第46話 出口

「はぁ、どうにか切り抜けた……」


あれから毒虫が湧いたり凶悪な獣が待ち受けていたりと、色々な罠をどうにかやり過ごしてきた。どうにかシオンとクエリーシェルのおかげで切り抜けられたが、おかげで2人は満身創痍と言った感じだ。


「少人数で来たのって、こうして疲弊させて一気に仕留めるっていう作戦ではないでしょうね?」

「おや、そういうのもアリかもしれませんねぇ」

「ふざけないで」

「ふざけておりませんよ。まぁ、信用がないのは承知しておりますが、ボクもこのままだとここで死ぬことになりますし、さすがにそんなことは考えてませんと言うしかできません」


(本当に食えない男だ)


つい苛立つも相手の策の内かと思うと、それはそれで腹立たしいと思って、グッと怒りを飲み込む。


(振り回されてはダメ)


気持ちが揺らぐと今後にも影響してくる。このあと相対する敵の数や力量などを考えても今ここで精神を揺さぶられ、判断を見誤るというのは避けねばならないことであった。


「[……そろそろか?]」


シオンが口を開く。だいぶ歩いてきたことや、距離を考えるとそろそろ城内と言ったところだろうか。


「[えぇ、そろそろお覚悟いただくことになるかと。ボクは自分の身は自分で守りますが、皆々様におきましてはどうぞ死なぬように足掻いてください]」


意地の悪い笑みを浮かべるギルデル。きっとなんだかんだで試されているのだろう。特に私がこの世界を変えることができるほどの器であるかどうか。


(姉様。師匠。頑張るから、まだ私がそちらに行かないように応援しててね)


……まだここでは死ねない。自分の生きる意味を証明するのはまだ先で、今じゃない。この理不尽な世界を皇帝から救い出さねば、と改めて心の中で誓う。


「光が見えてきたぞ」


クエリーシェルに言われて顔を上げる。言われた先には確かに光が差し込んでいた。


「ギルデル」

「ここからは一本道ですし、特に何もしなくても普通に出られますよ。まぁ、出てからが大変でしょうが」


言われて、棍を構える。すると、スッとクエリーシェルが先に立った。


「私が先に行こう。できるだけ守るつもりだが、死ぬなよ?」

「はい、ケリー様も」

「[おーい、おれも忘れてねぇだろうな?]」

「[シオンもよろしく。どれくらいいるかわからないけど、無限ではないはずだから一気にいくわよ。まずは私が煙幕を投げるから、ある程度片付けたら一気に飛び出すわよ]」


リーシェが再び乙女の嗜みから例のブツを取り出す。


「[煙幕?]」

「[えぇ、鼻と目は塞いでおいて。持っていかれるから]」

「[持っていかれる?どう言うことだ]」

「ケリー様とギルデルも煙幕投げるから気をつけて」

「まだ持っていたのか!」


クエリーシェルは驚愕した様子で、ギルデルはあからさまに嫌そうな表情をしている。それで察したのか、シオンも険しい表情をした。


「とにかく投げる!」

「[はぁ!?]」

「えっ!」

「ちょ、まっ!!」


私はそのまま勢いよく投げると、ぼふん、と辺り一面に広がる煙幕。やはりモットー国兵が待ち構えていたのか、一気に「げほごほっ」と自分達以外の咽せる声や罵詈雑言などが聞こえる。


(煙が消えたらすぐに畳み掛ける……!)


そしてあらかた声がしなくなったことを確認すると、私は指示を送り、先陣を切ってクエリーシェルが飛び出した。


ガキン……っ!


飛び出すと同時に金属の擦れる音。


(やっぱり一筋縄ではいかないか!)


さすが敵の本拠地である。そう簡単にはことは進まないか、とクエリーシェルに続いてシオンも飛び出し、私もあとを追って外へ飛び出した。


(数は……2、30人といったところかしら。その半分が伏せってることを考えるとまぁまぁ効果はあったようね)


煙幕に巻き込まれなかった兵が一気に押し寄せてくる。こちらは少人数でしかもギルデルは戦力外だし、そもそもいつの間にか姿を消していた。そして、人数も人数だが、何より武力でも圧倒的に相手のほうが上である。


しかも、相手の勢いの押されて密で移動していたのに、分散されてしまいクエリーシェルやシオンといつのまにか離れてしまった。


(っく、押し負ける……!!)


モットー兵も攻略しやすいほうから攻略するほうがいいと気づいたのか、クエリーシェルやシオンを相手にしていた兵達がすかさずこちらにやってくる。


「リーシェ!!」


クエリーシェルもこちらに来ようとするも、どうにも足止めを食らって動けそうになかった。


「ステラ、しゃがめ!」

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