第7話 どっちが強いか
「取り敢えず、要らない物は戻してこい」
「そんなのないよー!」
「じゃあこれは? 『縞鉄板457×954・2枚入り』て書いてあるけど」
「うぐ!」
「使うのか? 鉄板」
「……その。髪飾りに」
「2枚も?」
「……うぐぐ」
「戻してこい」
「ぎゃ——!」
カートの籠がぽんぽこりんになった。大体、セレネが持ってきた訳の分からない商品だった。
なんで生活用品買いに来て、建材・金物コーナーへ行くんだ。
「……これも。なんでこの季節にプールなんだよ」
「あはは。セレネったら」
「いや、これはアルテが持ってきたろ」
「……あははあ」
「戻してこい」
「はーい……」
空気を入れたらプールになるやつ。なんでこれを持ってきたんだよ。どこでいつ使うんだ。春にはすぐ日本を出るって言うのに。
この3人での生活は、3ヶ月だけなんだから。
テンション上がりすぎだな。いや、突っ込み待ちかもしれん。
1時間でよくこれだけバリエーションのあるボケを持ってきたな。
なんかこの辺も母さんの血を感じるぞ。
——
「ふむ。でも一理あるかもな」
「へっ?」
結局、両手が埋まってしまった。やはり車で来て良かった。
ホームセンターを出て、再度車に乗り込む。
勿論、セレネが助手席に飛び乗った。
「ふたりさ。どっちか髪留めてみたら?」
「なんで?」
「見分けが……って、失礼だけどさ」
いや、鉄板は付けないけども。
ふたりとも、同じ顔で同じ髪で、長さも同じだからな。
知らない人からしたら見分け付かないかもしれない。
「フミ兄は見分け付いてる?」
少し不安そうな顔で俺を見るセレネ。
「付いてるよ」
「じゃーいーじゃん」
「周りの人から見て、ってことだ。これまでそんなこと無かったのか?」
「まあ、無いと言われれば嘘ですねえ」
「えー。要るかなあ」
「ちょっとその頭のやつ脱いでみろよ」
「はい」
「はーい」
ふたりとも、修道服の頭巾を取る。いや頭巾て言うのかも知らないけど。
「…………」
さっきまでちらちらと見えていた金髪が完全に露になる。
思わず見とれるほど綺麗なんだよな。母さんは普通に黒髪だったんだけど。この子達の父さんが金髪だったんだな。
背中に掛かるくらいの長さ。これはロングなのか? セミロング? 女子のそういうの分からん。
「うん。やっぱり服も買わないとな」
「えっ! 買ってくれるの!?」
セレネがまた目をキラキラさせた。この子はなんでも嬉しそうに楽しそうにするよな。こっちまで嬉しくなってくる。
「修道服も良いけど、それは日本だと目立つんだよ。良くも悪くも。だから、こっちで生活する用の私服も買おう」
「良いんですか?」
「ああ。次いでにヘアバンドとかヘアゴム買ってさ。どっちかツインテールにでもしてみたら?」
「似合う?」
「俺は似合うと思うけどな」
「どっちが?」
「えっ……」
どっちが、って。
そりゃどっちも似合うんだろうけど。
困ったな。
ふたりとも髪を留めると本末転倒になってしまう。
「セレネ」
「んー?」
「これは『どちらがヘアゴムをプレゼントされて、ツインテールになれるか』という勝負ってこと」
「なにー!」
「いや、違うぞ」
「むむむ……!」
ばちばちと。
ふたりの間で火花が散り始めてしまった。
「えーと。じゃあ一方がヘアゴムでツインテールな」
「うん!」
「で。もう一方がヘアバンドってことで」
「なにー!」
両者に違いを付ける。
そして、どちらにも特別感を出す。どちらもご褒美になるようにな。
「よし。それじゃ出発だ」
走り出す。
時間的に、先にお昼食べても良いかもなあ。
「ど、どっちが強いの? アルテ」
「……う。分からないわ。……くっ」
