第22話 おあずけ
「わざわざすまないな、伝達係にさせてしまって」
「いえ、情報共有は大事なことですから」
言いながらクエリーシェルの隣に腰掛ける。明日からはこうしてくっつくこともままならないだろうから、今のうちにクエリーシェルの補給をしておく。
「どうした?やけに甘えてくるな」
「ダメです?」
「いや、そうじゃないが……。まずは本題から聞こうか」
「そうですね。まずセツナさんは現在王城に行ったあと、近くの村に潜伏中だそうです」
「さすが、というべきか。特に何もされずに済んだということか」
「恐らく。セツナさんのことですから、何かあれば詳細に伝えるでしょうし、そう言った記載はなかったのできちんと伝えることは伝えて逃げたのかと」
場合によっては敵国の伝令は囚われたり首を刎ねたりされることが多いが、セツナは無事に逃げおおせたようだ。しかも城の内部の粗方の地図や、各地の情報まで仔細に送ってくれたらしい。
「我々の行くジャンスですが、やはり警備が厳重になっているようです。それと、帝国兵だけでなく、市民も武装しているとか。それは女子供も含むそうで、多少厄介かもしれません」
「なるほど、それは確かに厄介だな」
「ある程度煙幕などで撹乱させるのがよいかもしれませんので、その辺りは用意します。私達はとりあえずジャンスで帝国の元執政官であるギルデルと接触、そして身柄の確保が最優先になります」
「ギルデルというのは、以前リーシェが言っていた?」
「えぇ。多少……いや、かなり変わった男ですが、利用価値はあるかと。ケリー様に私のことを伝えたのも彼ですし、彼なりに何か考えがあるのかと思われます」
「そうか、わかった」
「ジャンスですが、一応それぞれの位置関係を書き記しておきますね」
無駄にあの地では歩いたので、大体の場所や配置は把握していた。まぁ、あれから多少の配置換えがあることなどは大いに考えられるが。
「結構入り組んだ造りをしているのだな」
「えぇ、下手なところに入ると袋小路で一気に攻められる可能性が。ですからあまり単騎で行動せずに団体で行動するのがよいと思われます」
「そうだな。あまり一般人に危害をくわえるのもな」
「えぇ。そうですね」
彼らは現状に満足しているかもしれないからこそ、国を落とそうとする我々には全力で歯向かってくることだろう。
国民は何も間違っていない。国の方針が示す先に素直に従っているだけだ。だからこそ、ペンテレアのように誰彼構わず蹂躙するのではなく、できるだけ国民を傷つけずに済む方法を模索したい。
「つらくはないか?」
「え?」
「戦争というものを間近で見るのは、その……リーシェにとって苦しいものではないかと」
「そうですね。確かに。我々には我々の正義がありますが、モットー国にはモットー国の正義がありますからね」
「リーシェ……」
わかっている。
戦争というものはエゴとエゴの戦いだと。各々自分の都合のいいように相手をねじ伏せることと言っても過言ではない。
だが、それでも私は師匠を殺め、メリッサを殺そうとしたモットー国を許せなかった。そして、モットー国を介し、帝国へ打撃を与えたいと考えているのもまた事実だ。
これは私だけではない、帝国という誰もが歯向かえなかった強大な国家へ抗う第一歩である。
だからこそ、私はペンテレアの後継者として、生き残りとして見届けなければならなかった。
「もう覚悟はとうにできています。だから心配はご無用ですよ」
「そうか。悪い、余計な口出しだったな」
「いえ、ケリー様の優しさは十分伝わっておりますから。それに、前線に出るのは禁止されておりますし、後ろから援護させていただくだけに留めておきますよ。ですから、ケリー様は私のぶん頑張ってくださいね?」
「もちろんだ」
頼もしい言葉に嬉しくなって、クエリーシェルの肩に頭を預ける。すると、クエリーシェルがそれを察してグイッと肩を抱いてそのままよりくっつく。
視線を上げると、同じく私に視線を向けていたクエリーシェルと目が合い、そのまま目を閉じれば唇が落ちてくる。
「ん……っふ」
「はぁ……っ、リーシェ……っ」
後頭部を押さえられて深く口づけられる。そのまま体重をかけられてベッドに押し倒され、このまま食べられてしまうのかとキュンと甘く胸が高鳴った。
「ちゅ、……っふ……ん」
自分よりも遥かに大きくて重い身体。その逞しい胸板に包み込まれているというだけでドキドキする。重いと思うはずなのに、その重さが心地よかった。
「こら」
「……ダメか?」
「ダメです」
不意に胸に手が這わされて、すぐさま諌めるようにその悪い大きな手を掴む。むぅ、と抗議の眼差しを向けると、申し訳なさそうに身体を離してくれた。
「体力は温存せねばですよ」
「体力温存……」
「この戦争が終わったら……そのときはまた、考えます」
「お預けということか?」
「そうです」
リーシェには敵わないな、と言いながらもクエリーシェルは優しく撫でて、再び唇を合わせてくれる。
「では、また明日な」
「はい。また明日。死なないでくださいね」
「それはもちろん。私はリーシェを守らねばならないしな」
「はい、よろしくお願いします」
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