第2話 地形

「まさかここまでとは……。国によって地形が異なっているとはいえ」

「まぁ、コルジールも大概ですけどね。地形のおかげでマルダスの侵攻を抑えられているというのはありますし」

「……確かに」

「今回の場合は、それが悪いほうに作用しているということが厄介ですね。帝国が絡んでより面倒に、ってところでしょうか。モットーは完全に帝国側についたと言っても過言ではないので、そのつもりで行動せねばですね」


入り口は1つ。しかもそこは敵地。となると、誰にも見つからずに秘密裏に侵入せねばならない。


そして、船をどう着岸させるかも重要である。さすがに潜行するためにも船もバレないように停泊ていはくさせねばならないが、その辺も一体どうするか。


忍ぶ、と考えたときアガ国の村の人達を思い出す。彼らはいわゆる忍者であり、傭兵でもあり、そういったことに長けていたが一体どうしていたかな、と思考を巡らす。


他国から雇われることもあると言っていたから、きっと船で出向くこともあるだろう。さすがに現在乗船してるものに比べたら小さいものだろうが、それであっても停泊及びその船を隠すことは至難の業であろう。


「うーん、崖……かぁ……」


崖地をうまく利用できないだろうか。確か、アガ国の人達はかぎを使って侵入していたような……。


(急遽、鉤を作るのは無理でも、鉤のような何か代替できるものはないだろうか)


鉤の形を考える。あれは先がカーブしていて、何かに引っ掛かる形状になっている。確か、振り回して武器としても使えると言っていたなぁ、と思ったときにハッと閃く。


「あ、ちょっと待ってていただけます?ちょっと思いついたので」

「何をだ?」

「侵入方法です!」


善は急げと、彼らの言葉を待つ前に部屋を飛び出し、向かった先は武器庫として使用していた船室だった。そして、船室に入ると武器が入っている箱を次々に開けていく。


「あった、これだわ」


とりあえず色々なものを入れておいたとアーシャが言っていたが、まさかここで役立つとは思わなかった。


前回サハリ国ではこういった武器は……、とブランシェから難色を示されたためほとんど持ち帰り状態だったのだが、サハリ国に置いてこなくてよかった。


ある意味幸運だったと感心しながらも、そのちょうどいい形状をした槍を持ち、自室へと向かう。


そして、ナイフで槍先を外し、先日マーラの件で切り裂いて置いたシーツを紐状にしてから先端に結びつけるとそれっぽい形になったように思う。


「うん、我ながら上出来」


思いのほか時間がかかってしまったので、待たせているみんなのところに慌てて戻る。


「お待たせしました」

「随分と時間がかかったな」

「すみません。でも、目的のものは作れました!」

「目的のもの?」


男達3人が不審そうな顔をする。私はその反応を尻目に作ってきた鉤縄を見せると、皆一様に眉を顰めるのだった。


「何だこれ」

「鉤縄です」

「カギナワ?そのカギナワとやらをどうするんだ」

「まぁ、見ててください」


そう言って船長室から出て、階下へと降りていく。彼らもつられて降りようとするのを、皆さんはそこにいてください、と制す。


そして、私は甲板へと降り、私が見上げるほどのちょっとした段差ができたところで「下がっててくださーい」と声をかけながら鉤縄をぐるぐると回して彼らのいる位置目掛けて放った。


「うぉ!あっぶねー!」

「……なんか、引っかかりました?」

「これでどうするつもりだ」


男3人が口々に話している。周りの船員達も興味をそそられたのか、私に視線が集まっているのがわかった。


「行きますよー」


引っかかりを確認したのち、船の壁をよいしょよいしょと登っていく。船長とヒューベルトは感心しているようだったが、明らかにクエリーシェルのみギョッとした表情だった。


私はそれに気づかないフリして登り終えると、よいしょ、と手摺りを乗り越えて彼らの前に立つ。


「とまぁ、こんな感じで登れます」


実際にやったデモンストレーションは思いのほか好評だったのか、背後から拍手喝采状態だった。

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