第35話 幼馴染
朝食も終え、ふらふらと商店街などを散策する。普段来慣れてるとのことで、お気に入りのお店がいくつかあるらしく、それをそれぞれ説明しながら紹介してくれる。
「(アリーは宝石が好きなの?)」
「(えぇ、サファイアやトルコ石、アメジストに……あ、お姉ちゃんの瞳のような翡翠も好きよ)」
この店には様々な宝石を取り扱っているようで、目に毒なほどキラキラと鉱石特有の光が目につく。
好きな人にとってはとてもたまらないのだろう。現にアルルも目を輝かせて宝石を眺めていた。
「(でも、ママが貴女にはまだ早いってあんまり買ってはくれないの)」
「(まぁ、アーシャはそういうところ厳しいからね)」
「(そういえば、ステラお姉ちゃんってママと幼馴染なのよね?ママの昔ってどんな感じだったの?)」
言われて昔のアーシャを思い出す。初対面というか物心ついてから会ったときは、とにかくただただ美しい人だと思っていた。
紹介されたときは、こんなに美しい作り物のような人がこの世に存在するのか!と驚くほどだった。
(まぁ、化けの皮が剥がれるのは早かったけど)
元々あの意地の悪い性格は、処世術だということはわかった。
人から意味もなく、ただ美しいからだというだけで妬まれ、嫉まれる。また、無駄に頭がいいのもあって、反感を買われたり生意気だと不興を買われたりしていた。
その結果、虐めや無視、意味のない嘲笑などをされ、本人曰く強くならなくてはならなくて、あのような気の強い人になってしまった。
きっと本来はもう少し優しい人物だったはずだ。今もこうして私に対して気遣ってくれているのは、その側面があるからだろう。
(今回のアルルとの同行だって、恐らく彼女なりの優しさだろう。素直でないところはお互いさまだが)
「(アリーのお母様は昔から美しい人で、知的で、何事にも長けている人だったわ)」
「(まぁ!それでそれで?)」
普段なかなか聞く機会のない母親の話に、アルルは興味津々と言った様子だ。普段なかなか彼女の過去を語る人物など身近にいないのだろう。
そもそも、アーシャ自体が過去を掘り返されるのが好きではない。あまり多く語らないのも、きっと過去に色々と酷い目にあっていたからに違いない。
王族と言えど、誰も彼もが庇護対象ではない。
王になるためには強くならねばならない、と教育される者も多く、そのため突き放されるように育てられる者がいたが、アーシャはどちらかというとそのような弱肉強食の世界で生きていた。
「(そうね、うーん……人の見る目がある方ね。観察眼が凄いの。私の姉もそういう人を見る目はとても優れていたけど、お母様はお母様で本質を見れる人だったわ。だから、アリーもお母様の言うことにはちゃんと従ってね。彼女には彼女の考えがあるのだから)」
「(はーい、わかったわ)」
「(とにかく、貴女のお母様は素晴らしい人よ)」
(私に対しては、弄んでる感は否めないが)
アーシャのことは嫌いではないが、苦手だというのはここから来ている。
それはきっと、お互いに距離感が上手く作用してないのだろう。わかってはいるけど、どうにもできないもどかしさはある。だが、私は私でこの距離感は嫌いではなかった。
「(そういえば、お姉ちゃんがどこか行きたいところある?)」
「(そうね、ちょっと他にも色々見ていきたいわ。例えば、普段はなかなか目にしないもの)」
今回、アーシャが私とクエリーシェルに外出を許可したのには恐らく訳がある。
(さすがの私も、ただ観光を満喫するほど腐っちゃいないわ)
いくら気を遣っているとは言えど、さすがの王妃だ、そこまで生温い扱いはしないはずだ。先程マルダスのことを言ったということは、即ちここにマルダスの人達がいるということだろう。
百聞は一見にしかず、つまり自分の目で確かめてみろ、ということを暗に示唆していた。
実際に私はまだマルダスのことをよく知らない。
本や伝聞などの知識として言語や大体の身体的特徴などの情報は備わってはいるものの、実際に国はもちろん、彼らを目にしたことがなかった。
コルジールでは謎に包まれた敵国、としての認識ではあるが、ここでは友好国とのこと。見方によって、また接し方によって、印象が異なることは十分承知しているからこそ、実際に生きた情報を得たかった。
「(そういえば、その先の空き地にサーカスが来ているそうよ)」
「(サーカス?)」
「(えぇ、曲芸とかをするそうよ。せっかくだし、見に行きましょうよ!)」
サーカス、と言われてアクロバティックな技をする人々を思い出す。私も見るのは幼少期ぶりだが、そもそもカジェ国でそう言ったことをやる団体などいただろうかと脳内の引き出しを漁っていく。
「(ほら、早く行きましょうよ!)」
「(ちょ、待っ!わかったから、引っ張らないで!)」
思い出す間もなく、アルルに手を引かれるがまま後をついていく。クエリーシェルにも道中で軽く説明すると、素直に頷いてついてきてくれるのだった。
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