつきながらも私はどうするか思案するのだった。

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