第88話 一石二鳥→一石一鬼
えーと、みんな帰っちゃったみたいなんだけど。
…………。
この地獄絵図はどうすりゃいいんだろね?
『市長』
「セリスさん!」
『まずはハバメヤメ城に向かってください。レンドンド王がお待ちです』
「え?」
『大丈夫です、既に話はついていますので市長は承認だけしていただければ』
…………。
「あの、何かすごく不安なのですが」
『ご安心ください、市長の期待を裏切らないお話ですから』
……………。
不安しかないな。
『ご主人さま』
ん? 鳳仙さん?
「どうかしましたか?」
『お城に向かう前に少し寄ってほしい場所があるのよ』
「寄ってほしい場所ですか?」
『そう。面白い
面白い?
鳳仙さんにとって面白い人か……駄目だな変な方向以外で想像つかない。
『えーとお城から北西の海にちょっと大きな船が浮いてるはずだから。甲板に穴が2つ空いてるから直ぐにわかると思うわ』
「わかりました」
『よろしくね』
うーん、鳳仙さんの話もあんまり良い予感がしないんだよな。
探したけど見つかりませんでしたで誤魔化すか?
『ご主人さま、おいたはは嫌よ』
……。
「はい」
はぁあ。北西にいる穴の空いた船ね。
「ジラーテさん、北西の方に少し飛んでもらえますか?」
〈わかった〉
お、ちょっと離れれば炎の海もなくなるんだな。
賛否両論ありそうだが、早めに紅さんを止めた意味はあったと思っておこう。
しかし頻繁に人前で口づけとか、さすがに恥ずかしすぎるからな。今後はなるべく言葉で止まってほしいところだけど。
お、あの船か? 確かに甲板に二つ穴が空いてるな。
「ジラーテさん、三隻の船が見えますか?」
〈ああ〉
「あの中で甲板に大きな穴が二つ空いている船に近付いてください」
〈わかった〉
お、人が出てきっ、危な。なんか撃ってきたぞ。
話ついてるんじゃないのか鳳仙さん。
〈燃やすか? 王様〉
「いえ、鳳仙さんに確認しますので少し待ってください」
〈うーん、さっさと八つ裂きにした方が早くないか?〉
ソフィアさん達のも大概だけど、ジラーテさんもなかなかアレだな。
〈ああいうチマチマした連中は苦手なんだよ。うるさくて〉
ああ、あれか。木の下通るとなぜか纏わりついてくる虫みたいな感じか?
「構いませんけど、ジラーテさんが鳳仙さんに説明してくださいよ」
〈う。それは……。わかった、我慢する〉
「それが賢明だと思いますよ」
〈紅様だけでもあり得ないのに、ほんとうに王様のところは化け物だらけだな〉
貴方もその一員ですけどね。
「何をしているの! 直ぐに武器を下げなさい!」
お? 何か背丈と外見に反比例した迫力のある女性がでてきた。
「しかし!」
「はああ。ただてさえ手負いの私達がレハパパの火竜に勝てるわけがないでしょう?」
「ですが、ふべ!」
ぶん殴った!?
「他に意義のあるものは? さっさと名乗りでなさい、次は拳ではなく私の大剣で真っ二つにしてあげるわ」
ああ。わかる、わかりたくないけどなんとなくわかる。鳳仙さんが言っていたのはこの人だ。
「ジャーメレナ様!」
な!?
あの、おっさん阿呆なのか!?
〈ちょっ、王様!?〉
くそっ、間に合えよ!
「あら」
くうううっ、間一髪。
この人、本気でぶったぎりにきやがった。鳳仙さんのスーツじゃなきゃ俺も真っ二つだ。
「申し訳ないわね。だけど、まさか私の愚かな兵のためにその身を呈すなんて、貴方変わってるわね」
いきなり部下を真っ二つにしようとする人に変わってるとか言われたくないんだけど。若干凹むわ。
「それにしても、なぜ肩口で私の剣を? そしてその両手は一体?」
そこには触れてほしくなかったところだ。
ちょっと調子にのって、白羽取りやったら失敗しただけだからな。
「それに、愚かな兵も役に立つというのを初めて知ったわ」
?
「こうして直ぐにお近づきになれたもの」
ひいいいいいいっ!
ヤバい、この人はヤバい。俺の直感が今すぐサヨナラしろって言ってる。
「それで貴方は私をどうするおつもりなのかしら?」
「どうする?」
「ええ、あの男に言われた通りおとなしく待っていたのよ」
???
「まさか意味もなく女を待ちぼうけさせた、なんてことはないわよね?」
鳳仙さん、なんでこんな面倒くさい人を。
「まさか本当になにもないの?」
ひいい、ソフィアさん達とはまた違うプレッシャーが。あえて言うなら激しいセリスさんか?
「あら、その上、別の女性のことを考えていたりしないわよね?」
鋭い!?
だがしかし、鍛えられた俺の精神ならば!
「もちろんですよ」
この程度、ポーカーフェイスで乗り切れる!
「ふん、まあいいわ。それで私を待たせた理由は何かしら?」
しまった。理由、リユウ、りゆう、何かあるか。そもそも鳳仙さんは何を言ったんだよ。
あれでもない、これでもない、えーと、よしこれだ!
移住契約書っ!
「待っていただいたのは、皆さんにこの契約書にサインいただこうと思いまして」
「契約書?」
「私の治める領地への移住契約書です」
「失礼、拝見させてもらうわ」
よし、なんとかごまかせた。
この契約書の性質を考えるとこの人達はサインできないだろうからな。穏便にこの女性から逃げる理由もできて一石二鳥だ。
「あら、勝手にペンが出てくるのね」
!?
「これで晴れて私も貴方の領地の一員ということね、My Lord」
マイロード? え? あれ?
「呆けているところ申し訳ないけれど、あと300枚ほどこの契約書を出してもらえないかしら?」
ああ、石が鬼にあたって鳥が二羽とも逃げてしまった。しかも鬼は残るとか…………。
まさに一石一鬼!
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