第47話 準備運動
「え?」
私が慌てて声に合わせてしゃがめば、先程まで押し寄せていた兵達が一掃される。顔を上げるとそこには「遅いぞ、バーカ」と笑っているセツナがいた。
「セツナさん!?」
「待ちくたびれたぜ、ステラ。兵になりすましてずっと待ってたのに待てど暮らせど来ないんだからなぁ!」
言い終わりと共に、向かってきていた敵を薙ぎ払う。圧倒的な強さに思わず私は目を丸くした。
(間近で戦ってるとこ見るのは初めてだったけど、凄すぎる)
味方だと言うのにこちらまで震えるほどの威圧感と殺気。隙を一切見せず、どこから斬りつけられても即座に反応し、斬り伏せるほどの剣技に思わず見惚れてしまう。
人間離れした身体能力と格の違いというものをまざまざと見せられて、思わず身体がすくみ上がった。
(この人が味方で本当によかった)
もしセツナが帝国側であったなら、一瞬で落城してしまうほどの凄さに目を見張りつつ、私も負けていられないと奮起し、棍を振るう。
その後も、この人は怪物なんじゃないか、って勢いで次々と倒していき、あっという間にセツナがほとんどの敵兵を倒し、気づいたときには私とセツナとクエリーシェルとシオンのみが立っている状態だった。
私は肩で息をしているのに対し、みんな涼しい顔をしているのを見ると体力の差を実感し、ちゃんと身体鍛えないとなぁ、とぼんやりと考える。
「ふぅ、一息ついた、ってところか」
「ありがとうございます、セツナさん」
「だいぶ待たされたからな。そのストレス全部ぶつけさせてもらったわ〜。はぁ、いい準備運動だったわ」
「準備、運動……」
あの人数を相手にしていたのを準備運動と言ってしまうセツナに驚愕していると、ニカっと笑うセツナ。そして返り血すら浴びてない綺麗な手で私の頭をガシガシと力強く撫でた。
「まぁ、よくここまで来たな。時間だいぶかかってっけど」
「随分と根に持ちますね」
「そりゃあな、ここで来るかもしれないからって待たされてる身にもなれってんだよ。退屈で仕方ありゃしない」
「それは、すみませんでした。てか、いつの間にそうやってなりすまして?」
「うん?そりゃ、こういう敵地行ったときの鉄則だろ。大体使者ってのは殺されることが多いからな。特に血の気の多い国だと速攻でヤられる。だから使者としてやってきてから撹乱し、こうして紛れ込んだってわけさ」
「はぁ、なるほど」
(普通そんなことできる人セツナさん以外いないだろう)
呆れるというかなんというか、ここまで異常な強さだと呆気にとられるしかない。
「リーシェ、無事か」
「ケリー様。セツナさんのおかげで」
「そうか。それならよかった」
「[おーい、感動の再会はいいんだが、ギルデルいなくなってんぞ?]」
「[え!?本当だ!]」
「ん?あぁ、あそこにいるぞ」
私が気づくと、すぐさまセツナが動き、片隅で隠れていたギルデルを捕獲して連れてくる。
首根っこを掴んでくる辺り、猫のような扱いだが、ギルデルは細身と言えど男性であるのにそれをひょいと軽々持ってしまうのがセツナの凄いところだ。
というか、目にも留まらぬ速さでの捕獲で、一瞬何が起きたかわからなかった。
「ちょ、離してください」
「離してもいいけど、勝手なことしてるようだと首落とすぞ」
セツナはにっこりと笑っているが、殺気がダダ漏れな感じ、恐らく本気で言っているのだろう。さすがのギルデルもいつもの飄々とした感じがなりを潜めた。
「とりあえず片付いたようだが、このあとは?」
「そりゃ、このまま城に一気に攻め込むっきゃないだろ。あぁ、ちなみにさっきシグバール国王とかも到着してたようだぜ」
「よかった、無事だったのね」
シオンにも伝えると「[ま、親父と兄さんがくたばるわけないとは思ってたけどな]」と安堵した様子で笑う。その表情から、やっぱり言葉とは裏腹にシオンも心配していたんだということが伝わってくる。
「そういや、さっきのアレなんだ?」
「え、アレって?」
「煙幕かなんか投げただろ。さっきの異臭騒ぎといい、犯人はお前だな?」
「ううんー?一体なんのことやら。さ、早く行きましょう!」
「全く、はぐらかしやがって。まぁ、今はその話はあとにするか。ちなみに、ローグは私室にいると思うぞ。逃げる準備のためにな!」
「わかった。行きましょう、みんな!」
セツナの話を振り切り、城の内部へと進む。目指すは、モットー国の現国王ローグのところだ。
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