第9話 久々の晩餐会

「[はじめまして、ステラ姫。わたくしはデュオンの妻、カミラと申します]」

「[はじめまして、ステラ姫。わたしはアイーダよ。シオンの妻なの、よろしくね]」


デュオンとシオンの妻と名乗る彼女達はとても華やかでイメージとしてはアーシャのような女性だった。


出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいて、なんというか妖艶でいて同性だというのにちょっとドキドキするようなタイプだ。


兄弟揃って同じような女性が好きなのか、と下衆なことを考えながらも話し振り的にはどうも性格はまるっきり違うらしい。


だが、やっぱり本質的には同じような女性を奥様にしてる辺りは面白い。シグバール国王の奥方は早世されて、私が以前来たときには既にいらっしゃらなかったが、彼女もこのような性格だったのだろうか。


(シグバール国王が言い負かされているとこなんて、あまり想像できないけど)


「[はじめまして、ステラと申します。お2方にはお世話になり……]」


一応社交辞令を述べて恭しく挨拶すると、奥方2人がくすくすと笑い出す。何か、変なことでも言っただろうか、ちょっと不安になった。


「[うふふ、社交辞令は大丈夫よ?むしろこの方のほうがご迷惑をおかけしてるでしょう?]」

「[本当困っちゃうのよね。いつも兄弟喧嘩始めちゃって、妻は振り回されっぱなし]」


ねぇ、とそれぞれの嫁で言い合う姿に、デュオンとシオンはバツが悪そうな2人。笑われた理由がなんだか拍子抜けでホッとしつつ、なんだかんだ仲がいい家族のようだと感じた。


「[そんなことないよな?シオン。小さいときはこいつ構ってやったし]」

「[なぁ、兄貴。俺たちは子守してやったんだぜ?]」

「[はっ、よく言うわ。鍛錬サボってどこかにとんずらこいた奴らが何を言う]」


水を差すように、シグバール国王が入室してくる。すぐさま居住まいを正す奥方達に対して、兄弟達はあからさまに嫌な顔をしていた。


「[げ、親父]」

「[こんばんは、シグバール国王。先程ぶりです]」

「[あぁ、それにしてもさすがにこうして見ると見違えたな。ペンテレア国王もさぞかしこの姿を見たかったろうに]」


晩餐会用に侍女の方々に綺麗に仕立ててもらったのだが、この薄っぺらい身体にも似合うようなドレスをチョイスしてくれるのはさすがだと思った。……まぁ、ところどころ布を詰められて傘増しされてはいるが。


「[天国からきっと見守ってくださっているかと]」

「[そうだな、彼は心配性な気があったからな]」

「[そうですね。私がよく無茶するので心労でよく胃を痛めてました]」


懐かしいなぁ、と思い出す。当時の父は普段は穏やかな表情なのに、私が視界にいるときはずっと眉をしかめていたように思う。


それは、私が無茶するからに他ならないのだが、当時はそれが私のことを嫌悪でもしているのかと思い、傷ついたものだった。


「[さて、せっかく揃ったのだし、早速乾杯でもしようか]」

「[はい]」

「[では、ステラ姫に再会できたことと、新たな戦いの勝利を願って……乾杯!]」


皆が杯を掲げる。そして、それぞれが口に含んだ。中に入ってるのは葡萄酒だったようで、思いのほか酸味が強く、渋みが口に広がって思わず、うぷっと口を閉ざした。


「[ははは、口に合わなかったか?既に成人したと聞いたが]」

「[成人はしたようですが、ちょっと私にはまだ早かったようです……]」


涙目で隣のクエリーシェルを見れば、まるで水のように飲んでる姿に同じものかと目を疑いたくなった。


「ケリー様、美味しいです?」

「あぁ、コルジールのとはまた違って美味しい。とはいえ、飲み過ぎて悪酔しても大変だからあまり飲まないようにはするが」

「だったら我が国に清酒というものがあるから飲むといい。モットーやブライエのような蒸留酒ではないから悪酔はしないぜ?」


途中で口を挟んでくるセツナ。彼も彼でグイグイと酒を飲んでいるが、顔色も変わらずけろっとしている。


(そういえばこの人ワクだって言ってたかしら)


飲んでも飲んでも絶対酔わない、と聞いて、まさかとも思ったが、普段から飄々としてるせいか確かに酔っている印象はなかった。


実際飲んだあとすぐの戦闘でも活躍していたし、ある意味化け物のような男である。


「なんだよ、俺さまの顔になんかついてるか?」

「いえ、別に。昔と変わらないなーって」

「だろ?人魚の肉を食ったからな」

「は?」

「知らないか?人魚の肉を食うと不老不死になるっていうの」

「知りませんよ。そもそも人魚っているんです?」


冗談なのか本気なのか、しばしばこの人はタチの悪いことを言う。いや、だが本当なのか?と思ってしまうくらい、彼はどうにも若かった。


「今セツナさんていくつでしたっけ」

「ん?俺さま?32」

「はっ!え!?ケリー様と同い年!??」

「そうなのか?」

「えぇ、私は32ですが……」

「マジかー。ヴァンデッダ卿ってもっと年上だと思ってたわ」


悪意なき言葉がクエリーシェルの胸に突き刺さったようで、明らかにクエリーシェルの顔がショックを受けたように表情が強張っていた。


確かにまだ10代の青年のような見た目の若者が自分と同い年という事実は破壊力抜群である。クエリーシェルの顔が引きつるのも無理はなかった。


「まぁまぁ、こいつみたいに老け線もいるから安心しろよ」

「老け線ではないです!てか、セツナさんが異常ですから!!」

「異常って失礼だな〜。ま、同い年同士仲良くしよーぜ」

「よ、よろしくお願いします……」


クエリーシェルのヒットポイントが既にギリギリの状態になっていることを察しながら、彼を慰めることもできずに聞いた私がなんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

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