第3話 制作

「凄いな、こんなの初めて見たぞ」

「俺も初めて見ました!」

「リーシェ、いつも言っているがな。こういうことをする前に、きちんとだな……」


船長とヒューベルトは少年のように目を爛々らんらんとさせているのに対して、クエリーシェルは不機嫌さを隠さずに小言が始まる。


「ケリー様のお小言はあとで聞きますから、とりあえずそのことはあとで」

「……んぐ、わかった。だが、あとでじっくり話し合うからな」


あとあとお説教されると思うと気が重いが、とりあえずクエリーシェルからの小言を制して、鉤縄かぎなわの使い方を教える。そして、船の停泊や侵入方法についての提案をする。


「つまり、この鉤縄を使ってモットーではなくブライエ側の崖を登っていくと?」

「えぇ、その通りです」


再び、地図を見る。モットー、ブライエはそれぞれ崖地ではあるが、崖さえ登ってしまえばさして問題あるような地形ではなく陸地続きである。


特に崖地近くに大きな川が流れているモットーとは違い、ブライエの方が崖地を登ったあと何も障害物がないので、崖地さえ越えられればあとは比較的楽そうなことも救いであった。


強いて言えば秘密裏に侵入することによって不審者と見なされ、サハリ国の二の舞、つまり捕縛されないようにしなくてはならない。


一応この辺りに関してはカジェ国やサハリ国それぞれ書状をしたためてもらったので、何かあった場合はそれを見せるのも手だろう。


まぁ、書状が前回同様効力をなさなかった場合はどうにかするしかないが。


「ということで、とりあえずはブライエを目指します。モットーに入らぬよう、くれぐれもお気をつけください」

「わかった。では、そのように進路も再編させてもらおう」

「よろしくお願いします。あ、地図はここに置いておきますので、ご活用ください」

「おぅ、ありがたく使わせてもらうぜ」


とりあえず、目下の問題は解決したとして、船長室から退室する。そして、鉤縄をいくつか他にも用意したいとクエリーシェルとヒューベルトを伴って武器庫となっている客室へと向かう。


クエリーシェルは今すぐにでも何か言いたそうにはしていたが、客室へ着くまでは我慢してもらった。


「この中から鉤針の形状の槍を見つけて、槍先を外してください。それで鉤縄を作るので」

「槍の先を外す?」

「はい。カジェ国からもらった槍で鉤縄にちょうどいいものがいくつかあるので、それを使います」


元々カジェ国には様々な形の武具があるが、正直、これ試作機にしたって突拍子もない形状すぎだろう、と思うものがいくつかあった。


クエリーシェルもヒューベルトも、さらにこれほどまでに難解な形状を取っている武具を初めて見るようで、カジェ国でも衝撃を受けていたが今回も同様に、どうやって使うんだ、と険しい顔をしていた。


「あの国はとりあえず、これとこれ合わせたら強いんじゃない?的な感じで武具を作っているようなので……」

「まぁ、何事もチャレンジ精神は大事だろうな」

「そうですね。それによって偉大な発明が生まれるかもしれないですしね」


ヒューベルトも意外にポジティブ思考なのか、病気の件もあってネガティブかと思いきやそうではないらしい。


考えてみれば、軍でもそれなりの地位のようだし、そもそも国王から秘密裏に派遣されている人物だ、力量もそうだが精神的にもタフなのかもしれない。


自分の中でただの空気の読めるイケメン騎士的なイメージだったが、その考えを改めることにする。


「次の到着は恐らく2、3日程の予定だと思いますので、それまでにはいくつか完成させられればと思いますので、慣れないことで大変でしょうが、よろしくお願いします」


2人の返事を聞くと、黙々と作業に取り掛かる。なんだかんだで作業を終えた頃には、とっぷりと日が暮れていたのであった。

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