第58話 マメな男
小屋に入り込んだ葉や枝を片付け、塵や埃などを掃いていく。ちなみにこれは、きちんと施錠していなかったことにより汚れていた汚れなので、案外早く片付いた。
だが、こういう施錠などに関しては徹底しておかないと、後々に危機管理能力を問われる部分ではある。
ここでもし、誰かが火の不始末をして、山火事などになってしまったら目も当てられない。
(山火事なんて起こしたら、下手するといくつかの村や街が焼かれることになる)
かつての自分の故郷を思い出す。あの新緑が眩しい木々に覆われた自然豊かな大地は、帝国の野焼きによって姿を消した。
最後に見た真っ赤に燃え盛る木々は、そこで親しみ深くよく遊んでいた自分にとって、多大なトラウマを与えた。
燃え盛る炎は何もかもを飲み込み、あれで多くの命が失われたことだろう。今や国を見ることすら叶わないが、そこには恐らく私の記憶とは違った光景が広がっていることだろう。
(最低でも、火の取り扱いはきちんとさせないと)
きちんと気を引き締めなければならないところはきちんとしないと、戦場でも困ったことになるだろう。
ということで、その旨をクエリーシェルに伝えると少し苦い顔をしながら、ガサツなやつが多いからなぁ、とぼやきながら頭を掻いていた。
(まぁ、マメな人はいないでしょうね)
クエリーシェルとニールは男性の割に比較的マメな方だが、それ以外は恐らくズボラでガサツなのだろう。
基本的にこの国では女性はマメであることが多いが、男性は良く言えば大らかだが、悪く言えば適当且つ大雑把だ。
これは恐らく国民性なのだろう。男性は細かいところは気にしなくて良いと教わっている家庭が多いため、仕方ないと言えば仕方ないが、なかなかどうにも処理する方は大変である。
軍でもある程度の統率はしているだろうが、個々の性格まではどうすることもできない。特に今までやっていなかったことをしろと言うのは、かなり難しいと言えるだろう。
(念のため、今後の不在時にその辺りを教育してもらうように国王に進言しておこう)
こう言ったことの指導に長けているのは、恐らくニールだ。
私が知る中で彼が最もマメな人間である。クエリーシェルの右腕とも言われているくらいだ、地位もそれなりにあるので指導する立場としては適任であろう。
(普段口煩いところも、今回は評価ポイントね)
あの小姑のようなネチネチさでビシバシしごいてもらいたい、と思いながら、小川から汲んできた水を使ってテーブルなどを拭く。
クエリーシェルが火起こしの準備をしてくれている間に、だいぶ片付いたので、そろそろ食事の準備に取り掛かろうとクエリーシェルに声をかける。
「とりあえず粗方片付け終えましたので、食事の準備に取り掛かってもよろしいでしょうか?」
「あぁ、もう片付いたのか。さすが早いな。こちらも煙突の掃除も終えたし、もうすぐ終わりそうだ。火起こしが終わったら食事にしようか」
「はい。ではご用意を終えましたらお声がけしますね」
「あぁ、頼む。今回はリーシェとロゼットが手作りしてくれたのだろう?楽しみだ」
「えぇ、前回の教訓を生かして先に挟むのはやめました」
前回のピクニックは馬を走らせすぎてサンドイッチがグチャグチャになってしまったので、今回は具は具でまとめて持ってきた。なので、これからまた挟んで仕上げる作業が残っている。
「私は火起こし以外にやることは?」
「特には。一応馬の様子を確認していただけるとありがたいです。できれば、食事と水を与えていただけると助かります。水は先程汲んできましたので玄関近くに置いてあります」
「わかった。では、火を起こし終えたら馬の世話をしよう」
そう言うと、クエリーシェルは火起こしのために薪を取りに行く。
(こうやって、素直に私の言うことを聞いてくれるのはありがたい)
そういうところが優しいと思うし、好意を寄せるポイントでもある。
(そういえば、今日はまだ一度も触れてない)
ちょっと残念な気持ちになりながら、「いやいや、私ったら何を考えてるの」と小さく独りごちながら自分自身に突っ込む。
そして、頭を振って邪念を振り払うと、今日の目的はただのピクニックではないのだと、きびきびと昼食の用意に勤しむことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます