第56話 最後の晩餐会

「あの、俺までお呼ばれして良かったのでしょうか?」

「いいんじゃない?特に呼ぶ方の指定はなかったので。せっかくの出立前の晩餐なんだから、美味しいもの食べておきましょうよ?あ、もちろん、アレルギー関連のものはダメよ。何か違和感などがあれば、すぐに言ってちょうだいね」


一応前回同様、ここでは姫という肩書きでいるのでここから主従逆転するとヒューベルトに伝えれば「それはもちろんです!」と全力で頷かれた。


そして、恐縮しきりのヒューベルトとなぜかちょっと不服そうなクエリーシェルを伴って、アーシャ主催の晩餐会へと向かう。


(なんかケリー様の様子がおかしい)


クエリーシェルは、昨夜のことがあったから不満げにしてるのかと思いきや、そうではないらしい。


かと言って、理由を言うのも嫌だという非常に面倒くさいことこの上ない。そんなわけで、とりあえず彼の機嫌は放置して晩餐会へとやってきた。


「(こんばんは。アルル)」

「(お姉ちゃん!もう明日出発されてしまうのですって?残念だわ。ずっとここにいればいいのに)」

「(そういうわけにはいかないのよ。ごめんなさい)」

「(こらこら、アルル。あまりステラを困らせないの)」


やんわりとアーシャがアルルを制す。アルルは不満そうにしているものの、自分のポケットをゴソゴソ漁り出すと「はい」と私に渡してくる。


「(これ、アマリス様とヒューゴ様に!)」

「(あら、お手紙のお返事?)」

「(えぇ、絶対に渡してね!絶対よ!約束よ!)」


(なるほど、そう来たか)


アーシャの差し金か、はたまた本人の意向か。私が死なないように釘を刺してきたようだ。相変わらず勘がいいというか何というか、本当に厄介でお節介な幼馴染である。


「(えぇ、わかったわ。約束)」

「(あと……昨日、夜ママ泣いてたわ。お姉ちゃんのことが心配みたい。だから、絶対の絶対にお約束。またここで遊びましょう?)」


コソコソと耳打ちしてくる内容に目を見張る。母を悲しませることはするな、と暗に伝えているのだろう。アルルは観察眼の優れた親孝行な娘のようだ。


(案外、子供は大人をよく見ている)


自分にも身に覚えがあったので、アルルを嗜めるようなことはしなかった。その代わりに、カジェ国で約束する際に行われる誓いの印を結ぶ。


「(約束)」

「(えぇ、約束よ)」

「(貴女達、何をコソコソとやってるの)」

「(何でもないわ)」


アーシャに聞こえないようにやり取りをすると、訝しげな表情で見られる。アルルが口元に人差し指を立てるのを見て、私がウインクをすれば、益々アーシャは不思議な顔をしていた。


「(とにかく、食事よ?今日は好きなだけ食べていってちょうだい)」

「(ありがとう、アーシャ)」


席へと案内されて、私はクエリーシェルとヒューベルトに挟まれるような形で椅子に腰掛ける。


先日の晩餐会も凄かったが、今回も美味しそうな料理の数々につい心が踊った。だが、今回は一応ヒューベルトを伴っているので、はしゃぎたい気持ちを抑えて、それぞれ食事の選別を行う。


「米類はビリヤニやイディアーッパは避けてね。プラオなら多分大丈夫。それからスープ系はサーグやダールなら大丈夫かと。あとは肉は……」


それぞれレシピや味を思い出して入っているものを思い出す。


一応、それらしいものは避けてもらうようにある程度お願いしていたものの、さすがに料理によっては使わねばならないものが多く、アレルギーに関連しそうなものは自ら避けるしか方法がなかった。


「すみません、色々と」

「いえ。今後もこのようなことがあるだろうし、私もヒューベルトが何のアレルギーがあるのか、万が一摂取した場合はすぐに対応できるようにせねばいけないから」

「何から何まですみません」

「……ステラ様」


クエリーシェルから声をかけられそちらを見れば、あからさまに憤った表情をしている。


(何かしただろうか?)


「どうしたの?」

「ヒューベルトばかりかまっていないでください」


言われて逡巡する。ヒューベルトばかりかまっていただろうか。いや、そんなことはない気がするが。


「そんなことないけど?」

「あります」

「嫉妬?」

「それが何か?」


まさかヒューベルトに嫉妬しているなんて思わず、目を見張る。別に今こうして一緒にいるのも戦力として数えているからだし、万が一アレルギーにでもなってしまえば今後の旅路が危ういからこうして付き添って食事をしているのだが。


(そもそも、カジェ国に来てからほぼ同じものしか食べてないと言うから連れて来たのだけど)


先日ちょっとした世間話で気づいたのだが、ヒューベルトはあのアレルギー事件以降、食事は毎回決まったものしか食べていないようだった。


本人は隠そうとしていたが、さすがに料理のことを詳しくないにしろ、普段何を食べているかと言及したときに言葉に詰まった時点でバレバレである。


だから今回、せっかくカジェ国で晩餐会をしてくれるなら、と誘ったのだが、まさかクエリーシェルがそれにヤキモチを焼くとは思わなかった。


「(貴女達、コソコソコソコソ何やってるの。最後の晩餐会なのだから、しっかりしてちょうだい)」

「(最期の晩餐って言うとちょっと不謹慎な響きね)」

「(……ステラ)」


低い声で嗜められて、背筋を伸ばす。相変わらず目敏いアーシャに救われながら、食事をいただくことにした。


(あぁ、このスパイスの芳醇な香り!あとで個人的にいただいておこう)


今回は前回あまり食べなかったカレーをメインに食べつつ、肉や野菜など船旅では食べられそうにないものを多目に食べるのだった。

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