第72話 スーツの力 その2

「おかえりなさいませ、市長」


「ただいま戻りました、セリスさん」


 今回もひどい目にあったな。あれは何死って言うんだろな?

 とりあえず、後で宰相さんはきっちりりとつめるとして。


 なんで彼女が?


「あの、彼女は一体」


「彼女はルチア様。本日からこの御屋敷のお世話をしていただける方です」


 えーと。


「たしかラモーンさんの御屋敷のメイドさんだったはずですが」


「ご存知だったのですか」


「ええ、次の目的地の件でラモーンさんに相談に伺った時にお会いしました」


「なんでも水中ではなく陸での仕事を覚えたいそうで」


 ……ああ、もしかして。


「あのセリスさん、別件になるのですが教えていただきたいことが」


「私の下着は黒ですよ」


 まあ、そんな感じはしますけどね。


「あとは赤と無色がございます」


 赤に……無色!?

 まさかセリスさんも履いてないの!?


「もちろん一部は冗談ですが」


 一部?

 どこからどこまで!?


「それも冗談です」


 結局冗談なの? 本当なの!?


「ぶふ」


 はあぁぁぁあ。

 もう男心を無駄に困惑させないでくれよ、本当に。


「全く別件です。ガッツォさんとファウスティーナさんの住んでいる場所が水中なのか陸なのか聞きたかったんですよ」


「お二人はドックのすぐ側に住居を構えていらっしゃいますよ」


 やっぱりか。

 ルチアさん、諦めるつもりは毛頭ないってことね。なんとも逞しいメイドさんだ。


「セリスちゃん、ちょっと相談がって。あら、ご主人さま。おかえりなさい、お早いおかえりね」


「ええ。新しく訪れた先がなかなか過酷な環境でして」


「あらあら。前回は水中で今度はどんなところなのかしら?」


「今回は多分火山の中だと思います」


「多分?」


「ええ、なにせ到着して直ぐにあまりの熱さで死に戻りましたので、本当にそうなのか確信がないんですよ」


「ご主人さまってば行く先々が過酷な環境の場所ばかりね」


「全くです」


 ああ、そうだ。ちょうど鳳仙さんに聞きたいことがあったんだ。


「それでですね、その事で鳳仙さんに教えていただきたいことが」


「あら? 一体なにかしら?」


「鳳仙さんが作ってくれたスーツのことなのですが、確か多くの耐性があるとのことでしたよね」


 刃物も魔法もブレスも天災もって話だったからな。


「ええ、それがどうかしたのかしら?」


「その、今回の死に戻りの原因は先程言ったように熱なのですが、これはブレスや魔法のようには防げないものなのでしょうか?」


 そう。これで死に戻りしたってことは、炎の魔法や炎のブレスを受けたときにその熱によるダメージは防げない可能性があるからな。


「なるほどね、ご主人さま大丈夫よ。魔法やブレスで発生する熱ならそのスーツはしっかり防いでくれるわ」


「魔法やブレスで発生する熱なら? どういことでしょうか?」


 熱にも種類があるってことか?


「あのね、魔法やブレスの熱や冷気って全て魔力によって作られているの」


「魔法はわかりますがブレスもですか?」


「そうよ。ブレスみたいな何らかの現象って魔力を元に発現されているのよ。だって体の中で炎やら冷気やらを作るって、なかなか難しいと思わない?」


「確かに、普通に考えると難しそうですね」


 それに体内にそんなものを蓄えるなんてリスクも大きそうだしな。体内に炎袋とか、暴発しそうで怖すぎる。


「そう。だから火を吹いたり雷を起こしたりできる生き物ってね、魔力を使って何らかの現象を起こす、そういう外部器官を持っているだけなのよ」


 なるほど。


「ということは、魔法もブレスももしかしてスキルの類いも呼び方が異なるだけで同じものということでしょうか?」


「そこまで単純でもないけれど、概ねそんな感じよ。それでさっきのご主人さまの死に戻りの話にもどるのだけれど」


 そうだった。半分くらい忘れかけてた。


「ご主人さま、たしか火山の中って言っていたわよね?」


「ええ」


「そういった元々の地形による様々な諸条件、例えば熱いとか寒いとかね。そういのは魔力が元ではないから、そのスーツでは防げないのよ」


「なるほどでは火山のマグマに落ちれば焼死するし、極寒の氷原に出れば凍死するということですか」


「そういうこと。ただそのスーツ自体は燃えもしないし凍りもしないけどね」


「へ?」


「それはそうよ。そのスーツ何でできていると思ってるのよ」


 えーと、たしかソフィアさんとか紅さんたちが魔獣だった時の素材が中心……。


「なるほど」


「そういうこと。頑丈さでいえば、そのスーツの方がご主人さまよりはるかに頑丈なのよ」


「中身の私がこのスーツの能力についていけていないということですか」


「そ、ソフィアちゃん達ならマグマも氷原も落雷も特に気にしないわよ」


 基準がソフィアさん達なのはいろいろとあれだけど。


「まだまだ、精進が必要ということですか」


「そ、だから頑張ってねご主人さま」


 えーと、この両肩に乗せられた手は、やっぱりあれですかね。


「では鍛練でござるな、御屋形様」


 ですよね、ソフィアさん。


「とりあえずマグマ程度にどうこうされないくらいには鍛えぬとな、我が主よ」


 それは多分足を踏み入れてはいけない領域だと思うんですが、紅さん。


「ぷっ、クス」


 どっから出てきたんですかルチアさん。


「いってらっしゃいませ、市長」


 久しぶりに真っ黒な笑顔ですね、セリスさん。


「が、頑張ってきます」


 今日も死に戻り祭かぁ。

 許すまじ、宰相さん!

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