第10話 感涙

「[美味しい!]」


モットー国の料理も美味しかったが、さすがブライエ国の料理もとても美味しかった。


前回は家庭料理に対して今回は宮廷料理ということもあるが、やはり国が違うと食材から味付けから全く異なるので味わうのが楽しい。


「[そうか、よく食え。まだまだいっぱいあるぞ?嬢ちゃんはもっと食わないと出るとこも出ないからな]」


ガッハッハと思いきり笑われるも、さすがにシグバール国王にセクハラ!とも言えずに口籠もると、すかさず横から「[そういうのを女性に言うのははしたないらしいですぜ]」とセツナが口を挟んでくる。


まさかセツナが助け舟を出してくれると思わず面食らっていると、「[そういうものか。悪いな、老いぼれだとあまりこういう指摘をしてくれるヤツがおらんでつい言ってしまう]」と謝ってくれた。


「[そういえば、セツナさんとはどういう繋がりで?]」

「[いや、たまたま極東の島国に暗殺、戦闘、何でもござれの傭兵がいると聞いてな。それで依頼したってわけだ]」

「[そそ。オレさまは雇われとしてここにいるってこと。とりあえず、モットー国をぶっ潰すまでって契約だ]」

「[なるほど。そうだったんですね]」


意外な組み合わせだな、と思うがなんだかんだ気が合うらしい。年は違えど、それぞれ一国の主だったもの同士、分かり合えることがあるのかもしれない。


「[そういえば以前、ワシと遠乗りをしたことを覚えているか?]」


不意にシグバール国王に過去の話をされて逡巡する。そして、以前ブライエ国に来たときにシグバール国王が鍛錬のご褒美として私を馬に乗せてくれたことを思い出した。


「[はい。覚えています。初めてあんな早馬に乗ったので、あれ以来乗馬がしたいと父に駄々をこねて大いに困らせました]」

「[はは、そうだったか。彼には悪いことをした。当時言われていたのだ、嬢ちゃんにそんなことを教えたらあとが大変だと]」

「[父の予想は大当たりでしたね]」

「[そうだな。うちの馬鹿どもはワシと行きたがらなかったからてっきりそういうもんだと思ったが、どうやら人によるらしいな]」


シグバール国王の視線が王子2人に飛ぶが、彼らは示し合わせたかのようにそっぽを向く。普段は兄弟喧嘩もよくしているのに、こういうときの息はぴったりである。


「[えぇ、そうですね。私は乗馬を好みましたが、姉はどうにも苦手だったようで]」

「[確かに、マーシャル嬢に乗馬するイメージはなかったな]」

「[私だけ変わり者でしたから]」


自分で言っててちょっと悲しくなるが、私は祖母似だったというだけあって両親にも姉にも性格はまるで似なかった。だから仲が悪いというわけではなかったが、どうにも疎外感はあったのも事実である。


「[そういうのは個性というものだ。それに、興味好奇心大いに結構]」

「[そういうものですかね]」

「[実際、嬢ちゃんの人生に大いに役立っていることばかりだろう?我が国に来るまでも馬やラクダを乗り継いだとラウルの孫娘から聞いておる]」

「[そうですね。それは……確かに]」

「[知識は財産だ。また経験も生きる上で金では買えない貴重なものだ。嬢ちゃんはつらく険しい人生だっただろうが、きっとこの経験は己の今後に役立つであろう]」

「[そうですね。……そうであって欲しいです]」


今までの生き方を肯定してくれるシグバール国王。色々とこみ上げてくるものがあり、胸がいっぱいになる。


シグバール国王も師匠も私を肯定してくれるという人物がいるというだけで、私は力がもらえた。


「[安心しろ。ワシらは味方だ。ペンテレア国には多大な恩がある、だからこそワシはお主並びにコルジール国に力を貸すと誓おう]」

「[ありがとうございます]」

「[ラウルの孫娘もこちらできちんと預からせていただく。ここまでよくぞ頑張って連れてきてくれた]」


ぽろぽろと涙が溢れる。ここまでたどり着くまでに困難があったが、それがやっと報われると感情が溢れ出した。


「[あー、親父!泣かしてやんのー!]」

「[別に泣かせたわけではない!それに、泣きたいときには泣け。戦地では泣くわけには行かぬからな]」

「[出た、スパルタ理論!]」

「[なんだお前達、今ワシに泣かされたいのか?]」


ギンッと鋭い目つきで彼らを睨むと、王子達は蛇に睨まれたカエルのようにうぐっと言葉に詰まり、冷や汗をダラダラと流していた。


その様子を見て、各々の妻達がクスクスと笑っている様子を見るに、普段からこの調子なのだろう。


「[そうだ、言い忘れておった]」

「[なんでしょう?]」

「[連れの男が目を醒ましたそうだ。食事後に会いに行くといい]」

「[ヒューベルトさんが!わかりました、どうもありがとうございます]」

「[ワシから礼がしたいと伝えておいてくれ]」

「[はい、伝えておきます]」


ヒューベルトに会いたいというはやる気持ちを抑えながら、食事を進めていく。


途中、ちょこちょこと隣のクエリーシェルに通訳をしつつ、美味しい料理に舌鼓を打ったり過去の思い出話に花を咲かせたりしながら、晩餐会を楽しんだ。

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