第33話 策

(食事、ヒューベルトさんは大丈夫かしら)


私達と同じように食事に出されたのがパスタであれば、以前パンを食べているときは特に問題がなかったので多分大丈夫であろう。だが毎回食事で同じものが出るとは限らないし、そもそも今後の行く末は全くの不明である。


今後のことを鑑みると長期間の幽閉状態は、得策ではないことだけはわかる。


(さて、どうしたものか)


咀嚼そしゃくしながら思考を巡らす。そこにジーっと強い視線を感じてそちらを見れば、マーラが私のことを凝視していた。


「……何か?」

「いつも冷静ですわね、貴女」

「そうですかね?」


(冷静?冷静だろうか……?)


言われて、確かに慌てふためいてはないものの、冷静かと言われたら何となく違う気もする。


どうにかしようと脳内はぐるぐると物凄いスピードで策を講じるために逡巡しているし、今後のことを考えると頭を抱えたくなるほどの難問に、正直お手上げ状態ではある。


(できることならみんなに謝罪もしたいし……)


私のせいでこうなってしまった自覚はある。だからこそ、なんとかしなければという使命感が、私を突き動かしている、と言っても過言ではなかった。


「全然動揺してるそぶりもないですし、余裕すら感じられますわよ」

「こう見えても焦ってはいるんですけどね」

「全然、見えませんわよ」

「そうですか。残念です……」


私はどうにも内心が顔に出にくいタイプらしい。まぁ、王室に属している者としては当たり前のことなのかもしれないが。


(彼女のように少しでもキャーキャー言えたら可愛げがあるのだろうが)


あいにく、そういうキャラでもないし、自分が慌てふためくところを想像できなかった時点で自分にはそういうことは無理なのだろう。


(というか、ある意味マーラ様も落ち着いてないか?)


先程拘束されたときはずっとキャーキャー叫んでいたものの、ここに入れられて誰もいなくなってからというもの、悪態をつくばかりで動揺しているようには見えない。


というか、男性……特にクエリーシェルの前でだけ大袈裟に振舞っているように思える。


(こういうのが女子力というものか)


しなだれかかったり、甘い声を出したり、か弱いアピールや無駄なスキンシップなどしてる姿をみると、なるほど女性らしさを生かすとはこういうことか、とある意味感心してしまう。


自分にはないものだなぁ、と思考が脱線しかけたところで「で、今後どうするんですの?」とマーラから声をかけられて思考を戻される。


「そうですね。とりあえず、様子見……したいところですが、悠長なことも言ってられませんので、どうにか脱出方法を考えます」

「策は何かあるんですの?」

「んーー、あると言えばありますけど。ないと言えば、ない……ですかね?」

「どっちなんですの!?」


マーラが憤るのも無理はない。別に他意はないものの、そうとしか言い切れないからだ。


「うーん。もはや策とは呼べないようなレベルのもの、と言ったらわかりますか?」

「……はぁ?」

「要は、最悪こちらが逃げられればよいのです。ということは、条件を飲んでもらえるように交渉すればいいだけのこと」

「交渉ってステラ。貴女は先程、決裂したばかりではありませんか」


マーラが言うことはごもっともである。こうして牢屋に入れられているのも、私の交渉ミスに他ならなかった。


「えぇ、ですから今度は正攻法ではなく、ちょっと違う角度から攻めてみます」

「と言いますと?」

「国王を人質にするのです」

「は……はぁぁぁぁぁぁああ!????」


牢の外にまで届きそうな音量で、マーラの声が響き渡るのだった。

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