第30話 連弩
「〈とりあえず、買ってくるものは服と日除け、それに食糧。できれば日持ちするもので。あと、もし余裕があれば、さっきメリッサが言っていた村の位置も調べて欲しいです。できますか?〉」
「〈はい。やってきます〉」
「〈うん、任せて〉」
心強い返事に、とりあえずちょっとホッとする。先程まで腫れた顔は、近くのせせらぎで清めたおかげで綺麗に戻っていた。
「〈名前、本名だとヒューベルトさんは異国の人だとバレますし、メリッサはメリッサで手配中だから本名を使うのはリスキーだから、それぞれ偽名を使いましょうか〉」
「〈なら、ヒューベルトさんがウムトであたしはミリーでどう?〉」
「〈いいわね、ではそうしましょう〉」
とりあえず、ヒューベルトさんをウムト、メリッサをミリーと呼ぶことにする。
ちなみに、何か意味がある言葉なのかと聞けば、こちらの名付けで定番の名前らしく、昔の言葉でウムトは希望、ミリーは月のように輝くという意味らしい。
「〈ステラはここで待っていて。すぐ戻ってくるから〉」
「〈わかった。ここで大人しく待ってます〉」
なんだか急に、お姉さんのように頼もしくなるメリッサ。ヒューベルトがいる手前、しっかりしているところのアピールかと思うとなんだか微笑ましくなってくる。
「〈では、いってきます〉」
「〈はい、気をつけて〉」
そして、2人は同じ馬に乗ると、そのまま一番近くの街へと駆けていくのだった。
「さて、私は私で何かしますか」
大人しく待っているなんて時間がもったいない。だから、何かしようと思ったのだが何をしようか。
(ヒューベルトさん用にできれば武器を用意したいのだけど、これ!と言ったものがないのよね)
そうなると、他の武器がいいだろうが、かと言って隻腕の騎士などあまり見たことなく、書籍などでも記載があった試しがないので適当な武器が思いつかなかった。
(片手で操作できる武器っていうと難しいわね……)
片手剣、槍、棍、鉄球……いずれも片手で扱えるが、とはいえどれもこれも無意識で両手があってこそ真価を発揮するものである。
扱えなくもないが、付け焼き刃でバランス感覚を身につけるのは難しいだろうし、戦闘でバランスを崩すのは致命的だ。となると……
「片手でバランスを無視して扱える武器。そんなものあったかしら……」
ぼんやりと考えるが思いつかない。そこで、思いつく限りの武器を脳内で挙げていく。
(剣、槍、棍、大剣、鞭、斧、弓……)
弓、と考えたときに、そういえばある文献で自動装填式の弓があったことを思い出す。
(確か、
仕組みがどうだったか、と古い記憶を呼び起こす。
なにぶん文献を見たのが結構前で、まだペンテレアにいた頃のことだったため、多少記憶は曖昧になりつつあるが、基本的に記憶したことは覚えている性分なのでどうにかなるはずだ。
「まずは用意できるところまで用意しておきましょう。多分、寄せ集めでもできるはず」
幸い、何か使える可能性にあるものは乙女の嗜みとして色々と持ってきてある。そして今いる場所は森の中。木を用意するのには最適な場所である。
まずはとにかくやってみよう、と早速試作機造りに取り掛かる。斧は今手元にないので、仕方なしに先程兵から取り上げた剣でそれほど大きくない木を切っていく。
「はぁ、……大仕事になりそうね」
だが、何もしないでただぼんやり待っていても仕方ない。時間は有益に使わねば、と私は連弩造りに励むのであった。
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