第52話 イベント発生?

 これ、気絶してるんだよな?

 みんな目が開いたまま、漂ってて怖いんだが。


 その辺にこの人達が使ってた槍があったはず……。


 お、あったあった。

 こいつの柄でっつんつんっと。


 …………。

 どいつも反応はないか。


 となると、このままにしておくのは不味いよなぁ。

 魔獣が出て来て襲われても申し訳ないし、まずは漂ってる人達を一纏めにするか。


 流石に人はアイテム欄では運べないしなぁ。

 アイテム欄になにか良さげなものはあったかな?


 うーん、流石に荷車とかはないか。

 こういうこともあるし、今度、鳳えもんに作ってもらおうかな。


 それはそれとして、なにかいいアイテムは……お、ロープみたいなやつ発見。

 えーとなになに【竜の髭】か。ってこれもしかして紅さんの?

 まあいいや結構な長さもあるし、丈夫そうだしロープの変わりになりそうだ。


 よし、まずは漂ってる連中を一ヶ所集めるか!


 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼


 ふう、水中だし気絶してるし簡単かと思ったが、結構大変ったな。


 それに目が開いたまま、ひっくり返って漂ってる腕つきの人間サイズの魚だからな。重い軽いの前に精神的にきつい。

 B級ホラーの映画を実体験してる気分だった。


 まあ、それはそれとして、取りあえずこいつらを竜の髭で連結させてっと。


 …………。


 うん、あれだな20人の腕つき魚が揺らめいてて、田舎の鯉のぼりみたいになってるな。

 ま、人?魚?命救助だし、気にしても仕方ないだろ。


「貴様、何をしている!」


 お、丁度いいところに。


「申し訳ありません、みなさま気絶されてしまっているようで。手を貸していただけませんか?」


「な? 陸地の者だと?」


「いえ、今はそれよりもこの方達のほうを先に」


「何を言っている。この惨状は貴様が原因ではないのか?」


 まあ俺が原因と言えば原因だな。


「無言ということは、肯定ととらえるぞ」


 って、笛?

 早っ!? 応援呼ぶの早っ!


 ああ、またわらわらと。


「気を付けろ。既に複数の守備隊員がやられている」


 えーい、もう面倒だ。


「何か出したぞ、気を付けろ」


 さっきと同じくらいの威力なら問題ないだろ。


「な!? 踏み潰し、ぐおおおお!」


 よし、成功。やっぱりこれくらいの威力ならこっちに被害はないな。

 ちょっと門が壊れた気もするけど、問題ないだろ。人?魚?命優先だし不可抗力ということで。


「な、正門が。それに守備隊の連中も」


 げ!? またかよ。

 そして、笛吹くの早っ!


 ああ、またまたわらわらと。


「おい、応援にきてもらって悪いがお前は騎士団に応援を頼んでくれ。どうやら、一筋縄ではいかなさそうだ」


 へー、海中なのに騎士団があるのか。タツノオトシゴにでも乗ってるのかね?

 っと現実逃避してる場合じゃないな。何とかしないと。


「あの、申し訳ありません」


「な!? こいつ何故海中で話ができる」


 …………。


 あと何回このやり取りをすればいいんだろうな?


「第一騎士団だ! 第一騎士団が来てくれたぞ!」


 なんだ……これ。


 でかいダツに3人一組で掴まる銀色の腕つき魚達。


「状況は?」


 でかっ、そして派手っ。

 銀色の鎧にも銀色魚頭にも金細工みたいな模様入り。鎧はいいけど頭はあれ刺青か?


「既にかなりの数の守備隊がやられています」


「ふむ」


「そして、対象は海中で話ができるようです」


「なんと。だが会話ができるのなら、まずは相手の素性の確認。その上で警告ではないのか?」


 おお、初めて冷静な人が出てきた。


「駆けつけた時には既に守備隊が気絶していたので、私にはなんともわかりかねます」


「ふう、任務に忠実なのはわかるが。申し訳ない、陸地から来られた方。もし話が通じるのならば、お話を伺うことは可能だろうか?」


 とりあえず話は聞いてもらえそうか?

