最近の冬は温暖化の影響で冬ソングが染みない件
藤紗
第1話 最近の冬は…
街が華やかに彩られている。
聞こえる音楽はクリスマスを連想させるものばかりだ。
少し冷たくなった指先で冬を感じ始める。
そろそろ、本格的に衣替えもしなきゃなとショーウインドウを眺めた。
指先をすり合わせて、息を吹きかける。
冷えてしまった鼻先にジンと滲みた。
空中に向かって息を吐く。
吐いた息が白くなら
「ない…?」
こんなに寒いのに?
そういえば駅前の電光掲示板は天気や気温が出てたはずだ。
「14℃…」
意外と暖かい。
待てよ。いま、12月の初旬だぞ。
手元のスマホで、12月の平均気温を調べたら12℃と出た。
思ったより暖かいと認識してしまったら、思ったよりもこの寒さが大したこともないように思えてきた。
待ちゆく人たちは、一様に厚着をしてシャッキリとした背筋で歩いている。
みんな、厚着をして、歩いていれば寒くないってことか。
すれ違う人の中には、コートを着てない人もいることにようやく気づいた。
もしかすると、衣替えは必要ないのでは…?
そんな訳はさすがにないだろうと、その足でウニクロに足を伸ばした。
目的のものは程よく使えるパーカーだ。
店内は、クリスマス商戦をすでに始めていて、各所に、ツリーだとかトナカイだとかがいる。
メンズは2階だな。
エスカレーターを上がり、見えてきた光景に一瞬ギョッとした。
去年よりさらにマネキンが着ているコートがモコモコしている気がする。
マネキンでも着膨れするんだと変な感心をしてしまった。
元々が暑がりのためそんなに厚着はしたくない。
売り場をうろうろするが、どのコートも、どのパーカーも裏がもこもこしている。
普通のパーカーはないのだろうか。
肌着売り場も全体的にもこもこしている。
なんだこれ。
売り場の店員に声をかけ、裏がもこもこしていないパーカーはないのか問うてみた。
「ご案内しますね」
と、案内された商品棚は非常にこじんまりとしていて、取り扱いが少ないのが見て取れる。
「秋口だったらもう少しあったんですけど、いまはここだけですねー」
店員は俺が呆然としていた表情をみて声をかけてくる。
そうか、俺が欲しいのは秋服なのか。
とりあえず、使い勝手のよさそうな黒のパーカーを手に会計へ向かい、支払いを済ませた。
外に出ると、電気屋の大きなスクリーンから冬ソングが流れてくる。
暖房が効きまくった店内から出てきたせいで、身体はぽかぽかだった。
歌詞は「冷たい手」とか「雪」とか冬らしいフレーズにあふれているけれど、14℃じゃなぁ。
感傷にも浸れない。
最近は、めっきり聞かなくなった音楽に久々に耳を傾けてみるのもいいかもしれない。
幸い明日は休みだ。
一日かけて、懐かしのメロディーや今流行りの冬ソングを探すのも楽しいかもしれない。
何度も夜の公園で回し聞いたあの曲に思いをはせながら、家路を進む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます