第8話 丸洗い

「(ようこそ、いらっしゃいましたステラ姫。先日のコルジール国での訪問では、きちんと挨拶ができず、申し訳ありませんでした)」

「(いえ、あの時は色々と訳がございまして、こちらもきちんと挨拶できず、申し訳ありませんでした)」


謁見の間。普段目にするような西洋風の広間とは違い、東洋テイストの宗教色の強い広間だ。


装飾も宝石などではなく、主に刺繍や模様などを利用し、細部まで装飾が施されており、豪華というよりも艶やかと言った表現に近い感じである。


壁や天井のいたるところに彩られた、普段目にしないような彩色も、華美であるものの、芸術性に溢れていて、どれほど見ても飽きないほど美しいものだった。


(綺麗。ずっとじっくり見ていられる……)


調度品が好きな自分としては、このような普段目にしない東洋テイストのものは気になって仕方ない。だが、一応来賓であるため、さすがに不躾だと、見るのは程々に抑えておく。


(いけない、いけない。アーシャがいるのだもの、気は抜けないわ)


こちらでは履き物は脱ぐため裸足であるが、足元も綺麗で豪奢な絨毯が敷き詰められており、触り心地もとてもよく、普段から念入りに手入れされていることがよくわかった。


(まるで、動物に触れているくらい素敵な触れ心地)


もふもふしたいくらいに足に纏うその感触は、とても心地よいものだった。


「(アーシャに聞いて驚きました。まさか、あのペンテレアの姫が貴女様だったなんて)」

「(隠し立てするようで、申し訳ありませんでした)」

「(いえ、とんでもない。ある程度の事情はこちらも察しております。そうそう、今回のご訪問、義父や義母もステラ姫が来ることをお喜びでした。今夜晩餐会に参加されるそうなので、よろしくお伝えしておけ、と言付かっております)」

「(まぁ、ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします、とお伝え願えないでしょうか?)」


とりあえず、当たり障りのない会話をする。


今回の日程としては、見合いと主な戦況の確認と各国の動向の話だ。


カジェ国は貿易が盛んで、特に主な貿易品であるスパイスは各国からの需要が高く、様々な国と交易がある。


そのため、情報がとても集まりやすい。なので、まずは見合いの人材を船から下ろし、かつ先にある程度の情報を得るために最初に訪れたのがこのカジェ国だった。


「もう、そんな堅苦しいご挨拶はいいわ。ステラ、暑いでしょう?ちゃちゃっと着替えるわよ」

「は?」

「郷に入っては郷に従え、というでしょう?ほら、ちゃっちゃとしなさいな」

「え、急に、何よ……っ」


そう言って、私のところへ来るとさっさと背中を押したあと、腕を絡めてどこかへ連行しようとする。


「そっちの護衛?さんもお着替えなさったらどうかしら。(アジャ、まずはそういうことで)」

「(キミがしたいようにしてくれていいぞ)」

「アーシャ、ちょ……っ、ま、急に……!」

「あぁ、ちなみにアジャはあんまりコルジール語はわからないから通訳と私がフォローするので、コルジール語で会話してもいいわよ。てことで、また後でねー!」


早々にアーシャのペースで別室へと連れて行かれる。去り際、呆然としているクエリーシェルの顔が見えた。


(早速クエリーシェルと離れ離れになってしまったが、大丈夫だろうか)


敵陣ではないとは言え、あまり言葉が通じない中で放っておいて大丈夫だろうか。元々人嫌いな人だ。少し不安になってくる。


「ねぇ、ステラ。さっきの、彼氏?」

「はぁ!?」

「いやー、道中楽しそうにしてたみたいね?」


そういえば、港で歓迎してくれた女性が何やら視界端でアーシャに耳打ちしてるとは思っていたが、そういうことか。


(執事長もちらっとクエリーシェルのことを見てたし、先に根回ししてたな……!)


ニヤニヤと、あからさまにからかう様子のアーシャに腹立つ。気を引き締めたはずなのに、その気は呆気なくどこかへ行ってしまった。


「いいじゃない、いい人見つかったみたいで」

「別にそんなんじゃ……っ!」

「あら、そう?……そんなこと言っていいのかしら?あの人、この国ではモテるわよ?……ふーん、まぁ、ステラがそのスタンスなら構わないけど」


明らかに揺さぶりというか、悪い部分が全面に出てるアーシャ。わざとらしく煽るように不敵な笑みを浮かべる姿は、さながら悪女のようだ。……妖艶な、という表現がつくほど美しいのが癪に触るが。


腕を組まれて拘束されているため、逃げることはできず、そのまま何やら衣装部屋のようなところへ放り込まれる。


「ちょ、扱い……雑!」

「いいじゃない、貴女はちょっとやそっとで壊れるようなタマじゃないでしょう?でも、ほら、せっかく我がカジェに来てるなら、ね?そんなもの着てないで、おめかししてみなさいな」

「はぁ!?」


言いながら、いつの間にか現れた侍女らしき人々に囲まれる。ずらっと並んだ彼女達が、逃げ道をなくし、私はただジリジリと迫ってくるのを見てるしかできなかった。


「さて、まずは丸洗い。その後はお着替え。(さぁ、やっておしまい!)」

「ちょ、アーシャ!きゃあ……っ!!まっ!!!」


そのまま侍女達に服を剥かれ、丸裸にされる。そして、そのまま湯船に連れて行かれると、どぼんと湯船につけられ、まるで野菜の丸洗いかのようにたくさんの手に洗われるのだった。

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