第49話 2つの誤算

「そして、ペンテレアが来たことによって2つの誤算があった」

「1つは姉が優れた千里眼の持ち主だったこと?」

「あぁ、その通りだ。両親はたかを括っていたからな。所詮しょせんは眉唾物だと。だが実際には、キミの姉がキミに指示したのはどこもかしこも的を射ていた」

「私が指摘した民のことや国産品のことなど?」

「あぁ。まさか立て直しについて年端もいかない小娘であるキミからされるとは思っていなかったのだろう」


前国王夫妻はさぞかし驚き、歯噛みしたことだろう。こんな小娘に国を良くする方法について、指摘されるとは。そして、自分達が動きたくがないために呼んだ者が、まさかの足枷になろうとは思ってもみなかったであろう。


だが、もう1つの誤算とは一体何だろうか。


私の疑問をすぐさま察したのか、ブランシェが口を開く。


「もう1つの誤算は僕だ」

「ブランシェが?」

「あぁ、キミの帰り際にあぁは言ったものの、見返してやりたくなったのだ。キミを」

「見返す?」

「そうだよ。最初は不純な動機だった。キミを見返して、僕の素晴らしさに気づいてもらおうと思った。思えば、あの時からキミのことが気になっていたのかもしれない」


(当時の私、ほとんど傍若無人に振る舞っていた気がするけど……)


どこに惚れる要素があったのか、と自分なりに考えるものの何1つ思い当たるフシはない。まぁ、世の中には色々な趣味嗜好性癖の人がいるだろうし、とあえてそれ以上考えるのを放棄した。


「まさか、甘やかされて愚図でワガママ放題の僕が変わるとは思ってもみなかったのだろう。両親は慌てふためき僕を説得しようと試みたが、それはますます僕を意固地にさせた」

「それで、結局私がいなくなってから……」

「あぁ、キミに指摘されたことの改善を目指していたら必然的に国は良くなった。いや、国の癌であった両親を排除したことで好転したと言うべきか」

「ブランシェ……」


民や国のためとはいえ、親を排除するというのは相当な覚悟が必要なはずだ。特に私と出会う前まで思うがままに甘やかされてきたのであれば尚更だ。


「まぁ、結局両親は愚かな皮算用のせいで破滅に至ったという話だ」

「そう……だったの……」


非常につらい決断であっただろうと、察する。情というのは時に決断を鈍らせるものだが、それでもブランシェは決断できたのだからすごいと思う。


だからこそ、これほどまでに民から慕われた王になることができたのだろうか。


「同情してくれるのであれば、ぜひ今一度我が国の妃になることを考え直してくれても構わないぞ」


再びずいっと顔を近づけられ、頬に手を伸ばされる。それをすかさずパシっと払えば、何がおかしいのか笑われた。


「もう、しつこいってば。同情はするけど、それとこれとは別の話よ」

「ははは、やはりステラは手厳しいな」

「なんか面白がってるでしょ!」

「あぁ、いや……うーん、言われてみればそうだな。確かに。あまりこう言ったやり取りをする相手などおらんかったからな。楽しいと言えば楽しい」


素直に言われて調子が狂う。元々のブランシェの気質なのだろうか、それとも揉まれてしまったゆえの気質の変化なのだろうか。


「まぁ、いい。あまりしつこくして嫌われたくはない。とりあえず、今後の話をしようか。あぁ、ちなみにまだ協力してもらいたいことがあるから、そのつもりで」

「それって、もしかして、もしかしなくても……さっきのことと関係してる?」


先程、寝室に入ってからの小芝居。あれは何かしら理由があってのことだろうが、正直私の勘があまりよくないことだとビンビン感じ取っている。


「察しが速くて助かるよ。さすが僕の惚れた女性だ」

「あー、そういうのはもういいから」

「では、単刀直入に言おう。擬似結婚式を挙げてもらいたい。もちろん、僕と」

「はぁあぁあああああ!???」

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