囚われた世界から、夢の外側へ

オイスター

囚われた世界から、夢の外側へ


ここが誰の夢の中かもわからない。ただ、この剣を振るい、悪魔をなぎ倒していく。僕は、石の塔の螺旋階段をひたすらに登り続ける。道の途中ではばかってくるガーゴイルたちを、一太刀で仕留めながら突き進んでいく。息を切らし、もうすぐ、塔の最上階へと辿り着く…

そこには、すみれ色のクリスタルに囚われた少女がいた。少女は多面体のクリスタルの中で、祈りを捧げるように手を組み、夢を見ている。クリスタルに触れると、ここではない世界の情景が浮かぶ。

「君を悪夢から救い出そう…」

僕は、剣でクリスタルを切り裂き、少女を救い出す。

「ありがとう。なぜか助かった気がしたわ。何か悪い夢を見ていた気がするの。」

「礼には及ばない。この悪夢も終わらせよう。」

僕たちは、夢の外側を目指した。


黒髪をボブヘアーにカットしている少女は、片手にダガーを持っていた。少女は、あくびをしながら言う。

「これも、明晰夢とか言うやつなのかしら。」

「夢の定義をはっきりしないといけないよ。どこが、夢の出発点たる意識かなんて、わからないんだから。」

よくわからない会話をしながら、僕たちは、この夢の支配者の元へ向かった。


「この世界は余のものだ。誰にも渡さない。」

幻想の権威をまとった王が、世界の支配者の宣言をする。奴がこの夢の支配者であることは間違いなかった。大体の場合、その夢の中で一番得をするやつが、その世界の支配者だという。絢爛豪華な宮殿の中で、戦意すらない近衛兵たちを斬り伏せた後に、少女は言う。

「よく覚えてないけど、あなたのせいで嫌な思いをした気がするんだけど。責任を取ってくれる…?」

「下衆どもが…余の領土では、余に服従するのが絶対。痛みで躾けてやろう。」

王の体は、痩せ細っていた。もはや骨と皮だけだ。しかし、服装は、この上なく高価そうな金品で固められており、包み紙の方が豪華な肉のような虚しさを放っていた。王は煌びやかな剣を抜き、こちらに斬りかかってきた。僕は、ロングソードで受け止める。その瞬間、王の剣は、ボロボロと崩れ落ちてしまった。

王は動揺すら見せず、虚空から新たな豪華な剣を抜きだした。今度は少女に斬りかかるようだ。少女は、ヒラリとかわし、王の剣は地に叩きつけられ、またしても崩れ去った。僕は反撃に出た。剣を王の肩めがけて、袈裟斬りを放つ。しかし、王は、煌びやかな槍を構えて防いだ。槍は脆くも崩れ去った。

「これじゃあラチがあかない…」

王は、高価そうな武器を山ほど召喚してきた。黄金の剣、銀の弓矢、白金の槍、金剛の短剣、翡翠の斧…しかし、そのどれもがもろく崩れ去っていった。

しかし、王は、ついに本気を出した。大量の金目の武器を召喚し尽くし、その全てを魔力でコントロールし、こちらに放ってきた‼︎その全てを交わしきれず、僕たちは幾らかの傷を負ったが、傷口からは、なぜか、砂金やら宝石が溢れてきた。傷ついたのは、僕たちの体の方ではなく、武器の方だったのだ。

精一杯の王の威嚇も虚しく、僕は、王の首をはねた。しかし、首だけになって玉座に座る王が語った。

「この夢から出ても、新たな悪夢の中に囚われるだけだ…目覚めても悪夢からは逃れられない…夢の外側に、また大きな夢があるだけ…夢は連鎖するのだ…」

「そうだな。どうせ、この世界も嘘なんだろ?気飾るだけ、虚しいだけさ。」

「虚しいから人は飾り立てるのだ…」

「人はそれを虚栄って言うんだぜ?」


僕は、目を覚ました。見覚えのない世界で戦っていた気がする。体には、キラキラと光る砂つぶが付いていた。

「やっと起きたのね。行きましょう。」

「今度はなんだっけ?」

黒髪でボブヘアーの少女から話しを聞くと、力で人を支配する暴君がいるそうだ。また、いつものロングソードを持ち、暴君の住む城へと向かう。


城下町では、沢山の筋骨隆々の男たちが、乱痴気騒ぎの乱闘を繰り広げていた。城に行くには、全員倒さなくてはならないらしい。僕たちは、人を正面から殴り倒すことしか能がない脳筋どもを背後から斬り伏せていく。そうこうしているうちに城についた。

城では、人間の数倍の大きさはある大男が、待ち構えていた。彼の素ぶりや佇まい、風貌を見るに、チャンピオン的存在らしい。この世界では、体格と腕っ節だけで全てが決まるようだ。

「全く、乱暴な世界ね。」

少女が呆れている。そういえば、ここの世界の人々は亜人とでも言うべきか、人に似ているが、獣っぽい特徴を持ち、言葉を持たなかった。身体能力も人間のものというよりかは獣のそれに近い。

暴君は唸り声を上げ、猛スピードで突進してくる。自動車のようなスピードだ。壁にぶつかっては、大小の穴を開けながら直進を繰り返す。あんなのにぶつかったら、体が壊れてしまう。僕は、ロングソードを構え、暴君を待ち受けた。暴君は挑発に乗ったように一直線に直進してくる。しかし、暴君が直進し尽くした時、すでにそこに僕はいなくなっており、壁の穴に固定されたロングソードに暴君は体を貫かれた。暴君は唸り声を上げ、倒れた。しかし、僕も、この戦いで、ガラスの破片を浴びたせいで、右手の人差し指の腹を切ってしまった。少し、傷ついただけだが。

まあ、目が覚めれば、忘れているだろう。


僕は、目覚めた。長い夢を見ていた気がする。この、2019年現在の日本は、概ね平和だ。しかし、身に覚えのない傷を、僕は右手の人差し指に抱えていた。何かあったのだろうか…?思い出せない。

いつものように家を出ると、記憶にないが、どこか懐かしい少女と目があった。黒髪でボブヘアーの少女だ。他人だから、挨拶もしないけれど。彼女は、僕と目が合うと、なぜか何かを期待したような表情を浮かべた。だが、僕が困惑すると、彼女は自分の道へと去って行った…


目を覚まし、自分が夢を見ていたと自覚したとしても、その「覚醒した意識」さえ、夢を見ているかもしれない。今、夢に囚われていないという証明は、誰にも出来ない…

夢はどこから来て、どこへ消えるのだろうか…?

ーー全ては連鎖する誰かの夢の中かもしれない…

連鎖する夢の始まりは、どこに存在するのか…?

ーーこの世界の外側に、外なる世界が存在するかもしれない…

この夢の外側には一体、何がある…?

ーー目覚めても悪夢からは逃れられないのではないか…?

僕たちの生きる世界も、誰かの夢…?

ーー僕たちが夢を見るように、高次世界の存在も夢を見るのではないか…?

なぜか、そんなことを目覚めてから考えるのであった。


ーーおや、誰かが目を覚ましたようだ…人類が構築した世界は、一瞬にして崩れ落ちていった…長い悪夢は終わり、また、新たな悪夢が始まる…世界は夢の中に囚われている…

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