 まあ、あの人?魚?以外がえらい殺気だってるし、油断はできなさそうだけど。


「大丈夫です。こちらも無駄に争うつもりはありません」


「それは助かる。私はラモーン、マーリダーレ第一騎士団の団長を勤めている」


「私は僻地の荒れ地の領主兼冒険者をやっています、ⅩⅣ狼と申します」


「なるほど……領主様でしたか。ですがなぜ他国の領主様がこの様なところへ? しかも見たところ、お一人のようですが」


 う、確かに。


 国交も交流もないような場所で、領主の肩書きがある人間がフラフラしてるとか明らかに怪しいよな。しかも1人で。


 となるともう一つの肩書きだな。


「先ほども言ったように、私の領地は僻地にありましてね。お恥ずかしい限りなのですが、領主自らが冒険者をしながら稼ぎを作らなければならないのです」


「なるほど、それはなかなか大変ですね。ではもう一つだけ教えて頂きたい」


「なんでしょうか?」


「なぜ貴方は私達と会話が可能なのでしょうか?」


 えーと、これはあの貝を見せればいいのか?

 ただ見せることが悪手の可能性もあるしな、どうするか。


「質問にお答えいただけると助かるのですが」


 おっと、どうやら悩む時間もなさそうだ。

 おだやかな言葉とは裏腹に、ラモーンさんの殺る気が充ち溢れて来てる。

 まあ、最悪の最悪でも死に戻りだろうし、ここは悪手になっても構わないか。


「これのおかげです」


「ん? なっ!? その貝は。そんな、まさか……」


 どうしたんだ? なんだか想定していた反応と違うな。


「領主殿、その貝をどこで?」


 さっきとはまた違う凄みがあるんだが。これはもしかして最悪の最悪だったか?


「む、これは申し訳ない、警戒させてしまいましたね。こちらとしては領主殿に危害を加えるつもりはありません。ただ、その貝の出所を教えて頂きたいだけです」


 ラモーンさん? なんか切羽詰まった感じなんだが。


「この国の存亡に関わることなのです、どうか教えていただけないでしょうか?」


 国の存亡?

 でもこの表情と声色は、どうやら本気みたいだ。


「先ほどまでの無礼は後程如何様にしていただいても結構です。ですから領主殿」


 ちょっ、ラモーンさん。近い近いよ、そして瞬きしないその魚の目が怖いよ。


「わかりました」


「ありがとうございます」


 既に訳がわからん状況だし、これ以上無駄な混乱は避けたいところだ。となると、ガッツォさんのことまでは話さないほうが良さそうだな。


「この貝はここから大分離れた、色の違う海の巨大な魔獣を倒した際に手に入れた物です」


「それはもしや多くの骸を配下に置いておりませんでしたか?」


 骸の配下? ああ、あのうじゃうじゃ出てきた骸骨達のことか。


「そうですね、色々な生き物達の骸骨達がいました」


「なんと……領主殿。最後に確認ですがその魔獣は複数の足を持ち、それぞれの足から渦を作り出す魔法を撃ってきませんでしたか?」


 あれ魔法だったのか。それにしてもラモーンさんえらい詳しいな。もしかして対峙したことがあるのかね?


「その通りです」


「それを領主殿が討伐されたと」


「はい」


「第一小隊」


 !?


「は!」


「今すぐ魔の領海に向かえ! 何か変化があれば直ぐに報告しろ!」


 ???


「領主殿。申し訳ありませんが、もう少々お付き合いいただけますでしょうか?」


 よくわからんけど、これはイベント発生ってことか?

 なら、断る理由はないな。


「わかりました」


「ありがとうございます。それではどうぞこちらへ」


 さあ、鬼が出るか蛇が出るか。楽しませてもらおうか!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る