第49話 忠告
「〈いつまでこの状態で?〉」
「〈えぇ?あぁ、もう少し、と言ったところでしょうか?ボクとしてはいつまでもこうしていたいのですが……〉」
「〈はい?〉」
「〈ふふ、冗談ですよ。はい、ここです、着きました。どうぞ顔を上げてください〉」
言われて案内されたそこは、何もない壁だった。
「〈えっと、あの、ここは……?〉」
「〈ここは唯一貧民街となってない街の壁です。まぁ、ボクが買収している唯一の縄張りといったほうが正しいかもしれませんが〉」
「〈はぁ……?〉」
確かに、ここだけ人っ子1人いない状態になっている。とすると、ここで何か帝国軍派に知られたくない取引でもここでしているのだろうか。
でも、なぜここに私を連れて来たのだろうか。
「〈ちなみに、先程の貧民街での子供達は壁周辺の異常や壁の損傷を街の貴族に報告することで収入を得ています。ですから、彼ら子供達はいつもこの壁の周りを見回っているんです〉」
「〈それを私に伝えてどうするんです?〉」
「〈それだけこの街は管理が厳しく、監視が多いということですよ〉」
「〈なる、ほど?〉」
話が見えなくて困惑する。この人は一体何を言っているのだろうか。
(一応忠告してくれている、ということだろうか?それとも、私の髪を見られているから今後気をつけろ、ってことかしら)
もしあそこで子供達から逃れて外に出ていたら、すぐに捕まっていたかもしれない。万が一出られたとしてもすぐに追跡されていた可能性もある。
彼の言葉の真意はわからないが、ただこうして誰もいない壁に連れてきてくれた辺り、何かしらの思惑はあるのかもしれない。
「〈ということで、ここからこの街を出られますからどうぞ〉」
「〈はい?え、街を出ていいんですか!?〉」
思ってもみない展開にびっくりする。いや、私としてはとてもありがたいことなのだが、この人は私を逃して大丈夫なのかとちょっと不安になった。
(お帰り、ってさっき言ってたのって、まさか本当に帰らせてくれるということだったの!?)
ギルデルの申し出に困惑する。するとギルデルは私の反応が意外だと言ったように口を開いた。
「〈おや?街を出ようとしていたのでは?あ、もしかして帰りたくなくなりました?私と結婚を……〉」
「〈いや、そういうことじゃなくて!帰りたい、というか壁の外へ行きたいです!〉」
「〈だったら、ボクの気が変わらないうちにどうぞ〉」
「〈ど、どうも……〉」
急展開についていけずに反応に困る。この人の考えていることはわからないが、出られるのであれば、出るに越したことはない。
(何かの罠?でもそれなら先に捕らえたほうがあちらとしても好都合だろうし……。メリッサ狙い?それならそれでもうこの人なら知ってそうだけど)
考えても考えてもギルデルの考えがわからず、これ以上この人の思考を考えても埒があかないと考えることを放棄した。
もし罠だったとしても、どうにか乗り越えればいい話だ。今チャンスがあるならそのチャンスに乗らねば。
「〈簡単には捕まらないでくださいね〉」
「〈簡単に私が捕まるとお思いで?〉」
「{その油断が身を滅ぼすこともありますから}」
不意に何とも言えない哀しげな表情で帝国の言葉を吐くギルデル。その言葉にはどこか複雑な想いが滲んでいるのがわかった。
けれどあえてそこには反応せずに、聞こえなかったフリをした。
「〈え?〉」
「〈いえ、こちらのことです。とにかく、お気をつけて。国境を越えるまでは誰が敵か見定めるのをお忘れなく〉」
相変わらず意味深なことを言うギルデル。とりあえず、「〈ご助言と受け止め、感謝します。あと、ここまでのご案内もどうもありがとうございました〉」と最低限の礼を述べる。
すると、突然笑い出すギルデル。何がなんだかわからず私は戸惑うしかできなかった。
「〈はははは、やはり貴女は面白い方だ。いや、ボクを少しは信用してくださったということかな?〉」
「〈……信用云々はわかりませんが、ここまで案内していただいたのは事実ですから〉」
「〈そうですか、なるほど。律儀な方だ〉」
そして、手が差し出される。訳がわからず、その手を凝視していると、「〈その格好でこの門を越えるのは大変でしょう〉」と言われて素直に手を乗せるとギルデルは満足そうに微笑んだ。
そして、門の上へと行けるように手で補助をして門の上へと上げてくれる。
「〈ではまた。いずれ会うときがあれば……〉」
「〈次に会うときは敵としてでしょうが〉」
「〈おぉ、恐い。命だけは取られないように気をつけねば〉」
何とも面白そうに微笑む彼に、「〈では〉」と言い残して門から降りる。まぁまぁの高さはあるものの、砂の柔らかさもあって衝撃はなかった。
「出待ち、ってことではなさそうね。本当、あの人何を考えてるんだか。まぁ、出られて良かったけど」
少し脱出に時間がかかってしまったため、急いで待ち合わせ場所へと向かう。途中で念のために迂回もしたが、誰かが追跡している様子はなかった。
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