第31話 爆弾発言
「そういえば、ヒューベルトは大丈夫だったのですか?ステラ様を迎えに行った際は、元気そうでしたが」
「えぇ、峠は越えたから、問題ないかと思うわ」
「ちなみに原因は?」
「アレルギーよ」
「アレルギー、ですか?」
馴染みのない言葉に、首を傾げるクエリーシェル。無理もない。医師でさえ馴染みのない病気など、クエリーシェルが知る由もないだろう。
アレルギーやアナフィラキシーのことを説明しつつも、ヒューベルトの意思を尊重して、彼がアトピー性皮膚炎だということについては伏せておく。
いくらクエリーシェルの口が固いとは言え、なるべくなら知っている人が少ないに越したことはないはずだ。
「そういう病気もあるんですね、知りませんでした」
「奇病みたいに珍しいものだからね。まぁ、治ればいいんだけど。アレルギーに関しては、治らない場合が多いみたいだから厄介なのよ」
「なるほど」
「ふぅん、そういう病もあるのね。私も初耳だったわ」
ふんふんと、隣でお茶を啜りながら頷くアーシャ。自身は既に昼食を済ませたらしく、私の隣に腰掛けてお茶と軽食だけいただいているようだ。
「アーシャでも知らないことあるのね」
「そりゃ、もちろん。知らないこともたくさんあるわよ。おかげさまで、ステラみたいな波乱万丈な生活はそもそも送ってないしね」
言われて確かに、と納得する。
そもそも、自分みたいな生き方はイレギュラーだろう。皇子や皇女が国が滅んだことによって国を取り戻すために冒険をする、なんて物語もあるが、実際滅ぼされた国の王族は処刑か奴隷として売り出される。
私は上手く帝国の魔の手から逃れ、生きていることはある意味奇跡とも言えるだろう。そして、こうして生きながらえているのは、無駄なプライドなど持ち合わせず、柔軟に対応できたからと言える。
そして、運良くクエリーシェルに拾われたことと、アーシャのおかげで得た幅広い知識のおかげで、このように王命で船旅ができている。そう考えると、やはり私は悪運だけは強いのだと改めて思った。
(知識は武器。まさしくその通りの人生ね、私)
「私は国のことや民のことに関しての知識はあるけど、ほとんど
「確かに、私があのままペンテレアにいたら知る由もなかったことでしょうね」
いくら当時自由気ままな姫であったとしても、そういう知識を手に入れられるほど民と親しくなったり、民と同じような生活を送ったりするようなことはなかっただろう。
あくまで王族と民は別なもの。
人という括りでは同一ではあるが、権威や階級制度のある現代では決して同一になることはできないものである。
「経験しないに越したことはないけど、ステラの経験は生きている、ということね」
「そう、ね。そうだと、いいけど」
「とりあえず、そういう病気があることを知ったことに関しては礼を言うわ。ありがとう」
「どう、いたしまして?」
何だか、ここのところアーシャと距離感が縮まったような気がする。普段なるべく近寄らないようにしていた、というのもあるが、何となくこの距離感も嫌いではない、と思った。
「さて、食事もそろそろおしまいでしょう?本題の明日のことだけど、明日は言っておいた通り、アルルとの国内散策に付き合ってちょうだい」
「わかったわ」
ちらっとクエリーシェルを見ると、了承したように頷く。だが、雰囲気的にあとでまた部屋で懇々と説明せねなならなそうだった。
「明日のうちにそれぞれ密偵として情報集めに送り込んでいた者達が帰ってくるから、明後日には戦況やゴードジューズ帝国の現状などをお話できると思うわ」
「ありがとう」
(さすが、こう言う部分に関しては仕事が早いわね)
先日私がカジェ国に行くと決めてから、既にコルジール王からカジェ国に根回しをしておいたらしい。さすが賢王だけあって、抜かりがない。普段、のんべんだらりとしているのが嘘のような仕事ぶりだ。
「ということで、朝になったら宮殿の前で待ち合わせね。その際には、変装をよろしく」
「は?変装?」
言われる意味が分からず、思わずオウム返しをしてしまう。
アルルが変装するというのはわかるが、なぜ私達も変装をする必要があるのか。私達が異人だというのは、この国の人からしたら一目瞭然だろう。
だが、このカジェ国は貿易が盛んな国。そうそう見た目が違うからと言って何か怪しまれたり、コルジール人だと特定されたりなどはしないだろうに。
そもそも、特定されたところで何も問題はないはずだが。
すると、少しだけ目を逸らしたあと「言い忘れてたわけではないけど、今ちゃんと言うわね」と何やら勿体ぶった言い方をするアーシャをジッと見つめる。
「カジェはマルダスとも貿易交流があるのよ」
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