第31話 工作
「〈ただいま戻りました〉」
「〈ステラ、何をやってるの?〉」
涼しい顔をしている2人とは違い、汗だくで迎える私にメリッサが顔を
「〈ちょっと工作を。とにかく、無事に戻ってきてよかった〉」
彼らを見れば特に服が汚れた様子もなく、争った形跡もないようなので無事に任務をこなせたのだろう。色々と物資の補給もできたようだし、ホッとである。
「〈街では大丈夫でした?〉」
「〈えぇ、メリッサちゃんのおかげでどうにか〉」
「〈ヒューベルトさん、ちょっと言葉がしどろもどろになるときがあって危なっかしかったから、一緒に行ってよかったわ〉」
そういうメリッサは、ちょっと頬が赤らんでいるような気がする。何かあったのだろうか、とも思うがここで追及するのも野暮だ。本人が言いたくなったら聞くことにしよう。
「〈物資は何が買えました?〉」
「〈干し肉と乾麺とパンを。あと、服とテント代わりの布をいくつか。タオルももらってきたわ。この辺りの先は雨が多いみたい〉」
「〈そう!それはいいお買い物ができたわね〉」
思ったよりも大きな収穫である。必要な物質が多く揃ったことに、出だしの不運も挽回できそうだった。
「〈それで?村の情報は聞き出せた?〉」
「〈それが、……わからないらしくて〉」
「〈様々な方に聞いて回ってみたのですが、どうにもこの辺りの人達は知らないようでして〉」
「〈そう。なら、今日はこの辺りで休みましょうか。日も暮れてから下手に土地勘ないところで動くのも危ないし。この辺りはちょっと離れたところに小川もあるし、さっき罠も仕掛けておいたの〉」
「〈では、そうしましょうか〉」
「〈わかった〉」
そして、新しく手に入った物資を早速広げて、野営地を設置するのだった。
◇
「〈……まだ作ってるの?〉」
辺りは暗くなり、グッと冷えてきた。パチパチ、と燃える薪のそばで暖を取りながら連弩の試作機を作っているとメリッサから声がかけられた。
「〈あら、メリッサ。まだ起きてたの?いい子は寝る時間よ?〉」
「〈あたしはいい子じゃないし……〉」
もじもじとしながら、口の中でぶつぶつと溢すメリッサ。素直じゃないところも、昔の自分を見ているようで、勝手に親近感を覚える。
「〈ごめんなさい、冗談よ。どうしたの?眠れない?寒いでしょう、こっちおいで〉」
そう言って隣をポンポンと叩くと、メリッサが隣に座る。少々居心地悪そうにしているのを、自分に巻いていた布で一緒に包んであげると、恥ずかしそうに「〈ステラ近い〉」と抗議を受ける。
「〈だって、寒いじゃない。こうしてくっついてたほうが暖かいでしょう?〉」
言いながらわざとぎゅううう、と抱きつくと、顔を真っ赤にさせて「〈あったかいけどさぁ……〉」と恥じる姿は可愛らしかった。
彼女の境遇的に、あまりこうして誰かと触れ合うことなどなかったのだろう。師匠を亡くしたばかりだし、少しでも寂しさを紛らわせられればいいなと思う。
「〈そういえば、まだ作ってたの?〉」
「〈これ?……えぇ、もうちょっとでできると思うのだけど〉」
見張りがてら、連弩の試作機造りを続けてきたのだが、一応それなりの形にはなってきたように思う。あとは、射出できるように弦を張りさえすればよいところまではできた。
「〈そもそもこれなんなの?〉」
「〈武器よ。ここからちょっと離れた国で使われてるらしい武器。ちょっと触ってみる?〉」
頷くメリッサに渡してみると、思いのほか重くないことに驚いたようだった。
「〈武器なのに随分と軽いのね〉」
「〈あとここに弦を張って、装填分の矢も入るから完成形は多少これよりも重くはなるけど、扱いやすいように軽くしたの。多分、メリッサでも扱えると思うわ〉」
「〈へぇ。どうやって使うの?〉」
「〈このレバーを押すと、ここに張る弦が矢をつがえて……〉」
一通りの動作を教えると、物珍しさから目がキラキラと輝くメリッサ。その反応すら可愛らしい。なんだか自分に妹ができたようだった。
「〈すごい。こんな武器があるのね!ステラはこんな武器を作れてすごいわ!!〉」
「〈私が考えたわけではないけどね〉」
「〈そうだとしても、何も見ないでこうして作れるのがすごいの!〉」
「〈そう?ありがとう〉」
興奮気味ですごいすごい、と言われてなんだか調子が狂う。こうして褒められたことなんていつぶりだろうか。
思い返すと私を褒めてくれたのは常に姉だったような気がする。こうして不意に思い出す姉の存在に、私の中でいかに姉の存在が大きいかを思い知った。
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