まあ、その辺は適当に考えよう。
「お兄さま」
「んー?」
「どっちがお兄さまの好みですかっ?」
「どっちも」
「……!!」
可愛いなあ、妹。
なんか凄く楽しい休日だ。
——
「じゃんけんぽん!」
「あいこでしょ!」
「あいこでしょ!」
道中、ふたりはずっとじゃんけんをしていた。
勝った方が選べるらしい。
「やった! わたしの勝ちー!」
「ふん。じゃあ選んでよセレネ」
「よーし。…………」
「どうしたの。早く」
「ぅ…………。ふ、フミ兄っ」
「んー?」
「どっちが好きなのっ?」
「どっちも」
「ちゃんと答えてよぉ~」
だが決まらない。
この様子を見てても面白いんだが。
「お前達は、どっちが良いとか無いのか?」
「無いよっ」
「はい。お兄さまが好きな方が良いです」
そう来るわけだ。
仕方ない。変に喧嘩になっても嫌だしな。
「そうだな~……」
こういうのを考えるのも、結構楽しい。それにまあ、選らばなさ過ぎるのもあれだしな。
仕方ない。
「明るく活発なセレネには、元気な印象のツインテールは良く似合うかもな」
「えっ!!」
「落ち着いた性格のアルテには、そのままのストレートで充分魅力的だと思うぞ」
「……お兄さまっ!」
まあ敢えてその逆ってのも全然アリなんだけども。ていうかこのくらいの女の子は何しても似合って可愛いと思うんだが。それがハーフなら尚更。
「……まあ俺の個人的見解だけどさ。それで良い?」
「フミ兄っ!」
「うわっ! やめっ! 運転中だから!」
セレネが助手席から飛び付いてきた。吃驚した。危ない危ない。
「……アルテは?」
「ありがとうございます。嬉しいです」
「良かった」
まあ髪型なんていつでも変えられるしな。暫定ということで。
「……ていうか女の子の髪の編み方? 結い方? なんて知らないな。覚えないと」
「やってやってー! フミ兄!」
「まあ最初はお店の人に教えて貰おう」
「アルテも覚えますっ」
そういえばずっとスルーしてるけど、下着とかって大丈夫なんだろうか。
いや、なんていうか。
まあまだ10歳だし大丈夫か(?)
いざとなれば美裟に訊こう。頼もう。
うん。
——
「ふたりとも、日本食は?」
「たまにママが作ってくれたよ」
「なぬ。俺は母さんに作ってもらったことなんてないぞ」
「あちゃー。あんなに美味しいのに」
「なぬー」
「アルテ達だって、そんなに食べたことないでしょうが」
そうかそうか。ならお昼は日本食で行こう。
「服屋さんっ!!」
到着した。大型ショッピングモール。俺ひとりだと年に1度くるかどうか。服なんてその辺の安いやつで良いしな。普段制服だし。
またしてもセレネが——いや。
今度は、アルテの方が目をキラキラさせていた。
「あのな。一応言っとくけど、さっきみたいな『シュートし放題』って訳じゃないからな。取り敢えず3~4着くらいだ。慎重に選んでくれ」
「はいっ。ほらセレネ、行くよっ。お兄さまもっ! 試着見ていただかないとっ」
「ほいほーい」
「…………やれやれ」
アルテがセレネの手を引いて——いや、腕を掴んで飛んでいく。こっちはアルテがテンション上がるってのも面白い。見た目は瓜二つの双子だけど、全部そっくりって訳じゃない。
時に、3~4着ってどうなんだろう。女の子なら少ないのかな。俺個人だと多い方なんだが。
金は……まあ、日本での生活があと3ヶ月と考えると結構使えるけど。
「お兄さまーっ。こっちこっちー!」
「はいはい」
まあ、多少の色なら付けよう。
今日は記念すべき、3人で初めての買い物だしな。
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